悩める少女 その3
私は雪村くんの後ろ姿を見ながら廊下を歩いている。
昇降口の外に出るまで二人とも無言のままだった。
周りに知っている生徒がいなくなると雪村くんが言った。
「あー、あいつら参るよなぁ。あんこトリオ。あれも友情かな?僕や蛇ノ目には迷惑千万だよな。」
雪村くんがせせら笑いをした。
「‥‥‥‥雪村くん、白玉さんの気持ち知っているのね。ならこういうことに私を巻き込むのはやめてほしいわ。私は何の関係もないのに。」
「‥‥‥‥‥蛇ノ目は関係ないと思ってるんだ?」
「だって、そうでしょう。それは雪村くんと白玉さんのことだもの。」
「‥‥‥‥‥蛇ノ目だって俺の気持ち知ってるくせに。ひどいな。」
雪村くんがさりげなく告ってきた。
でも私はシカトした。これで私の答えはわかるでしょう?
「聞きたいことって何?」
「‥‥‥‥‥蛇ノ目、さっきのラインのやつと付き合ってんの?」
「えっ?‥‥‥‥‥雪村くん、見てたの?」
雪村くん、後ろからあの水籠くんとの土曜日の約束、見てたんだ!
「偶然ちらっと見えてしまっただけだから、覗いたわけじゃない。」
これって使えるかも。この学校と関係の無い人と付き合っていることにしておけばもう、みんな私のことを標的にはしなくなるわ、きっと。
「‥‥‥‥‥そうよ。あれは私の彼氏なの。隣の中学校の。」
私は出任せを言った。私に彼氏なんていないし、いたこともない。好きな人すらいないのに。
意外とスマホを覗かれてラッキーだったかも。
「もう、いいかな?じゃ、さようなら。」
私はそそくさと足を早めた。
これで明日からはあの人たちからも解放されるといいけど。
「ロメルー!」
この声は‥‥‥‥カイル。
カイルが私を追いかけて来た。
私の兄。蛇ノ目カイル。
私の双子の兄。
私たちは二卵性の双子。私は2年2組、カイルは3組。
私たちは小さな頃は多少は似ていたけど、今は全く違うの。男と女だもの。
今では顔も似てはいない。カイルは身長だって、体格だって、手のひらだって、私よりも大きい。力だって今はもうカイルにはかなわない。
「知ってるぜ。今一緒にいたやつ。ロメルに気があんだろ?おまえああいう真面目っぽい奴が好きなのか?」
カイルがからかってくる。
「私は別になんとも思っていないの。それにカイルには関係ないでしょ!」
「俺はロメルのお兄様だぜ?関係なくないぜ?」
カイルは私の肩に腕を回してきた。
「何がお兄様よ!兄も妹もないわ。ほんの偶然の違いで。便宜上そうなっているだけじゃない。私たちは対等なのよ。私に個人的なことで干渉してこないでほしいわ。」
私の悩みのもうひとつはこのカイル。
双子とはいえ、小さい頃から私たちは違う。好きな遊びも、歌も、遊ぶ友達も、得意な教科も、好みの食べ物だって。
だけどカイルと私は仲良しで、たまにケンカもする同級生の友達みたいな感覚でいた。
でも、今は‥‥‥‥
カイルはあの時から徐々に変わった。私にお兄さんぶってやたらと優位に立とうとするようになってきた。
多分、あれがきっかけで私と自分の違いを認識したから。
私は肩にかかったカイルの腕を振り払うように前に一歩出た。
「私に気軽に触るのはやめてちょうだい。」
「なんだよー。俺たち双子だろー?いいじゃん。」
「私は嫌なの。」
「俺たちはセットなんだぜ?生まれた時から。」
「別々の人間よ!ただ偶然同時に生まれただけ。」
私は先に歩き出す。
カイルはさっと追いつき私の横に並んで歩き出した。
どうせこの後は選択の余地なく同じ家で過ごすのだから学校では離れていればいいのに。
私はお風呂から出て長い髪を乾かし自分の部屋ベッドの上。
もう11時半。時間ってあっという間に過ぎちゃう。
もう部屋も暗くして寝る準備OK。
私のくつろぎの時間。
スマホを見る。二葉ちゃんからのメッセージ。
『お兄ちゃんがあの人から嫌われるように仕向けた!』
『お兄ちゃんを臭くした。』
『明日が楽しみだよーん!』
一体お兄さんに何をしたの?
『二葉ちゃん、臭くしたって何をどうしたの?』
すぐに返事が来た。
『今日の晩御飯、お兄ちゃんのハンバーグだけニンニク大盛に仕込んだんだ!』
ええっ!お兄さん‥‥‥‥それって彼女以外からも避けられそうだけど‥‥‥‥?
『他にも色々作戦は考えてるから、明日話すねー!おやすみー。』
二葉ちゃんたら‥‥‥‥
お兄さんこれから受難続くかも。
二葉ちゃんのお兄さんは優しそうで素朴な素敵な人だったな。あの人がひどい目に会うのは可哀想。
私はいつも二葉ちゃんからお兄さんの話を聞かされているせいかお兄さんには親近感がある。だから同情してしまう。
あれ、ノックの音。
「俺だ。ロメル、入るぜ。」
こんな時間に何なの?
「何?カイル、急用なの?」
「‥‥‥‥‥おまえさ、昼間話してたの本当?」
「何のこと?」
「‥‥‥‥隣の中学校に彼氏がいるとか言ってたじゃん‥‥‥‥」
「‥‥‥‥聞いてたの?」
「そういうわけじゃ‥‥‥‥偶然聞こえただけ。」
「‥‥‥‥本当よ!じゃ、私寝るから出ていって。お休みなさい、カイル。」
私は布団に潜って知らんぷりした。
カイルが部屋から出てドアを閉める音が聞こえた。
私はそのまま眠りに落ちた。




