第一話 ~覚悟~
初めてのオリジナル戦記物・・・生暖かい目で見ていってください
重苦しい灰色で染め上げられた格納庫のような場所で、一人の二十も行かない栗色髪の少年が全長十六メートルほどの大きな二足歩行兵器の前に立っていた。
青年の前には何十人もの少年少女たちが、乱れることなく八列に整列していた。
そして、そんな少年たちに向かって栗色髪の少年が口を開く。
「諸君、この戦いは我々人類にとって・・・全ての生けるもの達にとって、最後の戦いとなるだろう。今さら俺の口から諸君らに言えることはないが・・・・・・これは大隊長命令だ。全員!必ず!生きて帰ってこい!!」
『了解!!』
栗色髪の少年は、自分の前に立つ全ての大隊隊員に命令をして、敬礼をする。それにこたえるように、すべての隊員たちが敬礼を返す。
そして栗色髪の少年・・・・・・望月 叶は敬礼を解き、大きく息を吸うともう一度言う。
「アイビー大隊、総員出撃!!」
『了解!!』
彼らはもう一度大きく敬礼をすると、自分専用の二足歩行兵器『Schutz-heiliger』、通称ガイストに乗り込んでいく。
叶も例外ではなく、自分用に設定された、白と黄色を基調としたガイストに乗り込んでいく。そして搭乗席に座ると、ガイストのコックピットを守るハッチが閉じて360度投影式モニターが表示された。
『こんにちわマスター!いよいよですね・・・』
「ああアストレア。この戦いで、終わらせて見せる・・・!」
コックピット内に、凛とした女性の声が響いてくる。叶は女性の言葉に何でもなさそうに返すが、操縦桿を握る叶の手には力が込められる。
叶の脳裏には、業火に燃える街と、必死に助けを求めてこちらに手を伸ばす一人の少女の姿が映し出されていた。
「そうだ・・・二度と、二度と のような悲劇を繰り返さないように・・・!」
『・・・・・・マスター、全システムオールグリーン。いつでもいけます』
「わかった。さあ、行くぞ」
叶はもう一度操縦桿を握りなおし、ガイストを移動させる。叶の乗るガイストの後ろには、同じく出撃準備が完了した隊員たちのガイストが並んでいた。
こんなことになったのは、今から十五年も前にさかのぼる・・・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~
叶side
十三年前、いつまでも続くと思っていた平和は、いとも容易く崩された。
突如として、フランスのパリ上空に大きな穴が現れた。その穴からは巨大な巣と、無数の正体不明の敵が現れた。
各国はすぐさまこの正体不明の敵に攻撃を開始、しかしこちらの攻撃は敵には効かず。敵は戦車や戦艦の装甲を紙でも切るかのように切り裂き、風で舞う木の葉のように選りすぐりの兵たちは散っていく。
そうしている間にも、敵は支配下を広げていく。そして人類はこの敵と戦うために、すべての思いや力、知恵を総結集させた。
「・・・・・・そして完成したのがこの『シュッツガイスト』です。シュッツガイストはドイツ語で『守護者』を表します。その際、正体不明生物は『ティモル』と命名され、人類は奪われていた支配圏の内、六分の一を奪還することに成功。各国はティモルを研究して対ティモル兵器、通称『対T兵器』ができました」
今ではもう珍しくもなくなった投影型ホロボードに、ガイストの初期型の写真を表示していく。俺はそれを聞き流しながら、空を飛んでいる種類はわからないが、鳥を見ていた。
俺は今、十六だから・・・・・・俺が五歳の時なんだな、ティモルがこの世界に来やがったのは。
「・・・・・・ん。・・・・・・くん。望月くん!!」
「ん?なんでしょうか?」
「なんでしょうか、じゃありませんよ!まったく・・・学年首席なのになんであなたは・・・」
このクラスの担任であり、教官である『鴻上 満』中佐は俺に向かってあきれたように言ってくる。だが俺の意識はすでに満先生から窓の外へと移っていた。
すると視界の端にいた満先生が大きく振りかぶって・・・
「ふんっ!!」
「あたっ!何するんですか先生!!?」
「何じゃないですよ!!あなたはもうちょっと学年首席としての自覚を持ってください!」
俺はそんな先生の声を聞いて、やっと意識を授業の方に移す。先生はそんな俺の行動を見て一つ溜息をついてから、授業を再開した。
ホロボードには新しい資料画像がどんどん移っていく。
「それでは、続けてティモルの研究成果についてです。では百五十ページを開いて・・・」
