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彼女は俺の魔法使い  作者: 虹色
第1章 新学期
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4 図書委員会、頑張ろう


うちの学校は7階建てで、校舎は北側が空いた『コ』の字型だ。正門に面したまん中が南棟、右側が東棟、左側が西棟。階段が校舎の角に4か所、エレベーターが一基ある。開いている北側をふさぐように体育館があり、校庭は西側にある。


各学年は8クラスで、それが南棟と西棟の3階から上に入っている。俺たち2年1組は西棟の6階。図書館は同じ西棟の2階で、その下が生徒用玄関だ。


図書委員会のために図書館に集まったのは48人。それに担当の松木先生と学校司書の雪見さん。


見回したところ、顔見知りは同じ2年生に一人、あとはバレー部の先輩が一人いた。小学校の図書委員会よりも人数が多くて当番回数は少なそうだ……と安堵したのも束の間、2年生から出すことになっている委員長に大鷹が立候補して確定してしまい、少し心細くなってきた。委員長に立候補するなら先に言っておいてくれればよかったのに。


活動計画として挙がった仕事は思っていたよりもいろいろあった。小学校で経験したカウンター当番のほかに、図書新聞の発行、おすすめ本コーナーづくり、読書週間イベントなど。配られたプリントには去年の図書新聞が添付されている。俺がよく見ないでスルーしていただけで、図書委員会は活発に活動していたのだ。


さらに、知っていると思っていたカウンター当番だって、貸出返却以外に予約やリクエストの受付、予約本の取り置き、書架整理、返却本の棚戻しなどが付いている。小学校時代にバーコードリーダーを取り合っていた俺たちは、今思うと、役に立つどころか先生の手間を増やしていただけだったのかも知れない。


とりあえず、カウンター当番は昼休みと放課後30分を一クラスずつ回すということなので、大鷹に教わりながらしっかりやろうと思う。問題は文章を書かなきゃならないらしいことだ。俺は作文がどうにもならないほど苦手なのだ。しかも1、2年の1組と2組は4月中に図書新聞第一号を発行する担当だという。待ったなしだ。


隣にいる2年2組の図書委員は特に何も感じていないらしい。大鷹と言葉を交わしていたから、去年から継続なのかも知れない。去年の新聞を見ても、さすがに県下の公立トップ校と言われるだけあって、読みやすい文章が連なっている。


――まずいだろ……。


今さらできないとは言えない。でも、やれば恥をさらすか、図書委員会の質を下げた男と後ろ指を指されることになりかねない。


「図書新聞の編集会議は月曜日のお昼休みにやりまーす! 4月の当番のクラスは集まってねー!」


会議が終わり、大鷹が大きな声で呼びかけながら戻って来た。俺に「鵜之崎くん、部活でしょ? 早く行かないとね」と微笑み、自分の荷物も手早くまとめはじめる。


「あ、あのさあ」


彼女が去る前にと急いで声をかけた。


「新聞は」


自信がないんだけど――と口にしようとしたところで思い出した。ここに来る途中で「やればできることならやる」と言ったことを。そのとき彼女がどんな表情をしたかを。


――言えない。


苦手だからできないとは言えない。それを言ったらがっかりされてしまう。


「その、編集会議ってどんな感じ?」


気持ちを奮い立たせて言い換えた。表情も明るく繕って。


彼女はちょっと考えてから答えてくれた。


「内容とだいたいの割り付けを決めて、誰がどの記事を書くか決めるの。あとは各自が締め切りを守って仕事をすれば大丈夫」

「締め切り……」

「うん、そう」


彼女がうなずく。


「担当が8人いるでしょ? 遅れるひとがいると、発行がどんどん遅れちゃうんだよね」

「あ、8人。そうか。そうだね」


そうだ。担当は4クラスで8人だ。だとすると、一人ひとりの担当はそれほど多くない可能性が……。


「4月号は図書館の利用案内がトップに決まっているから、編集会議は少し楽かな」

「利用案内? そうなんだ? よかった」


利用案内か。それなら決まっていることを書けばいいだけだ。文章力は問われない。この担当ならできる!


ほっとした俺に「部活頑張ってね」と手を振って、大鷹は去っていった。弱気になったことを悟られずに切り抜けられたようで良かった。俺にできそうな仕事が見付かったことも。


――それにしても、委員長になるなんて。


体育館に向かいながら思う。


彼女が事前に何も言ってくれなかったことが、やっぱり少し残念だ。予告されたからといって何かが変わるわけではないけれど、多少の心構えというものがある。……まあ、考えてみたら、ちゃんと話したのは今日が初めてなのだから仕方がないか。


――でも……。


少し仲良くなれたのではないだろうか。いちごの彼氏かと尋ねられたことや、彼女の思いがけない表情を思い出すとそんな気がする。最後に手を振ってくれたし。


「ふ」


思い出し笑いを慌てて抑える。


あの、「ちょっと大変かもね」と言ったときの人の悪い笑い方。高校生になったら、女子はもうあんな笑い方をしないのかと思っていた――いちごを除いて。でも、そうじゃないらしい。


たくさんではないけれど、大鷹と話せて楽しかった。女子相手に居心地の悪さを感じなかったのは久しぶりだ。俺の言葉を彼女が好意的に受け取ってくれたようなのも嬉しかった。


明日もまた話せるだろうか。それと……。


少しでいいから、彼女もそう思ってくれていたらいいな。







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