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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第2章
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さようなら、沙入〈ロメル〉

 ひどい‥‥‥‥‥ひどすぎる‥‥‥‥‥


 沙入‥‥‥‥‥ひどいよ。


 こんな仕打ち。



 私、今日のこの日をどれだけ心待ちにしていたと思っているの?


 沙入が私に思いもよらない素敵なラブソングを聞かせてくれた。あの時からやっと‥‥‥‥‥、やっと会えた瞬間がこんな残酷な決別の時となるなんて。



 私、沙入のために想いを込めたプレゼントだって用意していたの。


 手作りで作ったのよ。


 沙入を思いながら。





 それなのに‥‥‥‥‥


 私は二股されてたなんて。


 沙入がモテることは想定内だった。


 でも、私だけだと思ってた。沙入の彼女は。


 なのに‥‥‥‥


 私を、あんなに綺麗な女の子と並べて比べて面白がっていたなんて!


 何も知らずにいた惨めな私‥‥‥‥‥‥‥






 ーーーーー私が待ち合わせ場所の公園の入口から噴水池の方に向かっていた時、噴水の右側にいる小白君と麻井くんの姿に気がついた。


 麻井くんが何か怒ってるみたいで、小白くんがなだめながらこっちに向かって歩いてくる。


 大丈夫。私のことにはまだ気づいてないの。


 私は噴水の反対側に走って急いで隠れた。


 あー、危ないとこだった。もうちょっとで鉢合わせするとこだった。


 やっぱり、この辺で待ち合わせするのはだめね。誰かしらに出会ってしまう。


 でも、今日は時間が余りないから仕方がなかったの。近くじゃないと。


 まだ5時過ぎ。約束は5時15分。


 沙入はいるかな?



 ダメ、ちょっと待って。


 私、髪は乱れてないかしら?


 手グシでちょっと整える。


 えっと、コートも大丈夫。


 ささっと払う。


 後は、笑顔。


 ううん、沙入にやっと会えるんだもの自然に微笑んじゃうよ、私。



 えっと、沙入は‥‥‥‥‥


 私は噴水の周りを見回す。



 その時、聞こえてきた。

 ちょっとハスキーなアルトの声。




「サンキュー!沙入!愛してるぜっ!」




 えっ?



 今の何?



 私は声を出した青いニットキャップの女の子の後ろ姿を見た。



 そこには‥‥‥‥沙入がいた。



 沙入の首に両腕を回して抱きついている女の子とともに。



「ちょっと、君‥‥‥‥離れて‥‥‥‥‥ロメル!」


 沙入は私がいることに気がついた。


 抱きついてた女の子がちらりと私の方を振り返る。


 その子、私を見たとたん、嫌な人に会ってしまったって顔した。




「っこ、これはどういうこと?‥‥‥‥沙入?」



 私は脚が固まってしまった。

 一瞬で五感が狂ってしまったようだわ。


 もう、私と沙入とその女の子がいる空間だけ切り取られて、その他だけが勝手に動いてるみたい。


 このグラグラクラクラする感覚は何?


 これは現実なの?私は何を見せられているの?



「ロメル!いや、これは何でもない。俺もわかんねーよ。」



 沙入が困惑を装っている。

 こんな状況になってるのに。



「‥‥‥‥‥‥嘘。何でもなくないよ。わかんなくもないよ‥‥‥‥‥だってその子今、『沙入、愛してる』って‥‥‥‥‥‥」



 その女の子も、私が目の前にいるのに沙入から離れようともしない。



 誤魔化せるとでも?

 私との約束の時間が来るまでは、その子とデートしてたんだね。


 待ち合わせ時間まで、後もうしか10分ないのに、私に見られるリスクを犯してまで、ギリギリまで、その子といたかったんだ?


 それとも、別に見られたってどうだってよかったの?




「違うって!誤解すんなよ!ロメル。この子は‥‥‥‥‥えっと‥‥‥‥?君誰?一回離れてよ。困ったな。」



 今さらもう言い逃れは無理だよ?沙入。


 素直に謝って。お願い。



 沙入がすごくモテることなんてわかってた。でも、私の目の前でこれはひどすぎる。



 その子、私の存在を知っていたんだわ。それでも沙入と付き合っていた。そうなんでしょう?



 やっと沙入から手を離したその女の子。


 沙入の横に立って私を見てる。あなた、会ってはいけない人に会ってしまったっていう顔丸出しだよ?

『まずい』って顔に書いてある。



 背が高くてスラッとしてまるでモデルさんみたい。

 骨格からして普通の女の子とは違うみたい。


 なんて綺麗な子なのかしら?


 本当に雑誌の素敵なモデルさんが抜け出してきたみたいよね。


 もしかしたら、ほんとのモデルさん?




「‥‥‥‥綺麗な人だね‥‥‥‥‥沙入。私なんかより、ずっと。」


「ちっ、違うって!俺、こんな子知らねーし。」


「‥‥‥‥嘘、『沙入』って呼んだよ?その子。」


「‥‥‥‥‥‥何だよ?ロメル。俺は知らねーって言ってんじゃん。俺を信じねーってか?」


「‥‥‥‥‥‥‥ねぇ?これを見て何を信じればいいの?」


「俺の言葉をだろ?ロメル。」



 言葉?言葉ね。ふふふっ。


 このシチュエーションで信じられるわけないじゃない。


 実際、沙入の横にこんなに綺麗な女の子が立ってんのに。


 沙入って、おバカさんだったんだね。ほんと。



 私の脳裏に、あの、何回も思い出してはときめいていた沙入とのシーンがよみがえる。


 夢みたいに、映画みたいに素敵なシーン。


 私の宝物になったあの切り取られた時間。




 あれ、私のファーストキスだったのよ?沙入。


 今はただただ胸が苦しい。息が苦しい。

 

 そう、私はよどんだ水の中で、息が出来ずに苦しむありふれた魚のままだった。


 澄んだ水たまりなんて、幻だったね。





「‥‥‥‥‥‥‥返す。」




 私は首からロザリオを外した。


 沙入が私を好きになってくれて本当にうれしかったの。すごくときめいていたの。あの時からはいつも沙入のことばっかり考えてたの。



 朝、目覚めた瞬間も。


 二葉ちゃんと笑いあってる時も。


 カイルと家のお手伝いしてる時も。


 カーテンの隙間から夜空を見上げてる時も。


 寝る前のベッドの中でも沙入が夢に出てきますようにって毎夜お祈りしてた。


 それって、私だけだったみたいだね。





         さようなら、沙入。





 沙入は冷ややかな視線を私に送りながらロザリオを受け取った。









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