君に触れたい〈カイル〉
「あの‥‥‥‥‥失礼ですが、もしかして蛇ノ目さんですか?」
何で?
ルキアさん、俺のこと知ってるわけない。
まさか‥‥‥‥イブのあの日に俺が横にいたこと知ってる?
俺がこっそりルキアさんを見てたこと。まさか。
「えっ?どうして俺のこと‥‥‥‥‥?」
「あの‥‥‥‥ロメルさんのお兄さんのカイルさんですか?」
「ああ。君は?」
俺は立ち上がって彼女に向き合う。
俺はかなり動揺していたけど、そこは隠す。
ルキアさんが俺に声をかけて来るなんて!
イブに初めて見た時同様、相変わらず綺麗な子だ。
目の前に立って気づいたけど、女の子のわりに背が高いんだな。
うん、ルキアさんは俺とキスするのにちょうどいいくらい‥‥‥‥‥‥‥ばっ、ばか。俺は何考えてんだよ!ったく。
「えっと、自分、池中ルキアです。二葉さんにお願いしたんです。カイルさんと話したくて。」
「‥‥‥‥‥‥‥どういうことだ?何で俺のこと知ってるんだ?まさか‥‥‥‥?」
そういえば、ルキアさんは二葉の友だちだ。間違いない。あの日も仲良く二人で歩いていた。
俺は二葉を怪しく思っている。まあ、それは前からだけどな。
今回の事についても解せない所がある。
二葉はルキアさんが水籠と付き合ってたこと知ってたんじゃねーかって。ロメルとも付き合ってんの知ってるのに黙ってたんじゃねーかって。
ルキアさんは二葉から俺の存在を聞いたのか?今日ここに俺と水籠が来ることも。
それで、来たのか?でも、それなら俺とじゃなくて水籠と話があるはずじゃ?
それとも、知らぬ間に同じ立場になってたロメルに何か間接的に伝えたいことでも?
まあ、細かいことはいい。話してるうちにわかってくるだろう。
とにかく、ルキアさんと二人でじっくり話せば疑問は解けるはず。
「えっと‥‥‥‥‥‥その‥‥‥‥‥」
「俺、知ってるぜ。ルキアさん。君も水籠沙入に二股されてたんだろ?」
「えっ?」
「かわいそうにな。もてあそばれて。ロメルだってずいぶん泣いてたんだ。君もだろ?」
「はっ?いえ、自分は‥‥‥‥そんなんじゃないから‥‥‥‥‥」
ルキアさん、二股の事実がまだ受け入れられないのか?自分が二股されてたなんて信じたくない気持ちはわかるけど。
「いいんだぜ?強がらなくたって。あんなクソ、俺が今日ロメルの代わりにボコってやろうと思ってたんだけど、どうやらびびってばっくれたらしいな。来ねーし。あいつらしいぜ!はんっ。」
「いっ、いや、違うから。ルキアは、その‥‥‥‥‥イブの不幸な出来事の事を話したくて‥‥‥‥‥説明というか‥‥‥‥‥‥聞いて欲しくて‥‥はい。」
ああ、そうか。同じ立場のロメルと同調して、相談して話せる人が俺だったってわけ?
「‥‥‥‥‥ああ、辛いことは人に話すとすっきりするんだろ?女の子って。いいぜ、俺が聞いてあげる。ここじゃ人に聞かれちまうだろ?あっちへ行こうぜ。ルキアさん。どうせ水籠は来ねーだろうから。」
ルキアさんが俺を頼って来るなんて思いもしなかった。
俺が君の悩みを聞いてあげるよ。
ルキアさんの傷ついた心は俺が治してあげるから。
「あ‥‥‥‥‥‥はい。」
今日はもう水籠なんてどうでもいいだろう。
ルキアさんの心が優先だ。
二人きりでじっくり話したい。ルキアさんと。
できたら俺の話も聞いて欲しい。
君が心をさらけ出してくれるのならば、俺だって。
「こっちは‥‥‥‥」
「実はこの奥にね、小さな東屋が点在してるんだ。目立たないから、よく来る人じゃないと知らないんだろうけど。そこなら話しやすいだろ?」
「へぇ。知らなかった‥‥‥‥‥」
誰にも邪魔されない所に二人で行こう。ルキアさん。
ああ、こんな気持ち初めてだ。
君といると、君と歩いているだけでドキドキしてる。俺。
もっとゆっくり時が流れて欲しいなんて、初めて願ってしまう。
「ルキアさん、こっち。」
俺はさりげなくルキアさんと手をつなぐ。
ここだ。この東屋。
ちょっと薄暗いくらいの方がちょうどいい。
外灯の灯りが月明かり程度に東屋を照らしている。
ルキアさんが横長の作り付けのベンチに座ると、俺もすぐ隣に座る。
この気持ちはなんだろう?‥‥‥‥ばーか。わかってるくせに。
頭の中で別の声。
そうさ。俺は分かってんだ。とっくにさ。
ロメルはもともと俺の手の内にあった可憐な花。誰かが手折るなんて許せない。
ルキアさんは外側で見つけた美しい華。そこは誰かの手の内?
たとえそうだとしても、俺は手を伸ばさずにはいられない。
なぜなんて理屈はない。わからない。ただ‥‥‥‥‥‥
ルキアさんを見ていたい。話したい。側にいたい。君を知りたい。触れたい。
そして俺を知って欲しい。
ほんとはとっくに知ってた。
俺、ルキアさんに一目惚れしてたんだ。
イブの日に。




