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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第1章
16/142

待ち合わせ〈沙入編〉

今年も後30分間切りました‥‥‥‥

空しく1年過ぎちゃったなぁ、自分。


あなたはどうでしたか?

 土曜日。


 俺は新黒豆駅前の公園に着いた。


 俺の家の最寄り駅の隣駅の駅前公園のここまでチャリで来た。ここまでは10分もかからない。


 俺はその辺にチャリを止めると、指定した場所、噴水の泉の前に来た。

 スマホを見るとまだ約束の時間の20分も前だった。


 向こうの広場で子どもたちや親子連れが遊んでいる。犬の散歩の人もちらほら見える。


 噴水の回りを見回したがさすがにあの子はまだ来ていない。


 俺は白く塗られたコンクリート製の噴水の泉の縁に座った。


 暇じゃん。

 ここにギターがあったら新しいリフでも作っているところなのに。


 俺は鼻歌でジミヘンのお気に入りのメロディを口ずさんだ。

 もっと生きていたら‥‥‥‥どんなサウンドが生まれていたんだろうな?



 ここは夏だったらたくさんの子どもが入り込んで水遊びを楽しんでいるところだ。

 泉の前には『危険 泉には入らないでください』と看板が出ているが気にしている親も子もいやしなかった。

 俺も5、6年前まではその一人だった。すっげーガキだったな。月日が経つのは早いぜ。



 あれ、こちらに向かって来る女の子。


 文化祭で見た時と雰囲気が違う‥‥‥あの時はセーラー服を着ていたから。


 俺の斜め45度後方で止まってきょろきょろしている。

 まだ約束の15分も前なのに。

 来てくれたんだ。


 よっしゃ、第一段階クリア。


 俺は噴水池の縁から立ち上がり声をかけた。


「探してんの、俺だろ?」


「あっ、水籠(みごもり)くん!こんにちは。」


 蛇ノ目(じゃのめ)ロメルは俺を見て軽く会釈した。


「俺の顔、覚えてたんだ?」


 俺はあえて文化祭に行った時と似たようなかっこでここに来た。あの子にすぐに気づいてもらえるように。


「はい。だって‥‥‥水籠(みごもり)くん目立ってるから。」


 蛇ノ目(じゃのめ)ロメルの大きな瞳が微笑んで俺を見た。


 髪をほどいただけで‥‥‥‥‥ずいぶん変わるんだな。女の子って。

 私服は派手でも地味でもなく。アクセなし。

 それでもロメル、俺よりおまえの方が目立ってるんじゃね?



水籠(みごもり)ってなげーからな、沙入(サイリ)でいいよ。で、俺は何て?」


「あ、えっと、沙入(サイリ)くん、じゃ、私のことはロメルと呼んでください。」


「了解!じゃ、ロメルさん。ここじゃちょっと寒いだろ?どっか入る?」


「‥‥ううん、私は大丈夫です。お店だと隣のおしゃべりが聞こえてしまうでしょ?私、あまり誰かに聞かれたくないの。沙入(サイリ)くんは寒い?」


「オーケー。じゃ、その辺のベンチに座ろうぜ。ああ、あそこに行こう。」


 俺は遊歩道との境目の低い植え込みに沿い、間をとって幾つか配置されているベンチの一つに向かった。



 俺が座ると一人分(あいだ)を空けてロメルが座った。


 おいおい、俺って警戒対象者かよ?



「でさ、どう?そっちはさ。落ち着いた?」


 とりあえず俺から。


「あの‥‥‥‥、最初にいいですか?」


 遠慮がちにロメルが俺の方を見ながら切り出した。


「うん、言って。」


「二葉ちゃんはすごく明るくて、元気で、斜め上で面白くて、成績優秀で、思いやりがあるいい子なの。教室でもいつも私を守ってくれてるし。それに二葉ちゃんのお兄さんはすごく優しくて、頭が良くって、楽しくって、素朴で、かわいくて、とにかくとても素敵な人なんです!」


「‥‥‥‥お‥‥‥おう。で?」


 何だ?いきなりのこの力説は?


「だから‥‥‥‥‥その‥‥‥この前は沙入(サイリ)くんのお友達と言い争いになってしまったけれど、悪く思わないで!お願い!二葉ちゃんとお兄さんのこと、ちゃんと知ったら、沙入(サイリ)くんのお友達もわかってくれると思うの!」


 頬を紅潮させ俺の目をマジで見つめて熱弁してきた。手をベンチについて身を乗り出していて、いつの間にか俺との一人分の隙間が消えていた。


「あの子、二葉さんて言うの?お兄さんのことがずいぶん好きなんだな。」


「そうね。でもそれは仕方がないの。二葉ちゃんのお兄さんはそれくらい‥‥‥その、何て言えばいいの?‥‥‥‥‥素晴らしいというかエクセレントなブリリアントでブライトな人なんです!」


 いつしか俺のすぐ横で頬を染め、何故か瞳を潤ませて訴えてきた。


「あ‥‥‥‥‥ごめんなさい。私ったら‥‥‥‥。」


 ロメルは、はっとしてから急に恥ずかしそうにうつむいて黙りこんだ。


 二人の間に沈黙が流れた。





 ふと、俺の前に影が出来た。


 俺が見上げると、俺の目の前に俺とタメ位の一人の男子が立っている。


 何だよこいつ?俺はこんなやつ知らねーし。ロメルの知り合いか?


 横を見るとロメルがそいつを見上げて目を大きく開けている。


「!!」


「はん?」


 何か知らないがそいつの視線には俺に対する敵意を感じる。もしかしたらロメルの彼氏?このダサいやつ。



「雪村くん!どうしてここに?」


「‥‥‥‥どうしてって、見ての通り犬の散歩さ。」


 雪村と呼ばれた男子は手に巻き付けたリードを見せた。

 柴犬がロメルの膝をくんくんしている。


「きゃっ、くすぐったい!うふふっ。」


「誰?」


 俺はロメルに聞いた。


「あ、同じクラスの人。偶然ね。」


 俺に答えてから雪村という男子に向けて言った。


 ふうん。クラスが同じだけで親しくはなさそうだな。その言い方。


蛇ノ目(じゃのめ)さん。この人がそう?」


 雪村と呼ばれている男子が俺をチラッと見てからロメルに目線を移した。

 冷ややかな表情で。



「‥‥‥‥あっ!あのっ‥‥‥‥」


 ロメルの目が泳ぎ出した。


 この子もう、さっきから感情が丸わかり。素直なんだな。何あせってんだよ?


「違うの?隣の中学のなんとかってやつなんだろ?」


「そっ、そうよ!わ、私たちデート中なのよ。さあ、行きましょう。沙入(サイリ)くん。」


 ロメルが焦って立ち上がった。


 ふーん。こいつに対してはそういう設定になってんだ?‥‥‥おもしれーな。

 そんじゃ、俺も‥‥‥‥


「ああ、行こうぜ!ロメル。」


 俺が立ち上がり肘を出して促すと、ロメルは一瞬躊躇して俺の目を見てから俺の腕に巻きついた。


「じゃあな!雪村くーん!」


 俺はゲスな笑いを『雪村くん』に送りバイバイした。


 俺の左腕にひっついているロメルの顔を見ると今度はマジで泣きそうになっている。


「あの‥‥ごめんなさい‥‥‥」


「気にすんな。」


 俺は耳元でささやいた。




 かわいいやつ。


 第二段階、クリア。







ここまで読んで頂きありがとうございます。感謝!

あなたの良い年越しをお祈りしてます(*^ω^)ノ



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