確定〈沙入〉
俺はルキアをここでで待つこと三日めだ。
流河の疑惑に心を掻き乱されたあの日から俺は毎日夕方5時半ごろにここに立っている。
俺がルキアと恋をした場所に。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ‥‥‥‥‥
誰かの足音。
小道のカーブの向こう側から。
突然足音が止まる。
俺は外灯に寄りかかったまま首だけそちらに向けた。
‥‥‥‥‥‥‥ルキア。
本当はもう現れないって思ってた。だけど、俺はここにこうして来ずにはいられなかった。
流河に直接問いただす前のセレモニーとして。
「‥‥‥‥‥‥ルキア、待ってた。ずっと。」
外灯のポールに寄りかかったまま俺はルキアに言う。
「あの日と同じ時間にここに来ればもしかして会えるかもって。あれから毎日来てた、俺。ここ、俺たちの想い出の場所。」
俺はあの時の流河の気持ちが知りたい。
どういうつもりだったのか。
「ルキア、話がある。」
俺はすごく緊張してる。確定させるの怖れてる。
でも。
「‥‥‥‥‥なあ、そのスニーカー。」
俺はかなり努めて切り出す。
ルキアの表情の変化をじっと見ながら。
「俺の知ってる男と全く一緒。お揃いだぜ?」
ルキアは黙ったまま相当狼狽してる。
俺はは寄りかかったポールから背を起こしてルキアに向き合う。
「考えられることは3つ。1つ‥‥‥‥‥超偶然に流河とルキアはナイキの同じシリーズ同じ色のスニーカーを買って、超偶然に同じシューレースを選んで、超偶然に独特の同じ紐の通し方をした。」
俺はルキアに近づきながら言う。
「2つ‥‥‥‥‥ルキアと流河は前から付き合ってて、おそろで揃えてた。」
‥‥‥‥‥‥俺はルキアの目を捕らえる。
そして、今、確定の時。
俺の胃の辺にズンっと落ち込んだような痛みが来たが、俺は構わずルキアの左手を不意に掴んだ。
「そんで、3つ目、‥‥‥‥‥‥‥‥」
俺はルキアの手袋を引き剥がす。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
ルキアは指先を隠すように手を握って下を向いた。
俺はルキアの手首をひねり上げてひらかせる。
‥‥‥‥‥‥ああ、これでもう。
わずかに残された否定する要素さえ消えてしまった。
ルキアは流河じゃないって言えるわずかな可能性が。
これは流河の手。
ギター初心者の手。
俺の知ってる流河の手。
遂に俺は確定させてしまった。
「‥‥‥‥‥‥‥どういうことだよ?流河。」
俺に左手首を掴まれたまま、ルキアの姿の流河の目から涙がこぼれた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ごめん、沙入。」
何泣いてんの?
愛しのルキアにやっと会えたってのに、俺、どうすりゃいいっての?
「‥‥‥‥‥‥‥‥なんで女の子になってた?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥こういう女装趣味があったのかよ?」
「ちっ、ちげーよ!それはぜってー違うからっ!」
むきになって流河が否定した。
「じゃあ、何で?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥これは‥‥‥クリスマスパーティーの時の余興だったんだ。そのままつい外に出ちまって‥‥‥‥‥二葉さんを家に送るついでにこの公園に寄った。そしたらナンパされて‥‥‥‥困ってたとこに沙入に助けられて。」
なんだよそれ?くっだらねーことしてんなよ!
お陰で俺は‥‥‥‥‥
「俺‥‥‥‥‥あの時、沙入が俺だって気づいてると思ったんだ!こんなカッコしてても沙入なら判ったんじゃないかって。だから助けてくれたんだって‥‥‥‥‥‥そう思ったんだ。でも、違ってて‥‥‥‥‥‥‥」
俺はあの時流河だって気づいていなかった。
でも、無意識に流河を感じていたのかもしれねーな。あの、シンパシー。
「‥‥‥‥‥‥‥‥で、今度は俺が流河をナンパしたってか?」
俺は相変わらず綺麗なルキアを見ながら自分をせせら笑う。
俺、本当は今だって『ずっと会いたかった‥‥‥』、そう言って抱き締めたいくらいだぜ?
「何でそん時、黙ってた?ほんとは流河だって。」
「言えるわけねーだろっ!あのシチュエーションで!俺だって、あれが俺だなんて誰にも知られたくなかったし、あの時はもう二度とこんなカッコする気さえなかったんだから!」
じゃあ、今日はルキアの格好で何してたの?まさか男とデートでもってか?
「じゃあ、今日はなんでまた?」
俺のことたらしこんで夢中にさせといて騙したまま後はシカトか?
なんのフォローも無しで。
そんで、今日はまたまた女の子の姿になって?
あきれるぜ!
お陰で俺は、俺は!
俺はルキアの顔をした流河の、掴んだままだった左手首を引っ張って俺に引き寄せた。
キス寸前まで俺に引き寄せる。
ずっと知りたかったことを今こそ流河に問う。
なんで、俺にキスを許した?
俺は無理やり女の子にキスしたことなんてない。
俺とあんなキスをしておいて、よく平気な顔してまた俺とギターなんか弾けたもんだよな?流河に戻ってさ。
俺、あれがルキアが俺の想いを受け取ってくれたものだと、俺とルキアの恋の始まりだと思ってたんだぜ?
今だって、愛しいルキアが目の前にいるから‥‥‥‥俺は‥‥‥‥俺の心は流河に、ルキアに踏み荒らされてる。
「それに‥‥‥‥流河、何で俺の‥‥‥‥‥‥アレ、拒まなかったんだ?されるがままに受けやがって‥‥‥‥‥‥だか‥‥」
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ‥‥‥‥
誰かが走って来る。
「ルキアっ!俺、探して‥‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥‥、あっ!おまえっ!水籠じゃないかっ!何でっ?」
何でこんな時にこんなとこにロメルのあんちゃんが?
ルキアを探してって‥‥‥‥‥?
そうか!
流河は今日はルキアの姿でこいつに会ってたんだ!
何で?
何つながりで?




