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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第2章
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水籠の涙〈カイル〉

 俺との約束に現れなかった水籠(みごもり)がこんな所に!



「おまえっ!直前でびびって俺から逃げてこんな所に潜んでたのかよ?嗤えるぜ。水籠(みごもり)!」


「‥‥‥‥‥何言ってんの?あんた。」



 水籠(みごもり)はイカれているやつを見るが如く、軽蔑の口調で俺を見下している。


 俺を恐れて逃げていたくせに、見つかったしまった水籠(みごもり)はもはや開き直ってしらばっくれている。



 涙でほほを濡らしたルキアが俺を見ている。



 なぜ、ルキアは水籠(みごもり)と一緒にいる?偶然なのか?


 それとも、約束を?


 そんなことまさかあるわけない。


 今しがたビビって敵前逃亡した水籠(みごもり)と待ち合わせなんて。


 それに俺とルキアはついさっき誓いのkissをしたばかりだ。



 ルキアは偶然ここで会った水籠(みごもり)に捕まり、言い寄られて俺に助けを求めて涙を流していたんだ。



「ルキアを放せっ!水籠(みごもり)!」



 俺は水籠(みごもり)に左手首を掴まれて泣いているルキアの右腕を掴んで引っ張った。



「うわっ!」


 ルキアがよろめいた。



 それなのに水籠(みごもり)は、ルキアを放さない。


「ルキアを放せ!水籠(みごもり)!」


「‥‥‥‥嫌だね。あんたにかんけーねぇだろ?いきなり何だよ?あんた。」


 水籠(みごもり)はあごを上げ、下目で俺を蔑んだ目で見て挑発してきた。


 なんて男だ!


 俺から逃げておきながらルキアの前では虚勢はってんの?痛いヤツだな。



 外灯に照らされてルキアを挟んで俺と水籠(みごもり)は睨み合う。




 ルキアは水籠(みごもり)と俺にそれぞれ両側とも掴まれて、間で戸惑っている。



「おいっ!止めろって!沙入、カイル。」


 ルキアは泣いていたせいか、ガラガラした声で言った。




 通りかかった一組のカップルが、にやにやしながら俺たちを見て通り過ぎて行った。



 だが、俺はルキアの右腕を放すわけにはいかない。今、誓い合ったばかりの女の子を。



 ふと、水籠(みごもり)が俺の顔を見て言った。


「‥‥‥‥‥おまえ‥‥‥くちびるに付いてんの‥‥‥‥‥まさか‥‥‥」



 俺のくちびるに?


 俺は空いている右手の甲で口を拭った。


 あ、俺の手の甲が透き通ったピンク色と微細なシルバーのキラキラで光っている。



「‥‥‥‥おまえっ!こいつに何しやがったっ!」



 水籠(みごもり)はルキアを放したと思ったら、いきなり俺の胸ぐらを掴んで来た。



 俺もルキアを放した。


 巻き添えで怪我でもさせたら大変だ。



水籠(みごもり)には関係ないだろ。ルキアはただ、お前のギターのファンってなだけなんだから。ルキアは俺の彼女なんだ。俺たち、誓い合ってんだからな。」



 俺が言うと、水籠(みごもり)はぎょっとしたようにルキアを見た。



「‥‥‥‥彼女って‥‥‥‥‥おまえ‥‥‥‥何で?」


「‥‥‥‥それは‥‥‥‥」



 水籠(みごもり)の視線に戸惑いを浮かべるルキア。



 この二人?  




「で、誓い合ったって?何を誓い合った?」


「はんっ。俺とルキアの愛に決まってんだろ?それに‥‥‥‥」


「‥‥‥‥愛?‥‥‥‥‥それに?」


「俺はロメルを傷つけたおまえをフルボッコにしてやりたいとこだけど、手出しはしない、それはルキアに誓ったから。俺は水籠(みごもり)に報復しないってな。俺らの神聖な誓いでなっ!」


 俺は右手の親指で自分のくちびるを指差しながら言った。



「‥‥‥‥‥‥何だって‥‥‥‥‥‥それ‥‥‥‥‥‥」



 水籠(みごもり)は愕然として俺の胸ぐらを掴んだ手を放した。



「‥‥‥‥‥‥流河、おまえ‥‥‥‥何やってんの?‥‥‥‥‥マジおまえバカだろ‥‥‥‥‥‥‥それって‥‥‥‥‥俺のため?」



 そしてぶつぶつ言い始めた。


 ルキアに向かって。


 ルキアは俺の横で水籠(みごもり)から顔をそむけている。



 その内、水籠(みごもり)は膝に手をついて下を向いた。


 地面にポタリと(しずく)が落ちた。



 涙?



