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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第2章
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疑念〈沙入〉

3日前の出来事。

 俺はクリスマスイブから二日後、『アウトサイダー』で流河と過ごしていた。


 俺はギターを抱えたままうすぼんやり。


 ルキアのことばかり頭に浮かんでいた。


 一方、流河も始めたばかりのギターそっちのけ。真剣な顔でスマホで誰かとチャットしてるようだ。


 こんなんじゃここにいても意味ねーじゃん。俺ら。


 俺だってこの分じゃ当分腑抜けになりそうだし。ルキアから連絡来ねー限り。


 今こそ俺らには休息は必要だろ?


 流河の手だってギターの練習でひどいことになってるし、ちょうどいい。


 俺は流河に提案した。



「おい、流河。上の空じゃん。俺もおまえもさ、いまいち調子でねーよな。年末だしさ、明日から年明け3日まで練習休もうぜ。あー、でも、家で基礎続けてろよ。いいな。」



 流河は間髪入れずに同意した。


「わかった。じゃ、俺もう帰るわ。掃除しようぜ。」


「そうだな。」



 やっぱ流河もプライベートでなんかありありみてーだな。

 スマホにかじりついちゃって。

 密かに女の子口説いてたりして?


 俺は流河の整った横顔を密かにチラ見しながらにやけてる。



 流河は自分のこと非モテと思ってるみたいだけど、実際は違う。



 こいつは空気、全然読めねーっつうか、読む気ねぇやつだから誰かに好意を寄せられても気づくことがまずない。


 そこいらの女子がさりげなく好意を示した所で素通りされてしまうのがオチだ。


 だからといって『ねえ、池中くん、ちょっといいかな?』なんて女子が下手に声をかけたら、


『は?女子が俺に何か用?俺わかんねーから他のヤツに聞けよ。』


 大抵は不機嫌な顔でこう返される。


 別に流河は不機嫌ってわけではないんだけど、面倒くさがってるようだ。


 流河は無自覚のままクラスの女子を何人も玉砕している。


 ほんとは筋トレとか密かにしててちょっと暑苦しいヤツなんだけど、そういうとこは周りには見せない。


 その涼しげな眼差しと妙な男臭さを見せないスマートなスタイルで実際には流河に憧れている子たちはけっこういる。


 女子が遠くから俺らを見てきゃぴってんの、流河はあいつらみんな俺を見てるって思てるみたいだけど、実際は俺と流河両方を見てる。


 噂によると俺のちょい危なくてヤバそうな雰囲気と流河のイケメンなのにストイックって組み合わせがいいらしい。


 嗤えることに中には俺と流河の仲を怪しんでる腐女子も結構いるらしい。


 そういうの、同じクラスの俺と気の合う男子の湯川が教えてくれる。


 湯川もバンド結成目指してるヤツだけど、俺とは方向性が違う。


 あいつはメジャーデビューに憧れてるけど、俺は違う。


 俺は先ずはネット上で自ら自分の音楽をプロデュースするつもりだ。時がきたら。


 ちょっと実験してみたことがある。でも、今はまだまだ準備段階だし、実力もない。スキルもない。これからだ。


 流河は今、声変わりで悩んでいるみてーだけど、あいつの才能は俺が知っている。大丈夫だ。

 今、無理に歌ったら声帯に悪影響だろうし。流河はちょっと休んだ方がいい。


 俺はその間、流河にギターを始めることを勧めた。流河だってある程度弾ければ音に厚みも出る。


 この先、メンバーが集まらなかったら取り敢えずは足りない音はパソコンで作ればいい。妥協して気に入らない奴を入れるよりいいだろう。

 俺はメンバーに妥協する気はない。


 それなりの才能とやる気と‥‥‥‥後、これ重要、それなりのルックスが必要だ。


 スポーツ選手だって、エンタメ全般だって、女子アナだってクラスの中だって犬だって、猫だってスポーツカーだって何にしたって人気が出るのは基本見た目いいやつだろ。世の中どう見たって。

 中身と同じだけ見かけだって大切だぜ?見かけより中身だなんていう立派な奴ら。

 きれい事だけ並べる上辺の体裁なんて、リアルじゃ通じねーだろ。



 だから。


 俺は、流河さえ、俺の横には流河さえいてくれれば、それで基本俺は。

 俺の大切なバディ、流河。俺と先に進んでいくのはおまえ。俺と張り合えるのはおまえだけ。




 今日は練習はもう終わりにして、掃除を始めようと店のドアを換気のため開け放った流河。俺はギターをソフトケースにしまいながらなにげに流河を見た。



 ふと、目が引き付けられた。


 流河のスニーカー。その煌めく派手なシューレース。


 カスタマイズしたんだな。


 あれ?‥‥‥それ、他でも‥‥‥‥‥‥見覚えがある。


 それって‥‥‥‥‥ああ、そうだ。あん時見た。ルキアのスニーカーもそうだったよな。


 確か、変態おやじに会ったとかで走って逃げて来た時、俺の前で結び直してたから印象に残ってる。その目立つカラー。シューレースの通し方も、よくあるあの通し方とは違っていたから。



 俺は近づいて流河のスニーカーを見た。


 あれ?‥‥‥‥同じ?‥‥‥ナイキの人気シリーズ。同じ色。黒とグレー地にライトグリーンの縫い目。


 え?


 ルキアと全く同じ?シューレースまで?通し方まで?



 嘘だろ?



 そんな偶然?




 俺はもやもやと不鮮明なわだかまりを感じたまま上の空で掃除機をかける。


 流河は普段通り、あちこちを拭いてる。



 掃除が終わると流河は『じゃ、今度は4日に来るからな!それって来年じゃん。ま、俺がいねー方が沙入には世話かかんなくていいかもな。たまにはさ。ゆっくりしろよ。じゃーな!』



 流河は笑って手を振って出ていった。


 流河、おまえ‥‥‥‥?



 流河を見送ってから、俺の中に妙な違和感がさらに増大してゆく。周りの空気がよそよそしいというか、しっくり来ないというか、俺一人浮き立ってしまったようなへんてこな感覚に陥った。



 これって‥‥‥‥‥‥‥‥俺の心に渦巻く疑念のせい。まさかの可能性。








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