My top secret matter〈流河〉
俺は猛ダッシュで飛び出した。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ‥‥‥‥‥
辺りには俺の走る足音だけが響いている。
道なりにゆるいカーブを曲がると前方に誰か立っている姿が見えた。
まさか、こいつも変態じゃねーだろうなっ?
もう、勘弁してくれよ。さっきから散々だぜ。
俺はスピードを緩めた。
そいつはこっちを見ている。
ちょうど、外灯の下、照らし出されたそいつは‥‥‥‥‥‥
げっ!沙入じゃん。
もしかして、沙入も歩いて帰ろうとしてたのか?
俺は沙入の前で止まった。
「あれ?‥‥‥‥ルキアじゃん。どうした?もしかして‥‥‥‥‥俺を追いかけて来たとか?」
沙入はすかした顔をしてるけど、目の奥が嗤ってる。
やばい。このシチュエーション、まるで俺が沙入に気があるみたいじゃん。
「ち、違うから。」
俺は息切れしながら言った。
「大丈夫?ルキア。じゃ、何でこんなとこ来たんだ?」
「だってこっちが帰りに近道だったから。でも‥‥‥‥途中で、変態が‥‥‥変態が‥‥‥出て‥‥‥コートをバッて開いて、で、逃げて‥‥‥‥でも目と脳と心に多大なダメージ受けてっ‥‥‥‥ここまで来て‥‥‥‥」
俺は息切れを整えながらさっきの災難のことを話した。
俺はチラッと後ろを見たけど、あのおやじはついてきてはいない。
はー。よかった!
沙入が咎めるように俺を見た。
「‥‥‥‥‥こんなとこ、女の子が一人で通るとこじゃないでしょ。」
「それな!」
「‥‥‥‥ルキア。それなじゃねーよ。ったく。俺が送ってやるよ。明るいとこまで。」
「ありがとう。」
沙入って女の子にやさしいんだな。ふふっ。
「ほら!ったく。すぐ知らねーやつ信じんな。」
「だって知ってるし。」
「それ、一方的にしかもほんの一部分だろ?俺だってルキアを知らない。」
沙入はあー、と 大きくため息をついた。
「俺のアカウント、身元特定して俺のこと知ったの?ルキアにだったら歓迎だけど、どこでわかった?俺だって。」
「別にSNSは関係ないし‥‥‥‥‥‥」
「じゃ、何で俺のこと知ってんの?」
俺の目をじっと見つめる沙入。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥えーと‥‥‥‥」
俺は目をそらしてきょときょとしてる。
「‥‥‥‥何にしろ、俺のこと陰から見てたんだ?さっき、俺のこと愛してるって言ったよな?」
沙入を見ると、まだ俺の目を見つめてる。
「‥‥‥‥‥‥えー、そうだったっけ?」
そんなに見つめてくるなんて、もしや俺だって怪しんでる?
「っち!俺、ルキアのせいで振られちゃったんだぜ?」
そんなこと言ってもさ、沙入、さっきは何でもっとロメルを引き留めなかったんだよ?ロメルがかわいそうじゃんか。あっさりし過ぎだせ?
‥‥‥‥って、俺が一番悪いんだけど。何とかなんねーのかな?沙入とロメルを仲直りさせてやりたいけど‥‥‥‥どうしたら?
「‥‥‥‥‥まあ、原因はそうだな‥‥‥うん。でも、修復すれば?」
こんなんじゃ俺だってつらいじゃん。頼むよ、沙入!
「‥‥‥‥‥俺、あの子はもういい。だからルキア、おまえ、償えよ。」
「償うって‥‥‥‥?」
「今からルキアは俺の彼女だ。いいな?」
「はっ?」
「だから、俺が今日あの子とするはずだったこと‥‥‥‥‥してもらうぜ。」
「へっ?」
「ルキア、俺が好きなんだろ?」
沙入が俺に一歩近づく。俺は一歩さがる。
「‥‥‥‥‥だ、だ、だめだって‥‥‥‥‥お、おいっ!」
後退る俺は外灯のポールに、コンっとぶつかった。
「俺、ルキアを一目見た時から‥‥‥‥ずっと前から知っていたような‥‥‥そんな気がしてて‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
だよな。めっちゃ知ってるから、実際!
「俺の大切な人になるって‥‥‥‥‥‥直感でわかった。」
だろうな。沙入のバンドの第1号メンバー俺だし!
「だから‥‥‥‥‥‥これは遊びじゃない。わかるよな?」
沙入は両手で俺の両耳のへんを押さえた。
や、ヤバい!俺、動いたら帽子が脱げて地頭が出るっ!
ロン毛と帽子が取れたらバレる!
このシチュエーションでバレるわけにはいかない!そんなことになったら俺と沙入の友情が壊れちまう!
俺、沙入のこと尊敬してるし、憧れてるし、マジ惚れてる。友達として。
沙入との友情を失くしたら俺は‥‥‥‥‥?
俺の今までの日々には沙入がいたからこそ価値があった。
これからの日々から沙入を失ったら‥‥‥‥‥‥?
嫌だ!そんなこと絶対考えられない‥‥‥‥‥‥!
動けない、俺。
「ルキア‥‥‥‥‥」
沙入の顔が近づく。
俺は目を瞑った。
沙入は俺のほほをそっと撫でるようにしながら放した。
「‥‥‥‥ルキア、連絡とれるようにしようぜ。」
「‥‥‥‥‥ごめん、スマホ電池切れで‥‥‥‥」
俺は沙入の顔を見ることができない。
「じゃ、俺の教えとくから、帰ったらすぐ登録しろよ。」
「‥‥‥‥あ、うん。」
沙入がガムの包み紙にささっとメモって渡してきた。
俺は受け取ってポッケに入れた。
うつ向く俺を沙入が覗き込む。
「‥‥‥‥‥怒ってる?いきなりで。」
その時、声がした。
「おおー!お嬢さん、まだここにいたのか。おやっ、この男、なんだい?」
遊歩道のカーブの陰から不意にアイツが出てきた!
「うわーっ!出たーっ!変態オヤジっ!」
俺は思わず叫んだ。
「いいぞ!ほら、もっと見てくれよ!あっはっはっ。」
変態が俺目指して走って来る。
「うっ‥‥‥きもっ!何だこいつっ!逃げろ、ルキアっ!」
沙入は俺を振り向いて叫んだあと、道に立ち塞がった。
「おいっ!やめろっ!くそじじいっ!」
沙入が変態野郎の行く手を阻んでいる隙に俺は駆け出した。
「沙入っ、マジ、愛してるっ!」
俺は、駆け出した足を数歩で止め、振り向いて叫んでから再びダッシュする。
これは本心。
親友としてだけど。
この先ずっと。たぶん一生。死ぬまで。俺、マジだぜ?
俺から見て沙入ほどかっけーやつ、他には絶対いねーから。
ルキアは消える。
沙入の前に、もう二度と現れない。
ごめん、沙入。
だけどさ、俺のファーストキス奪ったの、おまえだぜ?
これは俺の一生の秘密事項‥‥‥‥‥‥‥
14才、クリスマスイブの。




