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彼女は俺の魔法使い  作者: 虹色
第2章 相棒!
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8 暗示は危険


夜、机に向かっているときに、昼休みのことを思い出した。


諒の弟であることについての俺の微妙な感情を、大鷹はちゃんと理解してくれた。理解したというよりも、共通した思いだったというべきか。


同い年か兄と弟かという違いはあるけれど、どちらも相手と良好な関係であることとか、他人から言われることに怒りや反発を感じているわけじゃないとか……、考え方も似ている気がする。


話せてよかった。分かり合える相手がいるとこんなにほっとする。


いちごも立場は似ているけれど、諒とは血がつながっていないという点で、大鷹や俺とは大きく違う。まあ、恋人として他人から期待される姿というプレッシャーはあるのかも知れないけれど。


そう言えば、大鷹とはお互いに慰めの言葉が出なかった。


今までの経験では、友人たちに諒の話をするとたいてい「景だって十分○○だよ!」などとフォローの言葉をもらった。そういう相手の気持ちは有り難いから、その場では気を取り直したふりをする。でも、根本的にコンプレックスが消えるわけじゃない。たぶん彼女も同じような経験をしていて、慰めの言葉が役に立たないことを知っているのだろう。


それにしても「比べることをやめる」という思い付きはさすがだ。俺は「比べても仕方ない」と思ったことはあるけれど、やめられないとあきらめていた。「やめる」と言い切るところは潔くて、いかにも彼女らしい感じがする。しかも、比べるのをやめるだけじゃなくて、伸ばせる部分は伸ばしていこうという前向きな中止なのだ。なんてポジティブなんだろう!


俺も同じ本を読んだのに、あの最初の章で落ち込んで……って、これは大鷹と比べてるんだな。ストップストップ。


でも……そうか。


比べないっていうよりも、たとえ比べても、自分を卑下するのをやめるってことかも知れない。


落ち込まない。そこで立ち止まらない。あきらめない。自分にできることを探す。自分を信じる。そういうことじゃないだろうか。


明日、彼女と話してみよう。昼休みにまた一緒に仕事をするのだから。


それにしても……。


大鷹って、いい子だよなぁ。こんなことを誰かに言ったらからかわれそうだけど。


ポジティブだし、親切だし、意外な思い切りの良さもあって。


姿勢がいいのは見ていて気持ちがいいし、小鳥みたいな首の傾げかたとか、何かを言う前にたまに見せる意味ありげな目つきとか。ときどき驚かされることもあるけれど、一緒にいると楽しい。


女子と一緒にいて純粋に楽しいという経験は初めてかも知れない。小学校高学年のころから女子といると――いちご以外は――気疲れしてしまって、その場では盛り上がったと思っていても、後でひとりになってからほっとするという状態だった。大鷹に対してはそれがない。また話せることを楽しみに思うだけ。


“相棒”で“同志”だからかな。


同じ図書委員で、比べるのをやめる同盟。「一緒に頑張ろう」と言った彼女の声と瞳は今でもはっきりと浮かんでくる。


あれはほんとうに驚いた。彼女が俺に対して感じている距離が、思っていたよりも近いのかも知れないと気付いて。


そして嬉しくなった。彼女が内面的にも俺を相棒として選んでくれたことが。きょうだいが有名人という共通の背景があるからに過ぎないかも知れないけれど。


彼女が俺に恋愛めいた気持ちを持っているわけじゃないということは、十分に分かっている。それは彼女の態度を見ていればちゃんと分かる。


そもそも俺は彼女にいいところを見せられていないのだ。俺に恋心を抱いてくれる要素が何もない。


今はそれでいい。まだ知り合ったばかりだし、友人として話ができるだけで楽しいから。でも、もしかしたら……?


    * * *


大鷹と仲良くなれたら……なんて考え始めたら想像が尽きなくて、寝るのが遅くなってしまった。まだ俺が彼女を好きになるかどうか分からないのに、一緒にいる場面をあんなにたくさん考えていたら、自分で自分を暗示にかけてしまいそうで危険だ。


俺が想像で創りあげた大鷹はあくまでも俺に都合のよい大鷹で、本物の大鷹と同じじゃない。だから、本物の大鷹をもっとよく知るまでは――。


――あれ?


