An escape from reality〈ロメル〉
二葉ちゃんが二人きりのスイーツパーティーを開こうって誘ってくれた。
きっと私がいつもと違うから元気づけようとしてくれてるの。
二葉ちゃん。大好きだよ。いつも私のこと思ってくれてる。
私の一番の友だち。
今日持って来たこのクリスマス用のジンジャークッキー。
本当は、沙入、ううん、沙入くんのために焼いたクッキー。
これは棄てられずにそのままにしていた。
だって‥‥‥全部ゴミ箱行きになんてできなかった。
‥‥‥‥吹っ切れないよ。まだまだ。
だめだめ。私。
これは今から二葉ちゃんと一緒に食べて仕舞うの。
そうすれば‥‥‥‥‥‥‥
この、スマホ。
LINE、まだ沙入くんとつながってる。
私からこのつながりを絶ち切ることなんてやっぱりできないの。
沙入くんはどうしてこのままに?
だめだめ。またもや私ったら。
気がつけばこんなことばかり、同じことばかり考えてる。繰り返し繰り返し繰り返し‥‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥‥ぇ、‥‥‥‥ね‥‥‥ねえ、ロメルちゃん、飲み物は何がいい?」
二葉ちゃんがいつも通りの元気いっぱいの瞳を私に向けていた。
今日は冬休みに入ってから数日ぶりに会えた。
ちょっと会っていなかった間にプチイメチェンしたみたい。
ますますかわいいの。二葉ちゃん。
ここは二葉ちゃんちのマンションの二葉ちゃんのお部屋。
「どうしたの?ロメルちゃん、ぼーっとして。」
「ごめーん。えっと、熱い紅茶がいいな。私も手伝うね。」
私は意識して微笑みを作る。
「うん、じゃあ、キッチンに行こ。」
「そういえば、お家の人誰もいないの?」
「お兄ちゃんが自分の部屋で何かしてるけど、気にしなくていいよ。透明人間だと思って。」
あれ?前はあんなにお兄ちゃん、お兄ちゃんっていつも言っていたのに。
そういえば、学校でも最近はお兄ちゃん話あんまりしてなかったよね?
私、沙入くんのことでいっぱいで、そのこと、あまり気にしてなかったわ。
「ロメルちゃん、このお皿とカップとカトラリー、トレーに乗せて私の部屋に持って行って。私、ポット持ってくから。」
「了解!」
二人で、さあ、スイーツパーティーの始まりだね。
二葉ちゃんの部屋の小さなこたつの上はドーナツ、シュークリーム、みかん、二葉ちゃん特製のフルーツポンチ、私の手作りクッキー。私が持ってきたポテトチップスやおせんべいは置ききれない。
「うわー、すごいね!」
並べ終わって二葉ちゃんのこの笑顔。
ほんと、かわいい。
二葉ちゃんは純粋で無邪気で心が小さな子みたいにピュアなやさしい子。
「さっそく、いっただっきまーす!‥‥‥‥‥ロメルちゃんのクッキー、おいしー!」
「ありがとう、二葉ちゃん。生姜と蜂蜜が入っているの。これを食べた人は風邪をひかないように願いを込めて作ったんだ。」
「‥‥‥‥‥あ、そうだ!今日は午前中に流河くんがお兄ちゃんの漫画借りに来るんだ。せっかくだし来たらちょっとだけスイーツを分けてあげようよ。いい?」
「う、うん。」
流河くんが?
流河くん、沙入くんと私のこと、もう知ってる?
沙入くんは流河くんに話したのかな?私はまだ二葉ちゃんには言っていない。
今日、これから言おうと思っていた。
二葉ちゃんにもっと早くに言っておいたなら、きっと流河くんをここに呼ぼうとなんてしなかったはずなのに‥‥‥‥‥
流河くんはいい人だし好きだけれど。出来れば今は会いたくない。ちょっと、気まずい。
だって、沙入くんの親友だもん‥‥‥‥‥
そんな私の心の内は二葉ちゃんは知らないまま‥‥‥‥‥それから30分ほとたった頃、チャイムの音が鳴った。
そして今、流河くんは私の目の前にいる。
「ごめん、ちょっとだけお邪魔。久しぶりだな、ロメル。」
「あっ、流河くん‥‥‥‥‥久しぶりだね。」
流河くん‥‥‥‥‥前に私を助けてくれた時と変わらない。この笑顔。
思い出す。手をつないで駅まで逃げたこと。私の飲んだペットボトルの紅茶を流河くんがそのまま飲んでしまったこと。
私、あの時‥‥‥‥ちょっと流河くんに惹かれてたのよ。知らなかったでしょう?
流河くん、ほんの少しくらいは私のこと意識してくれてた?
あの後、沙入くんに告白されてなかったらもしかして‥‥‥‥‥?
なんてね。
そうなってたら、私、今頃こんな目にあっていなかったのにね‥‥‥‥
「流河くんも好きなもの食べてってよ!ロメルちゃんの手作りクッキーだってあるんだよ、ほらこれ。」
二葉ちゃんが私の隣に流河くんを座らせて私の作ったクッキーを渡した。
そのまま流河くんのお茶を用意しにキッチンへ行ってしまった。
私はもちろん、沙入くんとのことは二葉ちゃんにはまだ言ってはいない。
流河くんが来るのわかってるのに言えるわけない。
流河くんと二人きりの部屋‥‥‥‥‥
「クッキー、旨いな。」
「‥‥‥‥‥ありがとう。」
「ごめん、突然邪魔しちゃって‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥別に。」
どうして今、私はこんな風になってしまったのかを考えてしまう。
流河くんと手をつないで逃げて走ったあの日、あの時の気持ちを思い出す。
あのときめきは。あの後の、沙入くんのロマンチックな告白のせいで上書きされてしまったの。
素敵なラブソングと物語の中みたいなロマンチックなkissをしたせいで。
私、流河くんと付き合っていればよかったのに。
流河くんとのあり得なかった『今』を想像してしまう。
流河くんとだったら今も笑顔でいたんじゃないかな?私。
どこかからかわき上がってくる声。
なに妄想してんの?
いい加減になよ!
流河くんはロメルなんて選ばないよ。
あの日に戻ったとしてもね。
ああ、私、今、誰でもいいからすがりつきたいんだ。きっと。
だから、こんな想像を。
私、メンタル弱すぎ。こんなんじゃダメ。こんなんじゃ‥‥‥‥‥‥‥




