The bottom of my heart 〈ロメル〉
夕食の準備を終えて、私は自分の部屋のベッドの上でくつろきタイム。
さっきカイルが帰ってきたみたいだったけど、どこに行っていたのかな?
もしかして、彼女とデートだったりして。うふふ。
洗面台の方からやけにガシャガシャ音がするわ。
何か洗ってるのかな?
私、今回の沙入くんとの失恋で考え直したことが幾つかあるの。
一つはカイルのこと。
最近ははっきり言ってうざくてうとましく感じる時もあったけど、今は兄妹の絆というか、兄妹愛に触れたような気がするの。
私が辛い時、何にも言わなくても、わかってくれてた。
何も聞かずにいてくれた。そしてただ一緒にいてくれた。
私、それだけでもずいぶん救われたの。ありがとう、カイル。
すごく見直したわ。
だから私、カイルに彼女が出来た時には私、目一杯応援してあげるね。
で、もし失恋しちゃった時は、カイルが私にしてくれたようにそっと慰めてあげる。
まあ、あのカイルが振られることなんておこるかわかんないけど。
トントン。
「俺。」
あれ、カイルが私の部屋に。何かな?
「カイル?どうぞ。」
「ロメル、夕食の用意サンキュー。」
顔を覗かせたカイル。
「何の用?」
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
「‥‥‥‥‥‥うん、何?」
なんだろ?なんかいつもと違う雰囲気。カイルがベッドの端に座って真面目な顔して私の方を向いた。
「ある人に頼まれたんだ。ロメルに伝えて欲しいって。水籠のことで。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ある人?」
沙入くんのことで私に伝えたいこと?誰?
「だからってロメルはもう水籠と関わんなよ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥なあに?いったい。」
「ロメル、水籠に他に付き合ってる子がいると思ったんだろ?でも、それは誤解だ。ロメルは裏切られてたわけじゃないってこと。ロメルは裏切られてたわけじゃないから傷つく要素なんてないって。その人からの伝言。 」
「‥‥‥‥‥それ、昨日二葉ちゃんのおうちで流河くんからも聞いたの。もう、いいのよ。そんなこと、どうだったとしても。まさか、流河くんがカイルにも頼んだの?私に伝えるように。流河くんよね?そんなことまでしてくれてたの?もしかして流河くん‥‥‥‥沙入くんのことじゃなくってほんとに私のことすっごく心配してくれてたんだ‥‥‥‥‥!」
‥‥‥‥‥‥それ、流河くんからだ!
昨日、二葉ちゃんちで二人でお話してた時、お兄さんが入ってきて途中になってしまった。
それきりだと思ってた。なのに、カイルに伝言を頼むなんて。
カイルから直接私に伝えてもらえれば私が耳を傾けると思ったのね?
流河くん、カイルのこと知らないし大変だったんじゃないかしら?きっと二葉ちゃんを通して頼んだんだわ。
そこまでして私のこと気遣ってくれるなんて!
‥‥‥‥‥‥それって流河くん、少しは私のこと?
「『ルカくん』って誰?ロメル知ってるの?」
カイルは流河くんのこと直接は知らないのね。
「え?うん。沙入くんの親友よ。カイル、流河くんに頼まれたんでしょ?」
「水籠の親友って『ルカ』っていう女の子なのか!」
「何言ってるの?流河くんは男子よ。流河くんって言ってるでしょう?」
やだ、カイルったら流河くんのこと女の子だと思っていたのね。まあ、『るか』
なら男女どっちもあり得るものね。
「‥‥‥‥‥‥どんな人?」
「どんなって‥‥‥‥‥‥流河くんはすごくいい人よ。カッコいいし、ぶっきらぼうに見えるけど実はすっごく優しいの。うふふ。」
私を助けて護ってくれた流河くんの背中。
私を引っ張って走る力強い手。
思い出しちゃった‥‥‥‥‥
あの後流河くんと二葉ちゃんが耳を引っ張ったりしてじゃれ合っていたから私、ちょっと二葉ちゃんにジェラシー感じてた‥‥‥‥‥
そうなの、最近、二葉ちゃんはお兄さんの話が少なくなってきた分、流河くんの話題が多くなって来てる。
二葉ちゃん、もしかして‥‥‥‥‥‥?
これって‥‥‥‥‥‥今、気になってる。
カイルが立ち上がった。
「‥‥‥‥‥‥ふーん?ま、俺ちゃんと伝えたぜ。聞いたな?ロメル。忘れんなよ。俺、絶対言ったからな。日記に書いとけ。あー、腹へったな。先に食っちゃおうかな、俺。」
カイルが私の部屋から出て行く。
なんか変。ま、いいけど。
いつもはもっと私とおしゃべりしてなかなか戻らないのにどうしたのかしら?
私、昨日二葉ちゃんのおうちでスイーツパーティーをして、その時に二葉ちゃんについに話したの。沙入くんと別れた時の状況。その後の気持ち。
二葉ちゃんは真剣に聞いてくれたの。
二葉ちゃんのアドバイスは、『俯瞰するといいよ。』
二葉ちゃんによると、幽体離脱して、神様気分になって下々を見下ろすといいらしい。
そうすると気付かなかったことに気付いたり見えたりするんだって。
ちょっと難しいわ。自分のこと自分から離れて見るなんて。
でも、夕べ寝る前に、暗い部屋でベッドで横になりながら、あの私の運命の日のこと、小白くんと麻井くんにしつこくされてコンビニ前で流河くんに出会って二葉ちゃんと合流して沙入くんに告白されるまでの一連の出来事を順に思い返してたの。
そして、クリスマスイブの沙入くんとの苦い出来事も。
その時、二葉ちゃんが言っていた言葉が‥‥‥‥ふっと思い浮かんだの。
『でもね、夢はいつか醒めるんだよ。』
俯瞰。
そう、その子は沙入くんの織り成す素敵な魔法にかかってる。
とても、ロマンチックでスイートな心地よい魔法に。
他の気持ちを凌駕してしまうほど強力な魔法に。
そう、そして無意識の内に気がついてる。その子。
自分は魔法にかけられていること。魔法にかけられたコアの無い気持ちのままの自分では沙入くんのほんとの心の中を全く見ることが出来ないってことに。
沙入くんの表面にしか触れることしか出来ないってことに。
だから‥‥‥‥‥‥聖夜を迎える前に、沙入くんの聖なるロザリオは持ち主に戻ったの。
その子は沙入くんのロザリオにふさわしくないわ。
ねえ、あなた、そんなふわふわした想い、ちょっとしたことで宙に散ってしまうのは当然だわね?
そして魔法が解けた後、すべてを凌駕してしまった素敵な魔法が消えた後に、その子に見えてきたのは‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥流河くんへの想い。