朝、教室に到着すると、俺の席の前で話している大鷹と……礼央。礼央の言葉に楽しげに笑う大鷹のポニーテールが揺れる。


「やだもう、礼央くん」


教室のざわめきを背景に、彼女の声がくっきりと聞こえた。


「あ、景!」


入り口で立ち止まっていた俺に気付いた礼央が駆け寄ってくる。


「おっはよう! 元気?」

「ぐ……っ」


礼央の剛力ハグに拘束された俺をくすっと笑って、大鷹はいちごのところに行ってしまった。朝のあいさつくらいしてくれてもいいのに……。


「あれ? 行っちゃった」


礼央が振り向いて言った。


「景が来るまで引き留めておいたのに」

「ん?」


礼央の言葉が意味するのは――。


「景って奥手だからさあ、そこで話していれば、景が自然に話に加われると思ったんだけどなあ。どうしてさっさと入って来なかったの?」


待て待て待て。俺のために大鷹を足止めしておいたってことか? つまりそれは。


「何言ってんだよ?」


熱くなってきた顔を礼央に見られないように、机に乗せたカバンを開けてのぞき込む。ここで顔が赤くなるなんて、これじゃあ、まるで俺が大鷹を……。


「俺はっ、まだその大鷹に、そういう……つもりはない、けど? だからべつに」

「ふうん、いいんだ?」


念押しするような口調に思わず顔を上げた。礼央は真面目な顔をしているけれど、本気なのか冗談なのか分からないことがよくある。もしかしたら、礼央はライバル宣言をするつもりだったりするのか? さっきだって、やけに楽しそうだったし。


「……まだ、今のところは」


とにかく、可能性がないわけじゃない、ということだけは伝えておいた方がいい。気持ちは確定していないけれど、気になっているのは間違いないのだから。


礼央は「ふうん」とうなずいてからニコッと笑った。


「じゃあ、これからも一応、協力しておくから。いざというときのために」

「お、おう」


つられてうなずいてしまった。これは同意したということになるのか? 協力、というのはつまり、俺と大鷹の接点が増えるようにということに? ということは、礼央はライバルじゃないと? そして俺は礼央の言うとおり“奥手”なのか?


ああ、混乱している。これも自分の気持ちがはっきりしないからだ。


しかも、こんな状況も、俺に暗示をかけてしまうような気がする。ほんとうに好きなのか、暗示で思い込んでいるのか、いざとなったらちゃんと区別がつくのだろうか?


まあ、とりあえず礼央に手伝ってもらわなくても、俺には図書委員の仕事というチャンスがある。今日だって昼休みになったら――。


「鵜之崎くん。図書新聞の原稿入力、あたしがいない方がよくない?」

「え?! どうして?!」


休み時間に大鷹から声をかけられたと思ったら、一緒に仕事をするのをやめようという相談だ。俺のためみたいな言い方をしているけれど、ほんとうは俺と一緒にいるのが嫌なのでは……。


自分の頬が引きつっているのが分かる。


「ほら、きのうはあたしのおしゃべりで仕事の邪魔しちゃったでしょう? 鵜之崎くんひとりの方が捗るんじゃないかと思って」

「いや、そんなことないよ」


ここは速攻で否定だ。


「きのうの話は俺から始めたんだし、それに、分からないことが出てくる可能性もあるから、一緒にいてほしいな」


――一緒にいてほしい……って。


言ってしまった。まるで恋の告白みたいな言葉じゃないか。彼女がいるのは迷惑じゃないと伝えたかっただけなのに。


かっと頬が熱くなった。


「お邪魔じゃないならよかった」


にっこりする彼女は俺の言葉づかいには頓着していないようだ。ほっとしたけれど、頭の片隅には彼女の反応にがっかりしている部分もあって、なんとなくもやもやする。


でも、俺と一緒にいることが嫌なわけではいらしいから、それでよしとしなくちゃ。そして、どうか頬の熱さを見破られませんように!


「じゃあ、お昼休みにね」

「うん、よろしく」


彼女の後姿を見送りながら、暗示の影響について考える。俺は彼女に惹かれているのか、それとも友だちとして気に入っているのか、もしくは単に女子と親しくなれて嬉しいだけなのか……。


どうしたら分かるのだろう?




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