 何で?



 一体どうしたって言うんだ?



 何で水籠(みごもり)が泣く?



水籠(みごもり)、おまえ、ルキアが俺の彼女になってたことが悔しいんだろ?」



 俺の言葉に反応なし。



 水籠(みごもり)は俺を無視してその姿勢のままでいた。



 どうしたってんだ?急に。



 水籠(みごもり)は膝に手をついてうつ向いたまま言った。



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥おい、カイル。」


「何だよ?」



 最初の攻撃的な雰囲気が嘘みたく無くなってる。


 急に水籠(みごもり)にどんな心境の変化が起きたってんだ?


 たぶん、俺とルキアさんが誓い合ったと知ってショックを受けたというとこだろうけど。


 こいつ、ロメルと別れたばっかだってのに今度はルキアを彼女にしようとしてたなんて、なんて図々しいやつなんだ!




 水籠(みごもり)がダルそうに膝に手を置いたまま顔だけ上げて俺を見た。



「カイル‥‥‥‥‥‥今日はもうこのまま帰れ。」


「帰れって‥‥‥‥?ルキアを泣かせたおまえをこのままにして帰れるわけないだろっ!おまえルキアに何した?なんで泣いてる?」



「‥‥‥‥‥‥訳は‥‥‥近い内に直接お前に話すと約束する。それでいいだろ?」


 水籠(みごもり)はそう言うとようやく体を起こした。


 俺はルキアを見た。


「ルキア、水籠(みごもり)に何か言われたのか?その涙は何でだ?」



「‥‥‥‥‥‥ごめん。でも騙そうとしたわけじゃ‥‥‥‥」



 ルキアはおどおどしながら俺に一言いうと、目をそらした。




『ごめん』って?『騙そうとしたわけじゃない』って?


 なんで謝る?俺に何か偽りを?


 まさか、ルキアは水籠(みごもり)と?


 今、俺と誓い合った所なのに!



 俺はルキアを離しはしない。水籠(みごもり)に横からさらわせなんてさせはしない。


 今さら気が変わったなんて許さない!ルキア。


 俺たちのくちびるは触れ合ったんだ。


 ルキアは俺の彼女だ!




「俺とルキアの誓いはここにあるんだぜ?今さら取り消すなんて許されない!」


「‥‥‥‥‥分かってる。もし、カイルが本当のルキアを知って、それでもいいってんならそうする。確かに誓ったし。でも、たぶん‥‥‥‥‥そっちから取り消すだろうな。」



 ‥‥‥水籠(みごもり)と、どうこうって訳ではないってことか。


 『騙そうとしたわけじゃない』って、それ、ルキアは期せずして俺に何らかの偽りを与えたってことか。


 俺がその偽りの真実を知ったら君を嫌うとでも?


 ルキア。俺の想いがそんなにちゃちいもんだと思ってたの?


 大丈夫だ。どんな知らざる事実があったとしても俺の心は変わらない。

 

 



「何言ってんだ。誓いを取り消すなんて。そんなことあるわけないだろ!」


 俺がルキアに手を伸ばそうとすると、水籠(みごもり)は間に立ちふさがった。



「流河に触んな。それに流河、そんな誓いで俺を護ってくれなんて、俺一言も頼んでねーし。‥‥‥‥さあ、帰るぞ。」



 いったい何がどうなっているんだ?


 水籠(みごもり)はルキアを『ルカ』って呼んでる。


 本当のルキアって?


『ルカ』って?


 本当のルキアは『ルカ』ってこと?



「‥‥‥‥カイル。後で‥‥‥‥‥‥今日か明日、必ず連絡する。だから今は黙って帰ってくれ。」



 水籠(みごもり)が俺に頭を下げた。







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