出会い《流河編》
土曜日。
今日はようやくあいつのこと直で聞ける。
俺、今日が早くこないかとうずうずしていたんだ。
マナカのヒトミ話は続いている。なんでも今週は月曜日早々からやつは面白かったらしい。
突然眉毛が線のように細くなって妙なとんがりカーブを描いていたという。
それ、超笑えたらしい。
マナカによると『それは一発芸で私を笑わせるために眉毛を犠牲にしたんだよ、きっと。』と、言って写真を見せてくれた。
それは確かに‥‥‥‥ぶっっ‥‥‥‥‥くっ‥くっ‥‥‥‥くっそ、俺まで笑ったら俺の負けだ!見せられた時、俺は奥歯を噛みしめこらえた。
やばいだろ、これ‥‥‥‥
マナカを一時笑わすためだけにこんな犠牲を払うとは‥‥‥‥‥‥‥見上げたヤツだな。
こんなこと俺には絶対出来はしない。
これもマナカへの愛なのか?
俺は気がはやってずいぶん早く家を出てしまった。
待ち合わせ場所の公園の有料駐輪場にチャリを預けてからスマホを見るとまだ9時27分。
まだ30分はある。約束は10時集合だ。
んじゃ、コンビニにでも行って喉を潤すもんでも買っておくか‥‥‥‥‥
俺は公園の脇にあるコンビニに歩いて向かった。
それは4車線の道路を挟んで横断歩道の向こう真ん前にある。
俺は信号が変わるのを待つ。
コンビニ前の広い駐車場には数台車が止まっているだけだった。その店の扉の脇では茶髪の髪の長い女の子と男二人が何か立ち話をしている。
横断歩道の信号が歩きマークになり、俺は一人渡った。
コンビニの自動扉が開く前にふと、横にいるやつらを見た。
女の子がおどおどしている。
「私、待ち合わせなの。無理だから。」
その子の声は疎ましがっているように聞こえた。
「いいじゃん、そんなのほっとけよ。俺が誘いし夕べのカラオケでオール蹴ったんだからさ、今からならいいじゃん。昼間だし。」
なにやら強引に誘ってやがるようだ。
なにげに目を向けると俺とタメくらいのやつらっぽい。
ふと、二人の男の背中越しに女の子と目が合った。
ん?
なんだよこの子!めっちゃかわいいじゃん!もしかして、ここでナンパされてんの?
なぜかその子は俺の顔をそのまま見続けてる。
まさか俺に一目惚れ‥‥‥‥‥‥ってなわけねーよっ。
俺、顔になんかついてる?俺は顔をひと撫でした。
まあ、俺とは関係ねーし。
俺は店に入り、ストレートティーを買いテープを貼ってもらうと、斜めがけに背中にかけたボディバッグを手繰り寄せて中に詰め込んだ。
あ、電話。沙入からだ。
俺は店を出るとすぐに出た。
「おう、沙入?俺、もう着いてる。‥‥‥沙入もな!」
俺がちゃんと家を出たか確認の電話だった。
俺が足を止め、スマホをポケットにねじ込んだ時、
「流河くん!」
さっきの女の子が突然俺の名を呼び駆け寄ってきた。
「お待たせ!行こっ。流河くん。」
いきなり俺の腕にしがみつき、強引に歩き出した。
なっ、なんだよこの女!何で俺の事知ってんだ?
「あのっ、沙入くんのお友達ですよね?お願い。このまま公園の方に行って。」
その子は歩きは止めずに先ほどの二人組の男子をチラリと一瞥し、ちょうど青信号になっていた横断歩道を早足で渡り始めた。
俺はびびって腕を引っぱたけど女の子はしがみついて離れない。
「おっおい!どういうつもりだよ!誰だ?おまえ!」
「お願い!あの人たちから見えなくなるまでこのまま公園まで行ってください。」
かたくなに真っ直ぐ前方を見ながら蒼白な顔で俺に言った。
よく、わかんねーけど、さっきのやつらにしつこくされて困っていたのか?
全く、何で俺が巻き込まれんだよ?
ん?この子、沙入のこと知ってんだよな?
俺の名前も!
噴水の向こう側まで来た時、女の子はパッと俺の腕を放して2歩ほど離れた。
「ご‥‥‥ごめんなさいっ!」
その子はさっきまでは蒼白だった顔を急に真っ赤にし、狼狽しながら謝ってきた。
「その‥‥‥あの‥‥‥さっきの人たちがしつこく誘ってきて、断ってるのに離れてくれなくて。あー、同じクラスの人なの。」
「だからっていきなり知らない男にしがみついてくるなんてどうかしてるぜ?」
俺は照れ隠しのため苦々しく言った。
本当はもしやこのガチかわいい子に一目惚れされたのではと勘ぐっていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥そうですよね‥‥‥‥ご迷惑をかけて‥‥‥‥‥本当にごめんなさい‥‥‥‥‥」
その子は頭を下げた。
その地面にしずくがひとつ落ちた。そしてまたひとつ。続けてふたつ。
え?
その子は頭を上げるとそのまま後ろを向いた。
「‥‥‥‥おい、泣くことないだろ?」
「‥‥‥‥私、泣いてませんから。」
「これって、俺のせいかよ?‥‥‥‥おいっ?」
後ろ姿に声をかけたがこっちを見ようとはしなかった。
その時さっきの二人組がやって来た。
「おーい、蛇ノ目ロメル!そいつが例のチャラ男かよ?」
「小白くん、麻井くん。まだ何か用なの?」
その子は涙声で言い、わずかに後ずさったのが後ろにいた俺にはわかった。
うぇっ!ロメルって!おいっ、それ、つい先週沙入の彼女になったって言う子!
この子、沙入の彼女じゃん!やっべ!泣かせちまったぜ!
「何だよ?おまえ、泣いてんの?はーん‥‥‥‥もしかして、振られた?別れ話してんの?」
そいつらは薄ら笑いを浮かべてうつむいたロメルの顔を覗き込もうとした。
「‥‥‥‥おまえら、ロメルから離れろ!」
俺は不機嫌マキシマムの顔をそいつらに向けた。




