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全然近くて全然遠い!  作者: メイズ
第1章
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カイルの想い

 ロメルは昼前頃帰って来た。


「ただいま‥‥‥‥あれ、お母さんは?」


「お帰り、ロメル。母さんはばあちゃんの付き添いでショッピングに行った。夕方には帰るって。」


 今日、ロメルは午前中だけあの騒々しい中村二葉の家で勉強会だと言って出掛けていた。


「そう‥‥‥‥カイル、朝のお手伝い代わってくれてありがとう。夜は私が全部やるから。」


 ロメルは玄関でキャメルのダッフルコートを脱ぎハンガーに掛けた。


 どこか機嫌良さげなふわりとした柔らかい笑みが口許に浮かんでいる。


 俺は、午前中出かけるロメルの代わりに食器の片付けと掃除機がけをした。


「何だよ?何かいいことあったのか?鼻歌でも歌い出しそうだな、ロメル。」


「そう?二葉ちゃんのお家で楽しかったからかな?おかげで宿題も終わったし。」


「午後も出掛けるんだろ?今度は誰とどこに行くんだよ?」


「‥‥‥‥‥別に。カイルには関係無い人だから。」


 ロメルは俺を避けるように洗面台に向かった。


「ちゃんと言ってから行かないとダメだろ!」


 俺はロメルの後を追いながらたしなめた。


「カイルに言ってもわからない人だから。それに、遠くに行くわけじゃないし、スマホも持っているんだからいいでしょう?」


 手を洗い終えたロメルは俺を避けるように横をすり抜けるとキッチンに行き冷蔵庫を開けた。


「お昼、昨日お母さんが買ってきたサンドイッチあったよね?」


「ああ、一緒に食おうぜ。」


「カイルもホットレモンティーでいい?」


「うん、サンキュー。」




 俺とロメルはキッチンの前のカウンターのスツールに並んで座った。


 俺は肘をついてロメルの方を向いて温かい紅茶を手にしているロメルの横顔を眺めた。

 長いまつげがうつむきかげんで湯気の立つカップの中を見つめている。


 俺はまた、あの時の事を思い出している。




『ロメル!それ、ケガしたのかっ?』


『‥‥‥‥‥これは‥‥‥違うと思う‥‥‥‥‥‥』


『違うって?‥‥‥血が流れてるじゃん!大変だ!』


『‥‥‥‥‥‥カイル、だめ、見ないで‥‥‥‥‥私、帰る。ごめんね。』




「どうしたの?」


 ロメルがぼーっと自分の顔を見ている俺の目を覗いた。


「‥‥‥‥‥いや、何でも。」


「私、玉子サンドもーらいっ!ぱくっ。」


 ロメルがボックスに一つしか入っていない玉子サンドを取って隅っこを一口かじった。


「うえっ!俺も狙ってたのに!玉子サンド!」


「ふふーん。もうちょっと食べちゃったもん。私のよ!ふふん。カイルは他のハム野菜サンドかツナサンドかアボカドローストビーフ、ほらこれ、カツサンドみたいなのもあるじゃない。」


 ロメルはサンドイッチの詰まったボックスを見ながら言った。


「いいからそれよこせよ!」


「つーん。」


 俺はロメルが油断して横を向いた隙に素早くロメルの手首を掴み自分の方に向けると玉子サンドをぱくっと大きくかじった。


「きゃー!私の玉子サンドがっ!」


 俺はそのままロメルの手首を掴んだままで、ロメルの手に半分残った玉子サンドを一口で食った。


「ふっふーん!隙あり。俺の勝ち!」


「もーっ!カイルったら。いいもん、ならアボカドローストビーフは絶対私のよ!」


「わかったって。」


 口を尖らせてアボカドローストビーフサンドを手に取るロメルを俺は笑いながら見つめる。




 ああ、ロメルがいれば俺はそれだけでいい。こうしてロメルと二人で普通に過ごして行きたいんだ。


 こんな風に過ごせるのはロメルとだけ。俺とロメルのこの幸せは誰にも壊させはしない。



 『運命の人』って、この広い世界の中でどうすれば出会えると思う?


 ただの出会いの偶然をその人がそう思い込めばそれが『運命の人』なんだろ?



 だが、俺とロメルは違う。


 この世に生まれ落ちる前から一緒にいた男と女。


 これはただの偶然とは違う。これこそ、この奇蹟こそ『運命の人』。




 俺の片割れ、ロメル。俺の‥‥‥‥‥‥妹。





 午後1時半。

 ロメルは再び出掛けて行った。


 俺は窓からロメルの行く方向を見た。


 駅の方角に徒歩だ。遠くではないと言っていた。



 俺は素早く黒い無地の目立ちにくいであろうジップアップパーカーを羽織り、ニットキャップを目深に被るとドアにカギをかけロメルを追った。


 俺はさりげないくらいの急ぎ足でロメルが駅に向かうときの道筋を進んでいくと、キャメルのコートで薄茶色の緩いウェーブロングヘアの後ろ姿が見えた。



 ロメルだ。



 俺は気づかれぬように距離をとって追跡した。


 ロメルは出かける前に、いつもより時間をかけて鏡に向かっていた。

 学校では二つに分け肩の上で結んでいる髪も今日は下ろし、サイドの上だけヘアピンでバッテンに留め、色つきリップをくちびるに塗り、明らかに誰かを意識しているようだ。


 きっとロメルは隣の中学の彼氏に会うに違いない。とりあえずどんなやつか確かめずにはいられない。


 つむじとへそが曲がった中村二葉からは何も聞き出せなかったし。




 ロメルは駅前公園の噴水の前で止まりきょろきょろあたりを見回した。


 噴水の縁に座っていたひょろい男がロメルを見て立ち上がった。


 片手を上げてロメルに何か声をかけた。


 ロメルが向かい合って軽く会釈した。



 あのうざい前髪、首にさげたロザリオ。耳に幾つもの光るカフ。黒いスキニージーンズの細身のチャラ系の男。


 あれが‥‥‥隣の中学のロメルの彼氏とやらか?








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