仮の乙女と二人の男子〈沙入〉
コンビニで買ってきた昼飯を軽めに取った後、流河は早速ルキアへの変身を始める、と言って店のトイレの横にある狭いパウダールームに籠った。
ここ、カーテンで仕切ってあるだけの空間。
流河のやつ、俺には絶対に覗くなよって、めっちゃきつく言い含めてから入って行った。
そんなこと言われると余計見たくなるじゃん?普通。
そういうのなんかの昔話にあったよな。
流河はカイルに会った日も、自分一人で変身したって言ってた。
ねーちゃんがやってるのをずっと見てたし、練習台にもなってたから自分でももう上手く出来るらしい。
但し、ねーちゃんほど手際よく出来ないから時間がかかるという。
俺はなにげにギターを奏でながら流河を待つ。
このカーテンの中からほんとにルキアが出てくんのか?
そわそわしてる俺。
遅っせ‥‥‥‥‥あれこれ、もう籠ってから40分も経っている。
カイルが来る午後1時まで、後30分弱だ。
「おい、流河間に合うのかよ?」
俺はむずむずしちまってガッとカーテンをめくってしまった。
「!」
急にカーテンを開かれてびっくりして振り向いたのはルキアだった。
「ったくー!まだ細かい仕上げがまだだっちゅーの!見んなっていったじゃん!」
綿棒を片手に俺に文句たれてきた。
「‥‥‥‥もう出来てんだろ、それ。」
「今日は言うなればルキア最期の日だからな。念入りに。ちょっと清楚系にアレンジしてみたぜ。どうよ?」
俺に向かってアイドルタレントのショットのような手のしぐさを顔の横に添えてふざけて微笑む流河。
おまえこれ、好きでやってんじゃんね?前よりさらに可愛くなっちゃってる。
「それで十分だろ?早く散らかってるメイク道具片付けろ。」
俺はすぐさまカーテンを戻した。
ったく、流河。人の気もしらねーでチャラいことしてんじゃねーよ。
俺はルキアになった流河を見た一瞬、心臓にズッキンって痛みが走った。
これ‥‥‥‥‥、カイルが見たらどう思うんだろうな‥‥‥‥‥‥
「じゃーん!俺、完璧じゃん?うぇーい!」
流河がカーテンの中から出てきた。
自分がルキアだとバレたとわかったらもうこの態度。
‥‥‥‥‥流河のこの単純明快でわかり易いとこって時にはイラっと来るよな?
でも‥‥‥‥‥嫌いじゃないぜ。
二人きりで密封された部屋。
だからって俺はルキアを意識してる場合じゃない。
もうすぐカイルが来る。
よっしゃ、こういう時はギターだ。
「よっし、流河。ギター持て。Fコード、セーハやってみろ!」
「ええっ、俺まだ指がさぁ、痛てーよー。」
「すぐ慣れる、そんなのっ!」
俺はルキアを意識しないように振る舞った。
そうこうしてる内にカイルが時間通りにやって来た。
「よお!待ってたぜ。」
俺は珍しく爽やか系男子みたいな、で対応。
またこいつと張り合ってる場合じゃない。
流河にはさっさとカミングアウトしてもらってさっさと終わらそう。
こんな茶番劇。
「‥‥‥‥ここは?」
カイルが戸惑ってる。店ん中珍しそうに見回してる。
だよな。こんな店、普通中高生は来ねーし。
「俺の母さんがやってるスナック。ロック好きが常連。母さんがそうだから。」
ギターを抱えた流河にカイルの目線が定まった。
「ルキアもギターを?」
「あ、うん。まだ超初心者だけど。カイルは何か楽器は?」
流河はルキアの声で答えた。
「俺は特に何も‥‥‥‥。」
「ふーん。カイルはかっけーしな、ベースやればいいのにな?沙入、そう思わない?」
ったく、何急に言い出してんだ?流河!
俺はそんな気ねーからな。いくら見かけだけ格段イケてたって流河をハメたやつなんて!
「‥‥‥‥‥まあ、ルックスは合格だけど、他はわかんねーな。」
俺は角が立たないよう適当に合わせておく。
「そっちのボックスに3人で座ろうぜ。これ、そっちに持ってけ。」
俺は3人分のグラスとスパークリングウォーターを用意してカウンターテーブルに置いた。
ギター練習は終了し、テーブルについた俺たち。
さて、さっさと流河に話してもらおうか。
「水籠、俺ルキアと二人で話したいんだけど。」
カイルが俺を見た。
‥‥‥‥‥こいつ、いきなり俺にジャブ。
「‥‥‥‥‥俺、邪魔かよ?」
俺はカイルにガン飛ばす。
これじゃ最初の爽やか系やってみたの台無し。
「ルキアが俺に何らかの嘘ついるんだろ?それを聞くのに水籠は関係ない。」
カイルがうっざそうに俺を見る。
「いや、それに至ったまでの経緯に関係あるから。」
「それに俺はルキアだけに話したいことがある。ルキアは俺の彼女だぜ?」
「‥‥‥‥‥‥‥だってよ?流河、どうすんのこれ?」
俺はカイルと俺の様子を見て、小首を傾げてる流河を見た。
こいつ、またもや空気読めてねぇ‥‥‥‥
「えっと、そんじゃあれ‥‥‥最初にカイルの話を聞いておくから。そうしないと‥‥‥‥‥あれじゃん、沙入。」
確かに流河がカミングアウトした後ではもう話にはならないだろうな。
「カイル、15分もあればいい?」
流河がカイルに聞いた。
「‥‥‥‥‥まあ、とりあえずはね。」
カイルは不満げだったがこれが落とし所だ。
「わかった。じゃあ、俺は15分外に出てる。時間通りに戻って来るからな。」
俺は流河をカイルと二人にすんのは心配だったが、仕方ない。スマホに15分カウントダウンスタートさせてから店を出た。