授業はどんどん続いていく・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして昼休みになった。
俺は昼飯を食べるために、同じクラスの友達とグラウンドのベンチに座っていた。
「ほい叶、あんたの分の昼飯」
「ありがとな。お、おいしそうじゃん」
「でしょ?一生懸命作ってきたんだから、味わって食べてね」
俺は「おう」と返事をしてから、幼なじみである『花咲 岬』が作ってくれた弁当の蓋を開ける。
岬がくれた弁当の中身は、綺麗な彩り豊かな弁当だった。俺は感嘆の声を出してから、弁当の蓋の上に備えられた箸り出した。
「おっす叶、うまそうじゃねえかそれ」
「食べさせちゃだめよ叶。穣はすぐに調子乗るんだから」
「んだとぉ!?てめぇ喧嘩売ってんのか岬ィ!!」
「は?私とやり合おうっていうの?一度も私に勝ったことがないあんたが!?」
俺の懸念したとおりに、岬と穣は顔を合わせた瞬間から臨戦体制になった。穣も岬と同じように俺の幼なじみだ。俺はそんな二人を気にせずに、弁当をどんどん食べ続けていく。
そんな俺の視線の先にいるのは、土煙を上げながら殴り合いの喧嘩をしている。ぱっと見ならば、今回も岬の優勢だった。
それを見ていた俺の裾が、誰かに引かれた。俺は裾が引かれた方に顔を向けると、そこには顔を俯かせて顔を赤らめながら可愛らしい包みで包まれた弁当を持った『橋立 美夕』ちゃんがいた。
「あれ?美夕ちゃんどうしたの?」
「う、うん。わ、私もお弁当を作ったからね、だからね、その・・・」
「俺たちと一緒に食べたい、ってこと?」
「う、うん!」
俺が了承の返事をすると、美夕ちゃんはパアァと明るい顔を浮かべて、俺の座っているベンチの空いているところに座って弁当を開けた。
そのまま美夕ちゃんと一緒に弁当を食べ続けていると、ぼこぼこになった穣と満足そうな岬が俺たちの方に歩いてきた。
「いや~久しぶりに力が抜けたわ。ありがとね、穣」
「ちくしょう・・・また負けた・・・」
「ははは、穣が岬に勝つのはいったい何年後になることやら・・・」
「そんなの一生来ないわよ。あら?美夕じゃない、一緒に弁当食べてるの?」
「うん!偶には外で食べようかなぁって思ったら、ちょうど叶くんを見つけたから・・・」
「そうなのね・・・じゃあみんなで食べましょうか」
そういって俺たちは弁当を食べていく。話していく中で、話の内容は変わっていく。
「それにしても・・・まさか俺たちが軍人になるとはね・・・」
「ああ、世界っていうのはわからないもんだな。数年前までは普通の子供やってた俺たちや、まさか美夕ちゃんみたいに、ちっちゃい子まで軍人に引っ張り出されてくるとは・・・」
今言った言葉からわかるように、俺たち・・・いや、この学園に通っているものは、生徒教員問わず軍人だ。それは未来のガイスト乗りや、タイティモルの兵士を育てる訓練学園に通っているのだ。
そんな俺たちは今年高等部一年であり、美夕ちゃんも十歳という幼さで俺たちと同じ学年なのである。
そもそも、ガイストに乗れる人というのは限られている。それは一般的に『魔力』と呼ばれるものを持っている人だ。だが魔力と言っても、御伽噺のように本当に魔法を使えたり、不思議な力が使えあるわけでもない。ただ故障のためにそのように読んでいるだけだ。
魔力を持った一部の人たちは、それを使ってガイストを動かす。そうしてティモルと戦い、魔力を持たない人たちは対T兵器を使ってティモルと戦う。
そうしたガイスト乗りを養成するのがこの『ガイスト操縦者&対ティモル兵士養成学園』である。
「叶!」
「え!?ど、どうした?」
「どうした、じゃないわよ!まったく・・・あんた今日ボーっとしていることが多いわよ?」
「いやー、考え事をしててな。それに今日は・・・なんか変な違和感があるんだ」
「違和感?やめてよね、あんたのいやな予感は当たるんだから」
「そうだぞ叶。この前だっていやな予感がするって言ったニ十分後に、まさかの銀行強盗に居合わせたんだからな。まったく・・・大概にしてほしいぜ」
「・・・叶くん、そんなことしたの?」
「うっ、なんか体質なのか何なのかは知らないけど、なんかそういうことが起こるんだよ」
俺は岬たちの詰めた視線を受けながら、弁当をつつきながらまた思考の海に沈んでいく。
先ほどの授業で先生が言っていた通り、支配圏の六分の一を奪還することができている。だがそれは四か月も前から変わっていない。それどころか六か月前までは三分の一まで奪還できていた支配圏を押し返されている・・・・・・
何かが戦地で起こっているのか・・・?
