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夢日記  作者: 華月 由希
1/1

001

 自動ドアを抜け、辺りを見渡す。

 山と、田んぼと、あぜ道と。そして、寒村にぽつり、酔狂にも一軒だけ経営しているコンビニ。右手に提げたビニール袋が確かな重量を伝えてくる。


 村に一本だけ通っている、滅多に車の通らない国道を、読み古した小説を読みながら、ふらふらと歩く。

 なにせ、山と田んぼとあぜ道、それしかない。変わらない景色を眺めているのも不毛だしね。


「…………?」


 ふと。本から目を離し、顔を右に向ける。

 そこには、木々と、鳥居。……神社なんて、この前まであっただろうか? 少なくとも、私の記憶には存在しない。


 退屈と好奇心。今まで読んでいたそれを鞄にしまい、用水路をひょいと飛び越え、あぜ道を渡る。


 それは、決して真新しいとは言えないような鳥居。まるで昔からそこにあったかのように、しかし超然とした佇まいでそこに在る。

 木々の作り出す闇の中へ、歩を進める。

 誰かが歩いたとは思えない、雑草蔓延(はびこ)る道。されど、歩きにくさは感じない。吸い込まれるように、先へと。


 一瞬、風が吹き抜け。髪が揺れる。

 顔を上げれば、闇の彼方に何かが見えた。


 僅かに怖じる気持ちが湧いてきたけれど。不思議と、引き返すという選択肢は出てこなかった。

 少し歩いて、それが古びた(やしろ)であると気付く。鳥居があったのだから、当然といえばそうなんだけれど……。

 そう実感した途端、少し肩の力が抜けた。

 その神域の、なんと深閑たるや。澄んだ空気が、肺の底に沈む。

 だけど、なんだろう。この纏わりつくような、嫌な雰囲気は……?


 木々に囲まれた、開けた空間。仄かな木漏れ日のみが、この一帯を照らしている。

 目を凝らせば、視界の端に動く影。


「きゃっ」


 自分にこんな女の子らしい声が出せたのか、などとしみじみ考える余裕はなく。

 木々の中か、社の裏側か、はたまた私の背後か。

 私は動けなかった。

 動くなど、意識の外であった。

 この神社には、何かが潜んでいる。

 射竦められたのだ。生者のものとは思えない、ぎょろっとした瞳の、捕食者の視線に!

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