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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第2章
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妥協と焦燥〈カイル〉

 クリスマスイブ。


 毎年のこの日はロメルと二人家で静かに家族が何事もなく平穏に過ごせているとを感謝する祈りの日。


 いつもよりも時間をかけてロメルと二人で食事の準備して夜8時頃帰る母さんを待つ。


 それが俺たち家族の去年の過ごし方だった。


 俺は今年も当然そうだと思っていた。



 それなのに、ロメルはほんの一週間前、俺にクリスマスイブは午後8時前には帰るから出掛けてもいいかと聞いてきた。


 理由を聞くと彼氏と過ごしたいという。



「ダメに決まってるだろ。クリスマスは普段がんばってる母さんのために俺らが感謝してもてなす日なんだから。準備俺一人にやらせる気かよ?ロメルも母さん大事だろ?」



 ロメルは、あのカラオケ店で会ったあの男子、水籠(みごもり)沙入とクリスマスイブを過ごそうとしていた。



 結局話し合いの上、妥協案が成立した。



 食事の用意は早めに二人で行い、ロメルは夕方5時に出て、7時には戻ってくる、ということで。


 なぜそんな時間なのかというと24日にクリスマスイルミネーションに彩られた街をほんの少しでいいから二人で見たいのだという。

 それは、24日にするからこそ価値があるのだと。



 もちろん、俺はロメルが男と付き合うのは反対だ。認めてはいない。


 だけど、俺が強く反対するとロメルも強く反発してきてどうにもならない。


 俺はこんなにロメルのことを大切に想ってんのに、どうして家族よりも他人を優先するんだ?


 ロメルを何とかしなければならない。早く元にもどさなければ。


 ロメルのことを一番わかっていて一番考えてるのはこの俺なのに。


 俺たちの平穏な暮らしが乱されつつある。


 あいつによって。





 そう、11月の土曜日のあの日。


 午後5時過ぎに家に帰ってきたロメルに通常とは違うことがおきたであろうことは一目瞭然だった。



 玄関でコートを脱いだロメルの首に見慣れないものがかかっていたからだ。


 それは、若草色の透き通ったガラスビーズとシルバーチェーンでできたロザリオのネックレス。


 俺、それには見覚えがあった。


 この印象的な美しい色のガラス玉と特徴的なゴシックフレアクロス。



 これ、あいつの首にかかっていた物だ!



 隣の中学のロメルの彼氏、サイリという男子。あのチャラチャラした男が身につけていたものだ。


 先週、ロメルをカラオケ店から連れ戻すときに間近で見た。多分間違いはない。



「おい、ロメル!そのロザリオはどうした?」


「あ‥‥‥‥‥これは大事なものなの!触らないで。預かってるだけだから。」



 俺から隠すようにすすっと横をすり抜けて洗面台に入って行った。



 今日はあいつに会っていたんだ。朝行く時は二葉と待ち合わせしてるって言ってたのに。


 まさかあいつと会ってあんなものを受け取って来るなんて!


 二人の間で何らかの約束とか誓いがあったことは簡単に推測できる。



 俺の受けた衝撃は半端なかった。



 俺がいくら問いただしてもロメルは最初はサイリという男と何があったかは言わなかった。



「カイルには関係ないもん。ほっといてよ。」



 それから次の日の夜、やっと聞き出せたのは、


「あれは沙入が私を想ってくれてる印にくれただけだから。」


「よそのよくわからない男からそんなものを貰ってくるなんて!返してこい!」


「これは私と沙入の事なのよ!カイルは黙ってて。」



 やはりそうか‥‥‥あのロザリオはサイリというやつからだったことがこれではっきりと確定した。



 俺は翌日、学校でロメルの親友二葉に、サイリという男子のことを聞き出すことにした。



 休み時間、廊下に出て二葉が通るのを待って捕まえた。


 俺がサイリという男子について知ってることを全部教えるように言うと、


「カイルくん。情報は情報と引き換えようではないか。君の家に伝わる秘伝の薬の調合法やら罠のかけ方とかないのかね?ごっほん。」


 こいつ、突然何言ってんだ?ぜんっぜん意味不。


「‥‥‥‥家庭に伝わる薬って‥‥‥‥蜂蜜しょうがレモンとか?蜂蜜大根とか、風邪ひいた時とかの?」


「‥‥‥‥それはベタすぎるのではないかね、君。他には?」


 二葉は眉根を寄せて慇懃(いんぎん)に言った。


 こいつ誰の真似してんの?ほんと、いつもながら変なやつ。なんでロメルはこんなんと仲がいいんだろ‥‥‥‥‥‥


 仕方ねーな。適当に言っとくか。


「ああ、しょうがねーな!これは門外不出の蛇ノ目(じゃのめ)家の秘伝の薬なんだけどさ、教えてやるよ。蟻ん子、スイーツ好きの蟻さんな、あいつを10匹食うとその日は転ばなくなるんだぜ。」


「‥‥‥‥ほお。その根拠は?」


「あーんと、アリさんは転ばないじゃん。だからじゃね?」


「‥‥‥‥‥‥カイルくん、放課後までにもう一度出直して来たまえ。」



 哀れを見るまなざしと大袈裟なため息をこれ見よがしに残してから教室に戻って行った。



 ちくぢょうー!俺は二葉からいいようにあしらわれてしまった。




 だが、情報の方がこちらに勝手に近づいて来た。


 俺はその日の内にあいつについて多少知ることとなった。



蛇ノ目(じゃのめ)くん、君、あの水籠(みごもり)沙入と知り合いなんだろ?」


 その日の昼休み、顔は知っているがほとんど話した記憶もない1年の時同じクラスだった男子がわざわざやって来て話しかけてきたのが一番最初だった。




 水籠(みごもり)沙入。


 今、ロメルはそいつと付き合っている。


 俺は今まで知らなかったが、うちの学校の特に男子の中にはこいつを知ってる奴がにわかにいたことが判明した。


 なぜ判明したかというと、そいつらが俺に話しかけて来るからだ。



 自分を水籠(みごもり)沙入に紹介してくれと。



 やつはギタリストだという。プロ目指してるとかで、既に曲まで作れるレベルらしい。


 この辺りでギターに興味のあるやつらの中では抜きん出た実力で有名らしい。


 なんでも以前、顔は映っていないものの首に特徴的なロザリオを下げている水籠(みごもり)沙入のギターパフォーマンスの投稿動画があったらしい。そのロザリオが原因で一部で身元がバレたという。


 よく、そのロザリオを身につけ、ギターを背負って隣の青豆駅近くを歩いている姿が目撃されているとかで。

 青豆駅前には大手予備校の学習塾があり、ここの学校の生徒も通ってる奴が結構いるらしい。


 その水籠(みごもり)が、ロメルとつきあっているという噂が学校に広まり、クラスや学年が違うやつらまでもが何人か俺に接近してくるようになった。


 俺に言われても俺は水籠(みごもり)のことなんて知るわけないし、まともに話したことさえないってのに。




 俺まで煩わせやがってなんて迷惑な男だ。




 あの11月のあの土曜日、あの時から始まった俺の焦燥感は今だって続いている。これ以上あいつをロメルに近づけさせるわけにはいかない。


 俺は水籠(みごもり)沙入からロメルを取り戻す。必ず。

 俺の片割れのロメルを。





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