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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第1章
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日曜日のアウトサイダー《流河》

 日曜日、俺は沙入(サイリ)ん家の母さんがやってるスナック『アウトサイダー』に向かっている。


 そこは掃除すんのが条件で俺たちは昼間、自由に使える。


 俺と沙入は放課後と週末は大抵は二人でそこにいることが多い。


 駅前自転車置き場は有料だから俺は徒歩だ。


 って言っても今日は雨だし、どうせ。


 午前10時過ぎ。


 きっと沙入はもう来ている。


 あいつは時間さえあればいつだってギターに夢中だから。




 扉を開くとカランと音がする。


「よお!沙入、おはよっ。来たぜ!臭っ!なんだよ?この臭い!」


「おはよー、流河(ルカ)。俺、今ちょっとこいつ改造しようと思ってさ。」


 沙入がテレキャスを分解している。


「くっせ!ハンダ付けかよ?ここまともな窓ねーのに止めろっつーの!」


 ここは地下1Fだ。


「換気扇ついてんだろ?」


「ついててもくっせーわ。俺、こんなとこで歌えねーからな!」


「ったく、わがままなヤローだぜ!そこで座って冷蔵庫のジュースでも飲んでろ‥‥‥‥‥‥‥よっしゃ、これで配線はいいはず。」


「なぁ、昨日はどうだったんだよ?マナカの彼氏のこと。夕べ直接今日話すってラインで言ったじゃん。」


 俺はカウンター内に入り小さな冷蔵庫から炭酸水を出し、グラスを並べ二つに注ぎ分けながら言った。



「ああ、あれな。ちょい待って。俺、これ先にやんねーと。音、早く確かめたい。」


「‥‥‥‥‥まったく。」


 俺は沙入にグラスを渡しながらギターの内臓を覗いた。


「うっわ!雑。きたねーハンダだな?なんだよ、この紐?絶縁テープねーのか?」


「うっせーわ。ほっとけ!」


「いつからやってんだよ?休憩したら?」


 こいつは夢中になると止まんねーからな。


「‥‥‥‥そうだな。せっかく来たのにわりぃ、流河。」


 沙入は手を洗うとボックスシートにどかっと身を投げ出すように座った。


「はぁ‥‥‥‥‥」


 沙入は一口喉を潤してから言った。


「昨日はさ、結構痛い目に会ってさ。」



 沙入は昨日、マナカの彼氏の妹の親友に会って来たと言った。


「公園で話してたら途中で邪魔が入ってさ、彼氏と妹の二葉って子のことは一方的に少ししか聞けなくてさ。」


 その親友のロメルという女子によれば、要約すれば二人とも明るく優秀で素晴らしい人物だということだった。


「ったく!何だよそれ?あっちの親友だったら良いことしか言わねーに決まってんじゃん。そんな回答じゃ全く役立たずじゃん。」


「ごめん、流河。だけどさ、突然現れた邪魔な奴を避けて俺たちカラオケに行ってさ、そこでゆっくり二人きりで話そうとしてたんだけどさ、今度はそっちには、俺がロメルを無理やり連れ込んだかのように怒ってロメルの双子の兄貴とかいう男が突入してきてさ、そんでおしまい。」



 女の子と二人きりでカラオケって‥‥‥‥‥?

 そう言った沙入は妙ににやけている。おかしい。


「‥‥‥‥‥まだ、何か他にあったんだろ?」


「まあな。」


「もったいぶってんじゃねぇ!」


 俺は沙入の頭を左腕でガシッと抱えた。

 沙入は抱えられたまま顔を俺の方に向けると不敵な笑みを浮かべて言った。


「その子、彼女にした。」


「!」


 俺は思わず沙入を放した。


「ったくよー!肝心の事は聞かず‥‥‥‥そう言う事かよ!」


 ‥‥‥‥ああ、そういえば沙入は昨日の約束に俺が参加することをやけに拒んでいたっけ。


「‥‥‥‥‥最初から狙ってたんだな、沙入。メインの目的はそっちだったんだろ!くっそ!」


 沙入のやつ、あの兄妹の情報収集は二の次だったんじゃん。


「だって、あの子、俺のガチ好きなタイプでさ。うちの学校にはいねーぜ?あんなかわいい子。」


 学校ではモテモテの沙入だが今まで誰も相手にすることはなかった。きっと何人にも告られてるに違いない。

 今まで沙入の彼女はギターだけだった。


 ふーん、沙入のハートを射止めた子って興味あんじゃん?

 今度は俺のターンだぜ。


「んじゃ沙入は目的果たしたんだろ?だったらさ、今度こそ俺のために再設定しろよ。」


 俺は不機嫌に顎を上げ下見に沙入を睨んだ。


「どうしたいんだよ?」


「だったら、なるべく早く、今度の土日までに俺を彼女に会わせろよ!俺が直接聞くから。それに、文化祭時のこと、二葉って子に謝る。」


「なっなんだよ!来週は俺ら初めてのデートなんだって。それについて来る気かよ!」


「‥‥‥‥‥俺、今回で結構機嫌損ねたぜ?」


 俺は目を細めた。


「‥‥‥‥‥わかった。考えとく。」


 観念したようだ。ふふん。


「今日は俺、帰るわ。まだ、ここ臭せーし。じゃ、頼んだぜ!」


「おっ、おい!流河、待てよ!」


「やだねっ!」


 俺は焦り気味の沙入を残し扉を開いた。カランと心地いい音がする。


 ざまーみろ!沙入のやつ。彼女なんか作りやがって。


 マナカだって。



 俺は周りから置いてかれたようなわびしい気持ちになった。



 来週、楽しみにしてっからな、沙入。






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