覚醒の二葉 受難のルキア〈流河〉
俺は二葉さんを抱っこしたままバス停のベンチに座っている。
こんな駅近の駅行きのバス停、こんな平日の夕方から乗る人なんていなくて空いてたから。
通りすがりの人たちが俺らを微笑みながら見て行く。
きっと、寝てしまった妹の世話をしているお姉さんに見えているんだろう。
今、俺の心は重くて重くてブクブクと深海まで沈んでいきそうだ。
俺の‥‥‥‥‥俺の女装が原因でこんなことになっちまうとは‥‥‥‥‥‥
俺はロメルのこと好きになってた。
だからって沙入と別れさせようなんて思ってた訳じゃなかった。
こんなこと望んでいやしなかった。
ロメルを傷つけるようなこと。泣かせるようなこと。
しかも、俺のせいで。
ああ、今はそれよりも先にこの二葉さんを家に送り届けなければいけない。
こんなところで寝たままでは風邪をひいてしまう。
「おい、二葉さん。起きろ!」
俺は膝の上で寝ている二葉さんを左腕で頭を抱えながら右手でほっぺをぺちぺち叩いて見た。
「うう‥‥‥」
眉間にシワが寄った。寝ながら怒ってる。
おもしれー顔。
「おい、起きろ!君のターンだ!」
俺は耳元で言ってみた。
「‥‥‥‥何っ!」
ガバッと二葉さんは起き上がった。
「行くよっ!ドロー!私のお父さん直伝カード!サステイニング エフェクティブ シバリング ワーズ! I'm all ready to go!」
「‥‥‥‥おいっ。寝ぼけんな!」
「あれ?夢?私、抱っこされてんの?おうっ、君はルキアちゃん!」
二葉さんは俺の膝からぴょんと飛び降りた。
「ったくよー!いきなり寝てんじゃねーよ!お陰でえらい目に遭ったじゃねーか!」
俺の前に何事もなかったように立っている二葉さんに文句を言った。
「えらい目って?私を運んで?」
ああー、こいつは何も気づいても聞こえてもなかったんだ。
「‥‥‥‥何でもねーよ!さ、送るぜ。家どっちだよ?」
「あっれー?もしかして、二葉じゃん!」
通りがかりの男子が声をかけて来た。
あれ?こいつの上着の色、さっきの‥‥‥‥?
「おっす!宇崎くんじゃん。さっき、小白&麻井くんとコンビニんとこにいたよね。」
ああ、やっぱり。あの粘着男子の仲間かよ。まさか、まさかじゃねーだろうな?
俺は3度目の正直到来かと焦ったが杞憂だった。
「あ、見てたんだ。あいつらナンパに行くとか言うから俺はあいつらと別れてからコンビニでアイス買ってさ、帰るとこ。」
「ふーん。何で宇崎くんは行かなかったのさ?」
「俺は‥‥‥‥‥そういうのは‥‥‥‥だって‥‥‥俺はお‥‥‥いや、何でもねーよ!気分だろ。」
「あっそう。帰るとこならちょうどいいよ!私、宇崎くんに送ってもらうからルキアちゃんはもういいよ。悪いし。今日はありがとね!」
そうは言っても、あいつらの仲間じゃん。いいのかよ?二葉だって一応女子のはしくれだし。
「大丈夫なのか?信用できるんだろうな?こいつ。」
俺はついつい、じとじと宇崎くんを見てしまった。
「‥‥‥‥こんばんは?ルキアさん。俺、同じクラスの宇崎です。俺でよかったら二葉、送りますよ。」
俺を見ておどおど、どぎまぎした仕様だ。
二葉を見た。
「おっけーだって!じゃ、レッツゴー!宇崎くん。ばいばーいっ!ルキアちゃん。」
まったくもって二葉さんだった。
二人仲良く並んで、俺の事など1秒で忘れたように帰って行く。
「宇崎くん、そのアイス何?バニラ?チョコ?ミックス?」
「‥‥‥‥やんねーぞ。」
「イブに一人コンビニでアイス‥‥‥‥ぷぷぷっ。」
「‥‥‥‥くっ!おまえだって似たようなもんだろっ?」
「うっっ!心臓にサステイニング エフェクティブ スティッキング ワーズの効果が発動‥‥‥‥‥苦しい‥‥‥は‥‥‥早くそのアイスを私に‥‥はやくっ!」
「ったく、なんだよ?そのよくわかんねー効果‥‥‥‥。っち、仕方ねーな。公園で一緒に食おうぜ。」
「うぇーいい!」
「なんか、いつもと雰囲気違うじゃん、二葉。」
「ふふん、これはねー‥‥‥‥‥‥‥」
なんだよ?あいつら仲良しかよ。楽しそうに。
公園に曲がって入って見えなくなるまで二人の後ろ姿を見送った。
俺はマナカに一応、二葉さんが偶然会った宇崎というクラスの友だちと帰ったことを送信しといた。
「はぁー‥‥‥‥やれやれ。」
俺、帰ろ。歩きで。
俺は帰り道をスマホで表示させた。
でも地図見ると、このルートより‥‥‥‥この公園を斜めに突っ切るとちょっとショートカット出来るはず。
俺はここの公園には以前にも何回か来たことがあった。
噴水広場からあっちの裏側の小さな出入口まで突っ切ってまた外に出れば早い。
俺は元の噴水広場に戻ると裏側出入口目指して歩き始めた。
噴水広場周辺にしかイルミネーションはなくてその先は通路にぽつぽつある外灯のみで両サイドの茂みの中は暗くて不気味だった。
なんか、さっきから後ろからヒタヒタと足音がするような?
気のせい?
妖怪出ちゃう?ヨシエみたいなの。
男だってこえーよ。あんなの出たらさ。
やっぱ、戻ろうかな‥‥‥‥
俺はターンしてふりむくと、数歩先に厚手のコートをまとった小太りの中年の男がいた。
そいつは言った。
「お嬢さん、一人なの?」
うぇっ!何だよ、このおやじ。なんか、キモいオーラが出てるぜ?
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
俺、ここはどうすべきなんだ?
周りには他に誰もいない。
おやじはにやっと嗤うと、突然コートの前を開いた。
「!」
げーーーーーーーーーーっ!
俺の目に重大インシデント発生!
「ざけんなっ、くそやろうっ!」
俺は思わず叫んでから再度ターンして、裏の出入口目指してダッシュした。
小太りおやじが俺の脚についてこれるわけがねーからなっ。




