表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第1章
39/142

A love song for you〈沙入〉

 土曜日の、天気のいいこんな日は公園の人出がだんだん増えて来た。


 俺はロメルと二人きりで話がしたい。




「気をつけて。」


 俺はロメルの手を取って坂を下る。



 所々にベンチしかないただの遊歩道の方にロメルを連れて行き、遊歩道から脇に外れ、牧場のような短い草の生えた急斜面の土手中腹へと降りて行く。


 下の方は植え込みと樹で垣根になっているし、網のフェンスもあるから公園外周の遊歩道からもほぼ見えないだろう。



「ここ草の上だけど、いい?」


 俺はロメルに聞いた。


「嫌なら俺のひざに抱えてやってもいいぜ?」


 俺がふざけて言うとロメルは、


「‥‥‥‥‥やっとご機嫌まっすぐになった。」


 そう言ってにこりと笑った。



 俺の頭ん中を『コハクくん』の言葉がよぎる。



 頭に浮かぶ、流河の腕に絡みつくロメルの姿。



「‥‥‥‥‥‥‥」



 俺の顔を見て顔を曇らせたロメルはおずおず話し始めた。



「あの‥‥‥‥‥今日は遅れてごめんなさい。流河くんと二葉ちゃんが遅れたのも私のせいなの。」



 ロメルは俺の足元の横に足を投げだして座った。


「コートを着ていてもちょっとおしりが冷たいかもね。でも、こういうのっていいよね。私好きよ。今なら虫もいないし。」


 俺を見上げながら、いや、俺の後ろの空を見ながら言った。


 俺はロメルの横に座った。



「あのね、今日は私1時間も前に家を出たのよ。それなのに沙入くんを待たせてしまったのは‥‥‥‥‥。偶然ばったり会った同じクラスの男子二人にしつこくつきまとわれていたからなの。その時偶然流河くんがコンビニに来たのを見かけて、電話しながら『沙入』って言ってたからこの男の子は流河くんだって確信して私、思わず‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 俺は目を合わせたりそらしたりを繰り返しながら一生懸命話すロメルの顔をずっと見ている。



「‥‥‥‥‥‥それで、私と流河くんは人がたくさんいる駅方面に逃げて、小白くんたちをまいてからまた戻ってきたの。そのせいで遅れてしまったのよ。本当にごめんなさい。流河くんも二葉ちゃんも時間の前には来ていたの。だからお願い。」


 俺の顔を覗き込むように首を傾げて言った。


「流河くんと二葉ちゃんのこともう怒らないでね。」



 ロメルは俺が不機嫌になっていた原因をはき違えてる。

 俺は3人がほんの少しばかり遅れて来たからってなんとも思ってはいない。



 クラスの男子にしつこくつきまとわれ、偶然見つけた流河に助けを求めたロメル。

 それに答えた流河。



 俺は、一部分を見て聞いて、とんだ思い違いをしていたことが判明した。



 ロメルは嘘はついていない。

 ってか、ロメルがこんなことで嘘をつく女ならもう興味はなくしてる。


 俺は勝手に疑心暗鬼に陥っていただけだったって‥‥‥‥マジかよ?カッコわり。


 流河はやっぱり流河だったんじゃん。


 なんだよ‥‥‥‥‥流河が裏でロメルとつながってた訳じゃなかった。さっきまともに出会ったばかりだったってか?



 流河は先週の俺と同じだった。


 嘘をついたロメルの窮地を察して『雪村くん』からロメルを護った俺。


 偶然居合わせ、しつこくつきまとう『小白くん&麻井くん』からロメルを護った流河。




 だけど‥‥‥‥‥‥さっきの流河の態度には表れていた。ロメルを見つめる流河の視線は‥‥‥‥‥‥


 流河はロメルはほんとに俺の彼女だってまだ思ってる?




「‥‥‥‥流河、ロメルを助けたんだ?ロメル、流河のこと、どんなやつだと思った?話したの今日、初めてだろ?」


 俺は前髪の隙間からロメルの表情、仕草を観察してる。


「うん、そうよ。‥‥‥‥うーん、えっと、最初はちょっと怖そうな感じもあったけど‥‥‥‥でも実際は違っていたわ。ぶっきらぼうの後ろに優しさが隠れてる?って感じ。沙入くんの親友だもん。絶対いい人だよね。うふふ。」


「‥‥‥‥‥タイプ?」


「えっっ?あの‥‥‥‥‥‥?」


「好き?流河みたいなやつ。」


「‥‥‥‥‥ええっと‥‥‥そうね、うん。いいと思う。カッコいいからモテてるんでしょ?沙入くんもね。うふふっ。」



 ‥‥‥‥‥そんなにキョトキョトして。内心が表れてる。わかってる。



 ロメルは流河に興味持ち始めてる。


 ロメルは俺の質問に戸惑いながら、無意識に俺と流河を比べてる。



 まあいい。


 俺が今からすることは変わりはしない。



「わかった、ロメル。不機嫌さらしてごめんな。」


「ううん、誰にだってそんなこと。」


「じゃ、これ耳につけて。俺の曲聴いて。」


 俺はワイヤレスイヤホンをロメルに渡した。


「うん。あの、それで‥‥‥‥‥‥私に捧げるラブソングって、どういうこと?」


 ロメルは困惑しているようだ。


 そんな顔すんなよ、ロメル。俺だってほんとはすげー緊張してんのに。

 いつもハッタリかまして余裕ぶってんのも楽じゃないんだぜ?


「聴けばわかるから。」


 俺は事前に撮っておいたオリジナルソング、ロメルを想ってリリックスも俺が考えた歌をスマホ画面に呼び出しロメルに渡す。


「いくぜ。」


 俺はロメルと一瞬目線を合わせてから再生させた。



 ロメルは興味深そうにディスプレイに見入っている。



 ちょっと恥ずくなってきた。ナルシストだと思われちまうかな?


 でも、俺の気持ちを伝えるのは、俺を知ってもらうのは、これしかないと思って。


 ロメルに合わせエレキをアコギに持ち変え、柔らかいサウンド、甘いメロディにしたつもり。



 こういうのって、受け取り手次第だよな。


 世間の高評価もその反対も関係ない、聴いてるやつの感性。


 これは俺がロメルのために作ったソング。


 ロメルの心だけに響けばそれでいい。





 俺には聞こえないが、今、ロメルが見入っている画面の中の俺はアコギを抱えてこうしゃべっている。



『ロメル。えー、作詞作曲水籠(みごもり)沙入。ロメルに捧げる歌、聴いて。』



 ロメルはイヤホンを付け、黙って画面に集中している。俺はそんなロメルの表情を緊張しながら見ている。



 ♪君は 狭い水槽で泳ぐ 美しい魚


 濁った水の中 君は 苦境で苦悶


 生きるため 呼吸(いき)をするため 飛び出した


 助けを求め 伸ばした君の手を 俺は掴んだ


 だから 君も 放さないで 


 握った その手を


 An   immature (未完成な)  and   selfish (わがまま)  boy


 君が 泳ぎ始めた この水籠(みずたまり)


 青い澄んだ空の色 映ってんの 見えるだろ


 君となら もっと もっと 深く 広く 出来るから 


 神に誓う この フルールドリス フレアクロスに


 この歌 行け 響け 君にだけ







次回で第1章終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