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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第2章
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回想 〈流河〉その3

「じゃ、私、もう用無しだね。帰る。これ、マナカさんにあげる。私、荷物嫌いだし。じゃあね。流河くん。」


 二葉さんは俺にコンビニの袋を押し付けた。


「え?マナカに?」


「うん。なかなかおいしかったよ、それ。あ、これ捨てといて。バイバイ。」


 二葉さんは空のペットボトルとワッフルを残し去って行った。





 トントン、俺の部屋のドアがノックされる。


 マナカが顔だけ覗かせた。


「流河、二葉ちゃんワッフルが好きなんだよね?急いで買って来てよ!あと生クリームもね。」


 遅れた昼食を終えたマナカがまたもや俺に用を言いつけた。


「っち!しょうがねーな。金よこせよ。」


「サンキュー、流河!はい、これでお願い。残りで好きなもの買っていいから。」


 ドアの隙間からマナカは俺に千円札2枚渡した。


 俺は家から一番近いコンビニへチャリで向かった。

 歩いて行っても5分もかかんねーけどな。


 家の近所のコンビニについた俺は駐車場のはじっこにある駐輪場にチャリをおいてカギをかけた。





 チャリ‥‥‥‥そう、チャリが置いてあったんだ。あの時。沙入のチャリが。

 数台の自転車に混じって公園のすみっこの植え込みの前に。





 そう、あの日、公園の中は駐輪禁止にもかかわらず、いくつかチャリが停められていた。


 その中に沙入のチャリあることに俺は気づいていた。


 沙入のチャリは基本黒だが、盗まれないようにと、派手なステッカーと沙入による芸術的(?)なゴールドのペインティングが施されていて、一目でこれだと識別できるものだった。



 もうすぐ昼だし、そのうち沙入とロメルはチャリをとめているこっちに戻ってくるはずだ。



 二葉さんが帰ってからも俺はそのままベンチに一人座って考え事をしていた。


 もちろん、それは気になる沙入とロメルのこと。


 沙入からの返しは一向に来ないし、だからといってしつこくまた『どこにいんの?』なんて送れやしないだろ。






 ここ、日が当たってだんだんぽかぽかしてきたな。


 俺は考え事をしているうちにうとうとしてきた。


 夕べは今日のこと考えててなかなか寝つけなかったせい‥‥か‥‥な‥‥‥‥‥




「起きろよ、流河。」


 誰かが俺の肩を揺すっている。


「おいっ!流河、流河、起きろよ!こんなとこで寝るなっつーの。よくこんなとこで寝られるなぁ。」


「日向でぽかぽかして座ったまま寝てしまったんじゃないかしら?」


 ん?これはロメルの声‥‥‥‥‥‥


「爆睡かよ?おいっ!流河。」



「‥‥‥‥‥‥んっ、うわっ、沙入!ロメル!」



 俺がはっと顔を上げると目の前に沙入とロメルが立っていた。



「ったく!こんなとこでおやじみたいに寝てんじゃねーよ!」


「風邪ひいちゃうよ、流河くん。大丈夫?」



「‥‥‥‥ああ、()り。」



 俺がうとうとしてる間に沙入とロメルが戻って来てた。


 くっそ、ロメルにアホ(づら)見られちまった!


 結局この二人どうなったんだよ?沙入がラブソング聞かせたんだろ?


 そんなの、めっちゃ恥ずいよな?普通。そんなこと出来んの、沙入だけだ。


 んで、沙入はロメルにロザリオあげたんだろ?


 結果は‥‥‥‥‥‥‥?


 今、一緒にいるってことは‥‥‥‥‥‥‥





 俺は沙入とロメルに下から上まで目線を這わせた。


 沙入の首からあのいつものロザリオ消えている!