そうこうしているうちに昼休みは終わり。午後の授業が始まっていく。
だが俺は先ほどの変な予感のせいで、あまり授業に身が入らなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして放課後。この学園は全寮制のために、学園近くに寮があって遅くまで学園に残ることができる。
そのため、俺たちはまたグラウンドのベンチ付近に集まって話していた。
「そういえばさー」
「なに急に?叶、パス!」
「わかった!おらっ!」
訂正。俺たちは今その辺に転がっていたボールで、パス練習をしていた。そして俺は岬に強めにボールを蹴ってパスをする。それを受け止めた岬は、足の裏でボールを転がしながら穣に先ほどの話の続きを促す。
「それで?さっきの話の続きは?」
「ああ、最近この帝都にティモルらしきものを見たっていう目撃情報が多発しているんだ」
「うそでしょ?それが本当にティモルだったら、ちょっと大変なことになるわよ?」
「ああ、それを聞いた帝国軍が捜索しているらしいが・・・それっぽいものはおろか、ティモル特有の反応もないってさ」
「じゃあガセネタか?それだったら嬉しいんだけどな」
「まあそれに越したことはないしねっ!」
またもや岬が穣に向かってパスを出す。しかしそれは穣の取りやすい軌道ではなく、穣の顔面直撃の軌道だった。
ボールは穣の顔面に見事ヒット。顔面にいいボールを貰った穣は、変な声を上げて倒れる。
そしてすぐに起き上がると、岬に詰め寄り売り言葉に買い言葉で喧嘩に直行。俺はそんな二人をしり目に、ベンチに座ってこっちを見ていた美夕ちゃんの方へと歩いていく。
「美夕ちゃん。暇じゃないの?」
「ううん。美咲さんも穣くんも面白いから飽きないや」
「そりゃあ良かった。・・・それで、美夕ちゃんもこの帝都に現れたっていうティモルについて何か知らない?」
俺がそう聞くと、美夕ちゃんは顎に拳を当てて首をかしげながら考え出した。だが、すぐに俺に「知らない」と言ってくる。
「そっか・・・まあありがとな」
「うん、何かのお手伝いができたなら満足だよ?」
「ははは。・・・しかし、それなら本当にガセネタか?それとも本当に・・・」
俺がその言葉の続きを言おうとした瞬間、学園全体が大きく揺れた。その揺れは自信からくるようなものではなく、何かが爆発したときにおこる揺れだった。
揺れが着た瞬間、俺は美夕ちゃんを守るように抱きしめて地面に伏せた。チラッと喧嘩をしていた二人を見れば、二人は喧嘩をやめて同じように地面に伏せていた。
そして揺れが収まったころ、俺はゆっくりと頭を上げてあたりの様子を確認した。
するとそこには・・・
「なんだよ・・・これ・・・」
「うそ・・・学園が・・・」
そんな声が漏れたのは俺たちの誰かか。そんなことを確認する余裕がなくなるほど、目の前に広がる光景は衝撃的だった。
俺たち四人の視線の先にあったもの、それは至る場所から火が昇り、いまだに爆発している学園公社の姿だった。
「い、いったい何が・・・」
「あ、あれを見て!」
岬が校舎のどこかを指さしながら声を上げる。その指さす方向には、先ほど話していたティモルの姿があった。
そんなティモルの姿を見て、美夕ちゃんは俺の腕の中から抜け出して後者に走り出していく。
「あ、美夕ちゃん危険だ!!くそっ!」
「ちょっ!?叶、あなたまで・・・危険よ!」
「そうだぞ叶!行くな!」
「美夕ちゃんだけ行かせないだろ!!」
俺は美夕ちゃんを負うことを引き留める二人の忠告に大きな声で返しから、美夕ちゃんが消えた校舎の中に入っていく。
校舎の中では、もっと悲惨な姿が広がっていた。あちこちの壁や天井が崩れ落ちて床にその破片が散らばっており、所々ではそんな落ちてきた破片に押しつぶされたらしい死体が転がっていた。
「ウヴォッ!!オエェェェェ!」
そんな光景に拒否反応を起こして、俺は胃の中のものを床にぶちまける。それが済むと、死体を見ないようにしながら美夕ちゃんを探していく。
そのまま数分探していると、美夕ちゃんを見つけた。ただし、すでに息絶えた美夕ちゃんと同じ歳くらいの少女の頭を膝に乗せながら・・・
