第二話 SAMURAIソード
四十を過ぎて、引きこもりのニートの息子や仕事、妻に悩む秋山は、通勤中に小粋な老人と出会う。
私の名前は、秋山大治郎。
不惑の四十を過ぎると言うのに、頭の中は悩みに尽きない。
どうして私ばかりがこんなに悩まなくちゃいけないんだ。
私は、頑張ってきたはずだ。
東京の有名私大を卒業後、城北エリアに本社を置く不動産業の東証二部上場企業に入社した。
それ以来、私はずっと不動産の営業をしているが、
まだ役職は平のまま一向に上がらない。
自分の息子と変わらないような上司の係長に嫌味を言われ、
家に帰っては、妻の愚痴を聞かされるばかり。
息子は、大学にも行かず、家に引きこもり、仕事もしない。
いわゆる引きこもりのニートというやつだ。
そんな息子を歯痒く思いながら、
彼が閉じこもった部屋のドアの前にも立てないでいる自分がいる。
一回、ドアを無理矢理こじ開けようとした時、あいつは野球の鉄のバットで私の頭を狙って思いっきり振りかざしてきたのがPTSDになっている。
あの時は、本気で殺されるかと思った。
結局、ろくにバットも振り回したことがない息子の一撃は私の頭ではなく、
小柄な秋山の頭上を越え、天井の電球をたたき割っただけで済み、癪に障ったのか、あいつはギャアギャアと叫ぶだけだった。
それなのに、妻にはそんな出来事は忘れて、
毎日のように、私に文句をつけてくる。
「あなたがしっかりしないから孝があんなになってしまったのよ。」
とヒステリックに喚き、
「私はこんな人生考えていなかった」
と泣きつかれる。
私の方こそ、こんな人生は考えていなかったし、
もうこんな人生とは縁を切ってしまいたい。
どこで私は人生の選択を間違えたのだろうか?
入社した企業も間違えた。
妻の選択も間違えた。
息子の教育の仕方も間違えた。
そんなことを毎日考えながら、埼京線の満員電車から押し出されるようにして、会社と自宅の行き来を繰り返している日々だった。
いつものように、武蔵浦和駅のプラットホームで電車を待っていると、後ろから声がした。
「お疲れ様です。秋山様。偶には、電車を一本ずらしてみてはみませんか?」
「は?誰だ?君は?」
振り返るとそこに、小粋なスーツを着こなした初老の男性が立っていた。
「あなたは、一体どなたですか?ほかの方と間違えていらっしゃいませんか?」
答えたときには、もう待っていた電車のドアは閉まり、走り去っていた。
ちくしょう、電車を一本乗り過ごしてしまったじゃないか。
「一体、私に何のご用でしょうか?」
腹立たしげに老人を詰問する。
すると、老人は和やかな笑顔で答えた。
「貴方様には、迷いが見られる。その迷いは、これで絶つとよいかと思いまして。」
どこから出したのか老人は私に色鮮やかな西陣織で出来た細長い袋を渡そうとしてくる。
「これは、柄袋と申しまして、刀の柄を仕舞う袋で御座います。そして、その柄の中には、この世に切れぬものはない村雨と呼ばれる宝刀が仕舞われております。」
「か、刀?」
「はい。真剣で御座います。模造刀などでは御座いません。」
私は思わず、その柄袋を手に取ってしまった。
「秋山様。どうぞそれをお使いくださいませ。その刀は貴方様にしか抜けませぬ。そして、繰り返しになりますが、その刀に切れぬものはこの世に存在しませぬ。」
「切れないものがない、刀?」
握っていたはずの柄袋の帯は外れ、中の柄を握ると、ハラリと柄袋と鞘がするりと落ち、美しいまでの刀身に、心を揺さぶるような刃文がはっきりと見て取れる。
「こ、これは。」
秋山は若い頃から剣道で鳴らしたその腕にズッシリとした重心を感じた。
理屈ではない。
柄を握っただけで、秋山は全能感が沸いてくる。
本当に、何もかも切れてしまいそうな怪しげな魅力。
その妖気に一瞬にして秋山は飲み込まれてしまう。
「この刀があれば、人生をやり直せる。」
秋山の頭の中にもう次に来る電車のことはなかった。
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