君を信じる代わりに〈カイル〉
「聞いてください。」
「うん‥‥‥‥‥言って。」
さて、ルキアさんは何を話す?
水籠への非難?それとも泣き言か?
「信じて欲しいんだけど、沙入はルキアのこと本当に知らなかったんです。」
彼女は俺の目を見ながらいきなり力説してきた。
「ルキアが一方的に知ってただけ。」
‥‥‥‥‥何を言っている?
「あの日、噴水池で、麻井くんって子にしつこく絡まれてたら、偶然そこに来た沙入が助けてくれただけなんです。」
俺はあの時の記憶を引っ張り出す。
二葉と噴水池まで来たルキアさん。
座ったまま寝ていた二葉。
ルキアさんにしつこく迫る麻井。
そこに、現れた水籠。
ここまではOK。
でも、そこでルキアさんは‥‥‥‥
「‥‥‥‥‥ルキアは水籠に抱きついて『沙入、愛してる』って言っただろ?」
俺は確かに見たし、聞いた。
「うん。それは、ルキアは‥‥‥‥‥沙入のギターのファン?みたいな感じで。結構前から。あの時ルキアとしては初めて沙入に会ったんです。」
そういえば、うちの学校でも水籠を知ってるやつらがいて自分を紹介してくれだの何だの言って来てたな。
知る人ぞ知る人気者だったのか?
ルキアもその一人だったって訳か。
「‥‥‥‥‥‥それで、感激して抱きついちゃったの?」
「あ、うん。で、‥‥‥‥‥それが原因でロメルさんが勘違いして、沙入も引き留めもしないで‥‥‥‥‥あんなことに。本当にごめんなさい。お、じゃない、ルキアはロメルさんの誤解を解きたくて今日はここに来たんです。」
確かに矛盾は無いかもしれない。
そうさ。ロメル大好きの二葉がロメルとルキアさんの二股を黙認してるわけないよな。
水籠はあの時はロメルとの約束で来ただけだったんだ。
ルキアさんだって水籠に会うのに二葉を連れてくるなんてあり得ないよな。そういえば。
俺が実は全部見てたなんてことは誰も知らない。
それと照らし合わせて‥‥‥‥‥ルキアの話はほぼ真実だろう。
ロメルは裏切られてたわけじゃなかった。
だけど‥‥‥‥‥あれがきっかけであいつと別れたのは良かった。
俺の大切なロメルに水籠だろうと誰だろうと二度と近づけさせはしない。
「じゃあ、ルキアは水籠と付き合って無かったってこと?」
「うん、当たり前です。なんでお、じゃない、ルキアが沙入と付き合うなんてありえないって。」
これって、俺にチャンスだ。
「じゃあ、ルキアさんは今、誰とも付き合ってないの?」
「えっと、そうです。だから、ロメルさんにも伝えてほしいんです。沙入はロメルさんを裏切ってた訳じゃないって。あんな風に二人が別れてしまって‥‥‥‥‥お、ルキアどうしていいか‥‥‥‥‥‥‥」
これは、俺にとって絶好の好機。
「‥‥‥‥‥分かった。でも、証拠がない。ルキアさん。」
「そうだけど。でも‥‥‥‥‥どうやって証明すれば?ルキアは沙入とは付き合っていないってこと。あの‥‥‥‥‥沙入に報復とかって絶対考えないでください。あれはルキアの軽率な振る舞いのせいで起きた誤解なんです。」
付き合ってはいなくても、ルキアは水籠のこと好きなんだ?
「‥‥‥‥‥水籠をかばってんの?」
「違う!どうすれば信じてくれる?沙入にも、ロメルにも迷惑かける気なんてさらさらなかったんだ!」
うっ、掴まれた腕が痛い。すごい握力だな。
ルキアさん、ずいぶん高ぶってる。
そうか、自分のせいであの二人が別れたことに責任感じてるのか?
なるほどね。だから今日は俺に会いたかったのか。理解。
俺にしたら結局はロメルから悪い虫がとれたってことで助かったけどな。
そしてこの二度とないチャンス。逃したくはない。
「‥‥‥‥‥‥ねえ、そのためには俺の提案聞いてくれる?そしたら俺、ルキアさんを信じる。そして君の話をロメルに伝える。」
「本当に?」
俺はもっとルキアさんを見ていたい。もっと話して側にいたい。もっと君を知りたい。
そして今すぐにでも君に触れたい。
「提案1。ルキアさんは俺と付き合う‥‥‥‥どう?」
「‥‥‥‥‥はっ?」
「提案2。そして俺に誓いをたてる‥‥‥‥‥‥出来る?」
「誓いって‥‥‥‥‥‥‥?」
「ルキアが今、イエスって言ってくれたら、俺は君を信じてあげる。ロメルに君の話を伝え水籠に報復はしないと俺も誓う。どう?」
ギブアンドテイク。
「‥‥‥‥‥えっと‥‥‥‥‥その‥‥‥‥‥本当に?それ、カイルさんも誓ってくれんの?」
俺の望みもルキアさんの願いもかなうんだぜ?
それに、俺はルキアさんを泣かせることなんてしない。俺は君だけを‥‥‥‥‥君だけ‥‥‥‥‥‥?
ロメルは?俺はロメルに手出しはしていない。
こんなことするのはルキアが初めてになる。
「ああ、もちろん、俺も君に誓う。」
俺は約束は守る。
「‥‥‥カイルさん。わかった。ルキアは‥‥‥‥カイルさんの言った通りにする。だから‥‥‥‥‥沙入には手を出さないで。ロメルさんにも誤解を伝えて。」
ルキアさんはあの二人が別れたことそんなに気に病んでたのか。
まあ、そのお陰で俺は君を。
「‥‥‥‥‥俺のこと、カイルって呼んで。ルキア。」
俺は右手をルキアのほほに伸ばしこちらに向けさせる。
ルキアがびくっとしたのが伝わる。
怖がらないで。
これは、神聖な誓いだから。
「‥‥‥‥‥俺、君を初めて見た時から惹かれてた。」
そんなに怯えないで。俺を信じて。
「ルキア、俺に誓ってくれるんだろ?」
すべて俺に任せて。
「‥‥‥‥好きだ、ルキア。」
ルキアの瞳が伏せられる。
まつげが震えている。
そんなに緊張しなくても。
俺だって心臓がやばい。
ルキアにも聞かれてしまいそうだ。
うつ向いてしまったルキアの顔をそっとこちらに向ける。
物憂げなルキアの顔。
こんな日が予告なく突然来るんだな。
俺たちは誓いを交わした。
ほの暗い東屋の片隅で。
あとは、ルキアに俺のことを知ってもらいたい。
もう少しだけここにいて。二人きりで。