 二葉さんが言ってたように確かに枯れ芝のような切れ端が所々沙入の黒いパーカーにも、ロメルのコートにも、繊維に入り込みはりついている。



「あの子どうしたんだよ?」


 沙入が周りを見回した。


「二葉さん?二葉さんはもうとっくに帰ったよ。俺、文化祭ん時の事謝ったし、ヒトミとマナカのことも話したし、もうわだかまりもねーよ。お互いにな。」


「そうなの!よかった。二葉ちゃんは本当はとっても優しい子なの。」


 ロメルはふんわりとした笑みを俺に見せた。


 こうして落ち着いて見るとロメルって童話に出てくるお姫様みたいだな。


 ほら、あれ、そう、ビューティー&ビーストみたいな。




「何か変わってるよな。二葉さん。」


「うふふ、二葉ちゃんは斜め上なの。」



 そう言って俺に微笑むロメルの腕を沙入が掴んだ。



「じゃ、行こうぜ。ロメル。流河、明日来いよ!じゃあな。」


「ちょと待って。沙入。私、まだ流河くんにお礼をちゃんと言ってないの。」


「‥‥‥‥‥流河、ロメルのこと助けてくれたんだってな?ほんとはロメルは俺が助けなきゃいけなかったのに。ありがとな。」


「流河くん。本当にありがとう。迷惑かけてごめんなさい。私、今思うとすごく恥ずかしい。」




 ロメルの首もとからちらりと銀色のチェーンと透き通った薄黄緑色の玉の首飾りが見えてる。これは‥‥‥‥‥‥




 ‥‥‥‥‥‥‥受け取ったんだな、ロメル。沙入の想い。




「‥‥‥‥‥‥‥別に。」


 恥ずかしそうにキョトキョト目線を動かしているロメル。

 俺は意識して、助けたことなど特に何も気にも留めていないかのような態度で言った。




「じゃあな。明日待ってる!」


「またね。流河くん。」



 沙入は俺にふふんと小癪な笑みで言った。直後、‥‥‥‥口元を結んだままのかすかな微笑みでロメルと目線を交わした。



 こんな沙入の顔初めて見た。好きな子にはこんな顔すんだな‥‥‥‥



「おうっ!沙入、ロメル、じゃあな。」


 俺はギシギシきしみ始めた気持ちを隠して笑って手を振った。






 俺は頼まれたワッフルと生クリーム、あと適当に飲み物とスナックを数種類買ってチャリの前カゴに乗せるとすぐに家に戻った。



「買って来たぜ。」


 玄関まで出てきたマナカに渡した。


「サンキュー、流河(ルカ)!今日はお父さんとお母さんはホテルのクリスマスディナーに行っちゃうからさ、私たちちょっと騒いだってへーきだよ!何しようか?私たち、歌っちゃう?物まね得意だし。いっちょアレ、披露しちゃおうか?」


 受け取りながらマナカが妙にウキウキしているのがわかった。


「何で俺がヒトミと二葉さんにそんなサービスしなきゃなんないんだよ?やりたきゃ一人でやれよ。」


「ったくさー、流河は最近冷たいなぁ。前はマナカ、マナカってなついてたのにさ。かわいくないやつ!」


 マナカはつんつんしながらキッチンに戻って行った。



 まあ、そうかもな。


 沙入に言わせたら俺は以前、とんでもないくらいのシスコンだったらしいから、これが普通くらいなんじゃねーかな。多分。



 自分でもわかる。俺はあの日からだんだん変わってきたって。


 俺はあの日、ロメルに恋したんだ。それなのに、自分で自分の気持ちさえはっきりつかめきれてない間にロメルは沙入の本物の彼女になっていた。



 俺は親友の彼女が好きだなんて誰にも言えやしない。



 俺の気持ち知ってんのは、カンの鋭い二葉さんただ一人。


 何であの日ちょっと一緒に話しただけで、俺の気持ちがわかったんだろう?


 あの日の夜遅くに二葉さんからメッセージが届いた。



『流河くん。とーとつですが、ロメルちゃんは沙入くんの本当の彼女になりましたことを正式に事実として報告しておこう。』


『もう、沙入くんからとっくに聞いてた?』


『失恋した時は異世界転移して、チートとハーレムの世界に行くといいよ。妄想は敗者の特権だし。虚構の揺りかごに揺られてしばし傷を癒すがいい。お大事に。』



 ったくよぉ。二葉さん、マジ俺は超びっくりしたぜ。


 俺のロメルへの気持ちがなぜかバレてたことに加えて、ほんのちょっと話しただけの小学生みたいな女子からこんな世知辛いメッセージを送られるなんて。


 こいつ、これってぜってー俺に文化祭ん時の復讐してるだろ?


 ロメルが二葉ちゃんは斜め上だの言ってたのは正にその通りじゃん。はははっ。


 こういうやつ、嫌いじゃないぜ。




 二葉さんとは直接会ったのは2回しかないけど、今じゃ俺の相談相手になってるという、妙な関係。



 初めて会った時はいきなり喧嘩してたのにな。



 あれから2ヶ月もたたないうちにうちで一緒にパーティーするだなんて思いもよらねー展開だよな。マジ。








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