Under the starry sky〈ロメル〉
沙入はあっさりとロザリオを受け取った。
なにも言わずに冷淡な瞳で私を見ながら。
私はそのままくるりと向きを変え駆け出す。
こんな所にはもう一秒だっていたくない!
沙入も、あの子もみんな私の前から消えて無くなれっ!
涙なんて流すもんか!
まるでカイルの言った通りになったね、あはははっ。
すごいね。どうしてわかったんだろ?預言者みたいだね。
「いいきみだわ。ふふふっ。」
どこからか響いてくる声。
誰?私を嘲笑ってるのは?
白玉さん?
「ざまーみろ。気取り女。」
私のこと?私そんなつもりは‥‥‥‥
ねえ、誰なの?頭の中で響く声。
小白くん?
やめて!お願い!
カイル!私を助けて!
頭の中がぐちゃぐちゃ。胸の中もぐちゃぐちゃ。
早く家に帰りたい。
家に帰ればカイルがいるもの。
家に帰れば‥‥‥‥‥‥いつだって‥‥‥‥
いつもよりもずっとずっと長く感じる道のりを歩き、家までやっとたどり着いた。
一階の設計事務所のわきの階段を登る。いつもは苦にはならないけど、今は足がとてもだるく感じる。
自分で鍵は出さずにチャイムを鳴らす。
すぐにカイルが開けてくれた。
「おかえり。ずいぶん早かったな。まだ5時半くらいだぞ。」
私が予定よりもすごく早く帰ってきたから驚いてる。
そうだよ。着いたと思ったらすぐに帰ってきたんだもん。
きっと不審に思ってるよね?
私がだだをこねて、無理を言ってカイルにも迷惑かけて出掛けたっていうのに。
「‥‥‥‥‥‥‥うん。」
「‥‥‥‥どうかしたのか?ロメル。」
カイルはもう、きっとわかっている。
ドアを開けた時に大体の事、察してしまっている‥‥‥‥‥よね?
私の今の顔を見たら大体の見当はついてしまう‥‥‥‥‥はず。
カイルなら。
「‥‥‥‥‥ううっ‥‥‥‥ひっく‥‥‥‥」
カイルの声を聞いて、私は我慢の限界を迎えた。
一度声が出てしまったらもうどうしても止められないの。
「‥‥‥‥‥‥ロメル?」
カイルが私の肩に手をおいて、下を向いてかくしている私の顔を覗きこんできた。
だめだよ。こんな顔見ないで。
「うわーん、カイルのばかー、うわーん!」
私は大声で泣き出した。
だって、勝手にそうなってしまうんだもん。制御不可能。
カイルが悪いんだ!あんな予言するからだよ!
『あんな男と付き合うとロメルはすぐに泣くことになる』、なんて。
本当になっちゃったじゃない!
どうしてくれるの?
私はカイルのグレーのパーカーの胸で涙を拭きながら泣き続ける。
カイルは何にも言わないで私を包み込んでくれてる。
あったかい。
ねえ、もうちょっとこのまま泣かせて。
カイルの温もりがだんだん私を落ち着かせてくれる。
カイルがいてくれて‥‥‥‥良かった。
私の大きな泣き声は次第に収まってきた。
カイルはまだひっく、ひっくしてる私の両ほほを大きな手で包み込みながら目を合わせた。
「ロメル、風呂に入ってすっきりしてこい。その間にクリスマスディナーの仕上げは俺がやっとくからさ。今日はたくさん食べて元気だせ。なっ?」
「‥‥‥‥うん。ありがとう‥‥カイル。そうする。」
カイルは私になんにも聞いてこないし、何にも余計なこと言わないでいてくれる。
ありがとう、カイル。
今日のお出かけのことで反抗してわがまま言って迷惑かけてごめんね。
お風呂に入ってスッキリしよう。
涙も洗い流して。
お母さんが帰ってくる頃には普通の顔に戻っていなきゃ。
心配をかけてはだめだもの。
そして、家族3人で私たちが作ったお料理を並べて和やかに素敵なイブを過ごそう。
カイルが難しい顔になってる。
私のせいだね。ごめんね、心配かけて。
「カイル?」
「‥‥‥‥えっ?何、ロメル。」
「‥‥‥‥ありがとう、大好きだよ。」
私の双子の兄がカイルで本当に良かった。
イブのこの夜に神様に感謝するの。
私の側にいつだってカイルがいたことに。
「‥‥‥‥俺だって‥‥‥‥‥‥」
普段は言えない感謝の気持ち。
私たちは双子という特別な兄妹という絆で結ばれて生まれてきた。
たまに私に口うるさく干渉してきてケンカになってたけどそれは、カイルが私のこと心配してくれてたのに私が今までわかっていなかったからだね。
私よりカイルのほうが大人で、色々わかってたんだ。
お母さんが帰って来たら、私たちで頑張って作ったご馳走、3人でいっぱい食べようね
途中になってたゲームの勝負の続きもやろう。
今日はセブンブリッジ、何を賭ける?
もし、今日私が負けたら何でもしてあげる。
もし、カイルが負けたら、今夜は屋上に上がって二人で一緒に星座をたくさん探そうよ。
今夜はきっと良く見える。
スバルも見えるよ、きっと。
私たちの双子座、ポルックスとカストルも。
屋上で仰向けになって広大な星空を感じたならば、私の意識はやがて宇宙と一体となってフェードアウェイしてゆくわ。
そして、私は私なのかすら判らなくなって、今どこにいるのかも判らなくなって、自分は生きているのかも判らなくなって一回透明になるの。
そしたら、カイル、カイルが私を呼び戻して欲しい。
リジェネレイトした私を。
今日はクリスマスイブ、特別な日だもの。
きっと、神様がみんなを見ててくれてるはず。
取るに足らないただの女の子。
こんなに愚かな私のことだって。




