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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第2章
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水籠に罰を〈カイル〉

 今日の夕食の当番はロメルだ。


 だから今日のこの時間を指定した。


 やつが約束の日時は俺が決めていいって言ってるって二葉が言って来たから。


 だからロメルがここに来ることはない。


 当然ながら今日の事はロメルには秘密だ。




 俺は水籠(みごもり)と会う約束をした公園に一人来た。




 俺はここで、水籠(みごもり)を問いただし悪行を白状させ謝罪させる。


 そしてロメルを傷つけた罰を受けてもらう。


 水籠(みごもり)のした行為によって、もちろん痛い目に遇うのは自業自得だろう。


 ロメルの心に負わされたダメージの大きさを考慮すれば相当ボコったっておあいこだろ?



 あの日、クリスマスイブの日。


 夕方5時半頃家に帰って来たロメルは健気(けなげ)だった。


 玄関に入った途端に俺の腕の中で大泣きしたロメルだったけど、なんとか泣き止んだその後、風呂に90分も入っていた。


 一人きりで心を落ち着ける時間が必要だったんだろう。



 そして7時半頃には母さんが帰ってきて8時からは家族3人揃って夕食となった。


 家族3人で囲んだクリスマスディナーの時、本当はそんな気分ではなかったろうに、ロメルはずっと笑顔で通していた。


 俺には無理してんのはバレバレだ。痛々しい。


 それでも、表面上は美味しそうにたくさん食べて、楽しそうにしていた。



 そしておもむろに俺と母さんにそれぞれ差し出した包み。


 ほほを染めて照れたように。


 それは‥‥‥‥‥‥‥‥


 俺には紺色にゴールドのストライプが入った手編みのマフラー。

 流れ星をイメージして編んだのと言って。


 母さんには落ち着いた暖かみのある赤色の。




 いつの間に?


 俺、全然気がつかなかった。

 ロメルが俺と母さんのために頑張って編んでたなんて。



 俺は気になったことがあって、ロメルが帰ってから玄関の隅に置きっぱなしにしていたバッグの中をこっそり見てみた。




 ‥‥‥‥‥‥やっぱりな。あった。


 このプレゼントの包み。柔らかい。この中身は多分‥‥‥‥


 水籠(みごもり)へのプレゼント。やつにも手編みのマフラー編んでたんだな‥‥‥‥‥‥



 あんなやつの為に。ロメル。おまえってほんと馬鹿。


 こんな短時間の間に‥‥‥‥‥3つも編んでたのか?


 ありがとう、ロメル。大変だっただろ?



 ロメルが寝る前にベッドに座ってせっせと編んでる姿が目に浮かぶ。



 そんなロメルの気持ちを思えば、俺はいくら水籠(みごもり)を責めたって足りはしない。


 純情なロメルを弄んだ罰は俺が与える。ロメルに代わってな。





 噴水池の縁に座っている俺はスマホで時間を確かめる。


 約束の時間まで、後5分。


 空はもう暗い。星が瞬いている。


 ‥‥‥‥‥ここでは外灯と街明かりで明るい星しか見えない。




 その日、俺とロメルは屋上に上がって星空を眺めた。


 母さんも来たけど寒がってさっさと降りてしまった。


 その日は肉眼でも本当に良く星が見える日だったのに。



 シートと毛布と星座盤、懐中電灯、スマホ。ポットに入れた熱い紅茶。



 スチロール製の厚手のシートに座り、二人ひとつの毛布に包まって一つずつ星座を探した。


 星座盤を小さなライトで照らしながら。



 目が暗さに慣れて来るとますます多くの星が見えてくる。



 俺とロメルはそのうち仰向けに寝っころがって全部の星空を見上げた。


 美しい眺めだな。


 太古の昔に、気の遠くなるようないにしえに放たれた光を俺たちは今目にしてる。


 星空を眺めていたら、この世の全てがちゃちに思えてくる。全ての出来事も。



 でも、この温もりは違う。


 ここは相当寒いけどロメルが隣にいるところだけは温かい。



 ふと、隣を見るとロメルは目を瞑っている。



 ‥‥‥‥‥寝ちゃった?



 目尻から一筋の涙。濡れたまつ毛。



 大丈夫だ。ロメル。


 俺たちは家族なんだ。兄妹なんだ。一生一緒にいたっておかしくないだろ?


 俺がずっと側にいてロメルを護ってやるから。




 次の日の朝。



 ロメルは早起きして俺と母さんに朝ごはんを用意してくれていた。


 クロワッサンサンドとコンソメスープ、野菜サラダ。




 俺は気づいた。



 キッチンの大きなゴミ箱の奥に埋もれて、あのバッグの中にあったプレゼントの包みの柄がわずかに覗いてること。





 俺はスマホでもう一度時間を確認する。


 もう、約束の5時過ぎてる。


 あいつ、ばっくれたんじゃねーだろうな?


 俺は辺りを見回す。近くに人は何人かいるが、らしき男はいない。


 ん?


 すぐそこにきょろきょろ辺りを見回してる人がいる。


「!」


 あの子はルキアさん!うそだろ?


 ここでまた会えるなんて!


 待て、彼女は俺のこと知らない。あの時俺は顔をほぼ覆って隠してた。


 話をしたわけでもない。


 一方的に俺が見てただけ。



 それなのに。



 ふっと、視線が合った。


 彼女はそのままそらさない。


 俺をずっと見つめている。



 これって、まさか運命の出会い?


 俺とルキアさんの。




 ルキアさんはふと、考えるような顔になった。


 そして俺に向かって歩いて来た。



「あの‥‥‥‥‥失礼ですが、もしかして蛇ノ目(じゃのめ)さんですか?」





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