うわのそら〈流河〉
沙入‥‥‥‥‥‥
明らかにおかしいだろ?おまえ。
まさかな、沙入がルキアに恋煩いしてへなちょこになるなんて思いもしねーよ!
さっきから、もうっ!しっかりしろよ!
昨日も今日も上の空でほとんど練習になってねーじゃん。
ルキアはもう現れねーんだって!
ロメルと仲直りしろよ。
うー、俺の心の声が聞こえるわけねーよな。
もう俺、もはやロメルに恋する資格無くした。
俺の恋はもうすでに詰んだ。
こんなことになっちまった今、ロメルのこと考えたって、ときめくどころか罪悪感で苦しいんだ。
それにしても‥‥‥‥‥‥‥俺、沙入と‥‥‥‥‥‥。
俺、あの2日前のクリスマスイブの日、なかなか寝付けなかった。
初めての事がいっぺんに起きすぎて。
男からナンパされるわ、変態オヤジに遭遇するわ、なんたって一番の衝撃は沙入とのアレだ。
俺はことあるごとにアレを思い出して意識してしまう。
俺の前でギターを抱えたままぼーっと心在らずで座ってる沙入。
俺は沙入のくちびるにどうしても目がいってしまう。
沙入のうすいちょっと上向きのくちびる。
なんか手慣れてたよなぁ?あれ。
沙入は女の子とはいつもあーいう風なんだ。
ロメルともしてたんだ?
あんな風に。
進み具合。
俺よりずいぶんオトナだよな。
「何だよ?俺の顔、なんかついてんのか?」
「へっ?別に。」
いっけね。俺、沙入の顔、じっと見てた。
なんかさ、どうしても意識しちゃうじゃん。
こんな目の前にいるんだぜ。
しかも沙入は俺の女子の姿に恋してるんだぜ?
ルキアは目の前にいるっての!
沙入はもうロメルのことどうでもよくなってる。
ってか、もう別れた瞬間に、はいっ、忘れたって感じだったしな。
そこまでルキアが良かったのかよ?この俺が?
ったくさー、顔が熱くなっちまうじゃねーか!沙入のせいで。
「どうした?顔が火照ってるぜ?暑いのか?エアコン消す?」
沙入が俺の顔を見ながら言った。
「あっ、いっ、いいよ。大丈夫。」
「‥‥‥‥‥‥変なやつ。」
俺をちらっと一瞥してからA5のノートにメモを取った。
沙入は何か思いつくとすぐに何かにメモる。
きっと、リリックに使いたくなるようなワードが浮かんだんだろう。
俺はノートをとる沙入をぼんやり見ながら考える。
もし、この先で俺がルキアだってバレたらどうなるんだろう?
大変な災難がおきかねないよな。
‥‥‥‥‥ロメルに恨まれ、沙入もドン引き。俺は変人扱い。
あー‥‥‥‥悪夢だ。
特にこの二人には絶対に知られてはいけない。
あっ、そうだよ!二葉さんは事情が全くわかってないからうっかりロメルに話してしまっていたら大変だ!
俺が沙入に抱きついたのがきっかけで、沙入とロメルが別れちまった悲劇は寝てて全然見てなかったみたいだし。
マジ、二葉さんには固く口止めしておかないとな。
まさか‥‥‥‥‥‥手遅れってこと無いよな?2日も経っちまってるじゃん。聞くのこえーよ。
今すぐ確かめねーと!
俺は二葉さんにあわててメッセージを送った。
『二葉さんに確認する。』
『俺がルキアだって誰にも言ってねーよな?これ、鉄壁の秘密だからな!特にロメルと沙入には。』
すぐに返事が来た。
『やあやあ、流河くん。お元気かね?』
『そのような心配は御無用である。なぜならば、私は握った人の弱みをむざむざ手放す人間ではないのだ!わーはっはっ!』
ううっ、二葉さん、俺を脅してら。
『何が望みなんだよ?こえーな。二葉さん。』
『別にそんなものはないよ。ま、以降、私を敵に回さないことだねー。ふふふーん。』
ちっ!解ったぜ。二葉さん、クラスのヒエラルキー超越ってこういう訳かよ?
なんつー抜け目のない女子だよ。小学生もどきみたいな外見とは裏腹にさ。
ロメルはあれからどうしてるんだろ?
俺、責任感じてる。
『ロメルは元気?』
『うん、ロメルちゃんはちょっとね。』
『ちょっとって?』
『なんか、すごいショックなことがあって、それがきっかけで、宇宙と交信したらしい。(本人談)』
は?‥‥‥‥‥ロメル?
沙入と別れたショックでおかしくなっちまったのか?
『ショックな事って?』
『それはわからないよ。でも、もうそんなことはもういいって言ってたけどね。うーん、でも変だったなー。』
二葉さんは二人が別れたこと自体、ロメルから聞いて無さそうだな。
『どんな風に変なんだよ?』
『‥‥‥‥‥‥うーん、突然ブラコンになった?』
そういえば、沙入が前にロメルの双子の兄貴がカラオケに乗り込んできたのどーのこうのって‥‥‥‥
『ロメルちゃんにはカイルっていう双子のお兄さんがいてさ、今まではうざがってたのに、突然カイルになついてる。』
『もしかしたら、ロメルちゃん、宇宙人にさらわれて何か埋め込まれて戻ってきたという可能性があるよ。なんか変。いつもと違う。悟り開いてるし。』
ああー。全部全部俺のせいじゃんか。ロメル心壊れた?
どうしよう‥‥‥‥‥‥。
沙入はもう、ロメルに戻る気はないだろう。沙入の性格からして‥‥‥‥‥
でも、沙入の受けた誤解は解いておきたい。俺がルキアだっていう秘密は守ったままで。
ロメルに沙入のこと悪く思ったままでいてほしくない。
出来るか?そんなこと。
でもやらなきゃ。
『二葉さん、俺、ロメルとちょっとだけでいいから直で話がしたいんだけど、無理かな?』
『ふふふ、振られ覚悟でついに告ろうってか?』
『ちげーよ!そう言うんじゃない。』
『じゃあなんで?』
『えっと、俺はロメルのことはもう1人完結したんだ。その確認かな。けじめっていうか。』
これは半分本当、半分嘘。
『ふーん、わかった。今夜連絡する。では、さらばである。』
俺はスマホをテーブルに置いた。
俺の様子をずっと見てたらしい。
沙入が提案した。
「おい、流河。上の空じゃん。俺もおまえもさ、いまいち調子でねーよな。年末だしさ、明日から年明け3日まで練習休もうぜ。あー、でも、家で基礎続けてろよ。いいな。」
「わかった。じゃ、俺もう帰るわ。掃除しようぜ。」
「そうだな。」
俺はエアコンを止め店のドアを開け放した。
冷たい空気が流れ込んでくる。
ふと、沙入が俺の足元に目を留めた。
そん時の俺は、沙入が俺のスニーカーを見ていたってことには気づいてはいない。




