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彼女は俺の魔法使い  作者: 虹色
第1章 新学期
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1 第一日目


――2年1組。うん、間違いないな。


教室の入り口で確認。そのまま室内をのぞいてみる。


クラス分けの名簿では2年1組は30人。今、中には半分以上いるだろうか。席に着いているのは数人で、あとは机に荷物を置いて2人、3人と固まっている。俺の知り合いは――。


「でっかい体、邪魔なんだけど」


後ろから不機嫌な女子の声。しまった、と思いながら「あ、ごめん」と振り向くと。


「げ。いちご」


思わず出た言葉に相手がニヤッと笑う。


「同じクラス、久しぶりだよね。よろしくね」


挑戦的な笑顔で俺を見上げているのは大森(おおもり)いちごだ。俺の幼馴染みであり、四つ上の兄、(りょう)の彼女でもある。気が強くて遠慮のない性格は時にお節介だったりもして、同い年の俺にしょっちゅう姉貴風を吹かせてきた。名簿で同じクラスだと分かっていたから警戒していたのに、まさか後ろから現れるとは。


「ほら、入ろ入ろ」


背中を押されて「へいへい」と足を動かす。席を確認しようと立ち止まったところで、いちごの後ろにもうひとり女子がいたことに気付いた。小柄ないちごに並んだその子も同じくらいの大きさだ。


「これ、鵜之崎(うのさき)(けい)。ほら、名簿のここんとこ。近所に住んでるの。背が高いだけが取り柄なんだ」


いちごが俺を紹介してくれたけれど、もう少し言いようがないだろうかとため息が出た。たしかに俺が自慢できるのは身長だけなんだけど。この様子だと、いちごと同じクラスである限り、俺が格好良く振る舞っても無駄ということだ。


当の女子は水色のリュックを抱え、長いポニーテールの頭でうなずいている。「背が高いだけが取り柄」に納得しないでほしいと思っていたら、顔を上げて俺に向かってにっこりした。


「おおたかしらんです。どうぞよろしく」

「お? おおた?」


突然の笑顔にあたふたしてしまうほど、俺は女子との接点が少ないのか……。


軽く落ち込む俺に、いちごが名簿を突き出して「ここ」と指差す。


大鷹(おおたか) 紫蘭(しらん)』。――画数では俺に勝っているかも。


名前と顔を見比べると、彼女は笑顔のままうなずいた。いちごの嫌な予感しかしない笑顔ではなく、落ち着いて少し大人びた、ほっとする笑顔だ。いちごが彼女を引っ張って行ってしまっても、少しのあいだ余韻を楽しんでしまうような。


「うーん……」


濃紺のセーラー服の背中に揺れるポニーテールを見ながら思う。もしかしたら仲良くなれるかも知れない。あんな紹介を聞いても感じの良い笑顔を向けてくれたのだから。


俺の席は廊下側の一番後ろ。あのふたりは隣の列の真ん中で前後に並んだ席だ。この位置関係なら観察するのは簡単だ。まずはどんな子か様子を見て――。


「待ってたよー! 景!」


なじみの声が聞こえると同時に顔を上げて身構えた。直後、走って来た黒い学生服がぶつかるようにハグしてきた。


「同じクラスだね!」

「うん、でも苦しい……」

「ごめんごめん。嬉しくて」


にこにこ顔で腕を解いたのは染井(そめい)礼央(れお)。俺と同じバレー部員。細めの体にそこそこのイケメン、そして明るくて人懐こい性格で、男女を問わず友だちが多い。ただ、バレーで鍛えた腕力で思い切りハグするいたずらが困りものだ。


「バレー部は俺たちだけだね」

「そうだな」


ほかにも知った顔は何人かいるが、遠慮なく話せるほどじゃない。それはお互いさまで、誰もが教室内の様子をうかがっている感じ。


「あ! 紫蘭!」

「いちごもー!」


いちごと大鷹に数人の女子が駆け寄っていく。そのままにぎやかな声に囲まれたふたりは、俺に向けたよりも楽しそうな笑顔で応えている。


「ふうん、あの子が大鷹紫蘭ちゃんか」


隣で礼央がつぶやいた。


「知ってんの?」

「名前はね。一部の生徒には有名だから」

「一部の生徒にって……なんかヤバい系?」


礼央は持ち前の人懐こさによるネットワークで、校内の情報に明るい。さっき言葉を交わした大鷹にはおかしな雰囲気は感じなかったけれど……。


「あはは、そういうのとは違うよ」


俺の不安を礼央はすぐに否定した。


「彼女は双子で、もうひとりの方が雑誌モデルで売れっ子なんだって。ローマ字で『Kuran(クラン)』っていう名前で、最近はアーティストのPVにも出てるんだって」

「芸能界か……」

「ちなみに学校はここじゃないよ。あと、双子っていっても二卵性だから、それほど似てないって」

「へえ」


家族に売れっ子のモデルがいて、しかも同い年だなんて、どんな気持ちなんだろう。女子の輪の中で楽しそうにしている彼女は何の屈託もなさそうだけど……。


「で、一緒にいる大森いちごちゃんは景の幼馴染みでしょ?」

「え? それ知ってんの?」


高校に入ってからいちごとは接点がなかったから、誰にも話した記憶はない。なのに。


「ふたりと同じ中学だった子から聞いたよ? 今までわざわざ確かめなかったけど」

「そ、そうか」


まあ、幼馴染みの情報くらいはどうってことない。さっき、いちごも大鷹に説明していたし。


それに、礼央がこんなふうに口に出すのは公然か当たり障りのない話だけだ。中傷めいたものや本人が気にするような話は知っていても話さない。はっきりと「それは言いたくない」と断っているのを見たことがある。それが礼央なりのけじめの付け方なんだろう。そういうところはカッコいいと、俺は思っている。


それにしても、礼央の情報網はやっぱり侮れない。







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