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軍艦は斯くも美しい。

作者: 山中 孤独




 金剛型戦艦三番艦「榛名」―――。


 イギリス生まれの長女「金剛」と共に、太平洋を駆け巡り、呉で着底するその日まで空を睨み、その役割を十分に遂げた。

 「榛名」の生き様はとても美しいもの。

 兵器に生まれ首尾貫徹、徹頭徹尾兵器として死んでいった。

 人間には決してない得ない、美しき生き様。


 「榛名」だけじゃない。「金剛」ももちろんそうだし「大和」もそう。

 全ての軍艦は、ただ破壊行為のために生まれ死んでいく。


 常に自分のことが嫌いで、否定して生きてきた。

 常に迷い、明確な筋道無く生きてきた。


 そんな私は、高潔なる軍艦の生き方にこれ以上無く魅せられた。


 軍艦は同時に憐れだとも思う。

 人の手により、如何様にも使われる。

 グラスは液体を飲むための道具として貫徹しているけれど、飲む行為にしか使うことはできない。

 飲む行為は人間の生理的欲求であり、行為そのものも純粋だ。

 だが、軍艦は違う。

 破壊のための道具であっても、破壊を行うかは人間の手に委ねられる。

 戦争行為は回避できないものではないし、その行為は欲望に塗れている。

 破壊、その先の暴力的解決そのものが他者との関係から生まれるものであり、欲望から生み出されたものだからだろうか。

 だとしたら、だからこそ、軍艦の生き様は悲劇的で美しい。


 軍艦に罪がないのは明白である。軍艦はどこまでも道具であり、あくまでも道具でしかないのだから。

 そしてそれ故に、我々人間よりもはるかに純粋で、気高く、美しい。

 なのに、人間は兵器を嫌う。

 もしかしたら、嫉妬なのかもしれない。

 

 愚かな人間は、その愚かさゆえに自らの愚かさを自覚することが出来ない。

 戦争が起き、終わった時、自らの愚かさを突き付けられたとき、愚かさの自覚から逃れるために兵器を悪として、突き放した。


 嗚呼、いかに愚かなことであろうか。


 愚かな人間がその愚かさゆえに生み出した高潔を、悪と断罪する愚かさには反吐が出る。

 そして、自分もまた人間であることに、絶望するしかない。


 私が日本人だから、この愚かさをより痛感するのかもしれない。

 

 日本は太平洋戦争によって、多くのものを失った。

 そして、自分たちが戦争を始めたという罪悪感から、軍隊を放棄したし、今も突き放そうとする。

 戦争がなぜ起きたのか、戦争がどうなったのか、罪悪感の根源はどこか、などといった問いへの解答(回答)は持ち合わせていないが、少なくとも我々は戦争の勃発に対し、真摯に向き合うべきではないのか。

 戦争が人間の愚かさの顕現であったのに、今も我々は戦争が悪であるといって愚かな選択の事実に逃げ、向き合うことをしない。

 

 愚かな選択をしたのは軍隊のせいだ。そんな妄言に縛られている日本人に、なんと言葉をかければいいのだろうか。

 紛争は争う二者間に起きるものであり、相互の関係性が重要なのに、自分の在り方に執着するのはおろかだと呼ぶしかない。

 軍隊放棄は自分たちが戦争を起こすことは防げるかもしれない。

 けれど他者が戦争を起こすことを防げるわけではない。

 それでも平和主義を主張することは、自己中心的思想でしかないと言わざるを得ない。

 エゴに支配されて他国に乗り出していった過去を反省していない。

 

 一体、どれほど愚かだといわなきゃいけないのか。

 どれほど絶望しなければならないのか。


 元・枢軸国であり、アジアの先進国であり、被爆国である日本は、だからこそ平和を為すものでなければならない、という傲慢は言わない。

 それでも、太平洋戦争を引き起こした国であり、少なくともアジア人でありながらアジアを植民地支配した過去を持ち、世界で初めて原爆を投下されて多くの犠牲者を出した過去を持つからこそ、その愚かさを自覚する機会があったのだからこそ、戦争に対して誰よりも真摯に向き合うべきなのではないか。


 軍艦の美しさに魅入られた私が周囲の人間から愚かに見られたことを、私は忘れることはないだろう。

 

 戦争を行うのは、人間だ。愚かな人間だ。

 だからこそ、愚かさから脱却する必要があるのだ。


 この事実から逃げることは許されない。

 

 

 その点、軍艦は純粋さ故の美しさによって、私たちに思い出させてくれる。

 愚かな人間と比べるのもおこがましいほど、気高く愛おしい。

 

 

 

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