物陰に隠れて見えなかったが、その子の他にも奥にはたくさんの中等部や高等部の生徒たちの息絶えた姿が転がっていた。
それを見てまた胃の中のものを吐き出しそうになるが、それを何とか我慢して美夕ちゃんの肩に手を置いて話しかけた。
「美夕ちゃん」
「・・・・・・」
「美夕ちゃん」
「・・・・・・あ、叶くん。静かにしててね、あまりうるさくするとみんなが起きちゃうから」
おそらく人間の防衛本能が働いたのだろう。美夕ちゃんはそのきれいな瞳から涙を流しながら、うつろな表情をして膝に乗せた子の頭を優しく撫でていた。
俺はそんな美夕ちゃんから思わず顔をそらしてしまう。だが、決意を固めて美夕ちゃんを抱きかかえ、そのまま走り出す。
「あ・・・ダメだよ叶うくん。あの子たちが寂しがっちゃうでしょ?早く降ろして?」
「・・・・・・」
俺は虚ろな表情で言ってくる美夕ちゃんに言葉を返すことなく、走り続ける。
「降ろしてってば・・・」
「・・・・・・」
「降ろしてよ・・・!」
「・・・・・・」
「降ろしてよ!」
何も答えずにいた俺に、美夕ちゃんは叫ぶ。抱きかかえ方を変えて美夕ちゃんの顔を見れば、先ほどよりも大粒の涙を流していた。
俺はひとまず、校舎の中でも比較的崩壊が少なかった保健室に美夕ちゃんを運んだ。そして備え付けられていたソファに座らせた。
「ううっ・・・こんなのって・・・あんまりだよぉ・・・」
「・・・・・・多分だけど、避難を無事にした人たちもいるはずだ。だから俺たちもここから避難しよう」
「いやっ!!叶くんは悲しくないの!?あんなに人が死んじゃったんだよ!?みんな明日の用事だって・・・家族だってまだいたのに・・・」
「・・・・・・」
俺はそんな風に泣きじゃくる美夕ちゃんの頬を、右手で強めに引っ叩いた。
頬を叩かれた美夕ちゃんは泣きじゃくるのをやめて、叩かれたところを手で押さえながらこちらを見てくる。
「美夕ちゃん、俺が叩いたところは痛いか・・・?」
「・・・・・・うん」
「そうか・・・なら君は生きているじゃないか」
「え・・・?」
「痛みを感じているならば君は生きている。生きている君には・・・あの子の死を見た君には使命が発生したんだ」
「使命・・・?」
美夕ちゃんは抑えていた手を少しずつ離していく。話された頬はまだ少し赤くなっていて、罪悪感を感じるが話を進める。
「ああ使命だ。君には死んでいった彼ら彼女らの分まで、一生懸命に生きていくという使命があるんだ」
「でも・・・!そんなの・・・!」
「ああ、俺にも本当にそういう使命があるのかは少しわからない。だけどね・・・」
俺はそこで話をいったん区切り、ポケットからハンカチを取り出すと美夕ちゃんの涙を拭う。
「俺はそうしようと思った。一生懸命に生きて、それで一生懸命に奴らと戦う」
「・・・・・・叶くんはすごいよ。私なんて、あいつらと戦うことなんて・・・」
「いや、俺もこの学園に呼ばれたとき、最初は嫌だった。だけど、さっき言った使命とは違うけど・・・俺はあの日、確かに力を持った。力を持ったものは二つの選択肢が求められる」
「選択、肢・・・?」
「そう選択肢。その力を『自分のために』振るうか、それとも『他人のために』振るうかって選択肢だ。俺はその選択肢から、『自分のために』振るうことを選んだ」
「自分のため・・・」
「その言葉通りに受け取られるなら、俺は自己中心的な奴かもしれない。だけど俺が言った自分のためっていうのは・・・自分と、俺の大切なもののために、って意味だ」
美夕ちゃんは俺の言葉に、少しだけ首を傾げた。まあ当然か
俺はそれを説明するために話をつづけた。
「大切なものと自分自身を守るには力がいる。力を持つなら、同時に『力を持つ』ということに対して覚悟がいる。だから俺は、この学園に入った瞬間から、覚悟を決めた。降りかかってくる火の粉は払って、たとえ人が死のうと、その屍を超えていくってな」
「・・・・・・」
「俺も覚悟を決めてなかったら、美夕ちゃんと同じように泣きわめいていたかもな。だけど覚悟を決めたから俺は泣かないで行く。美夕ちゃんは・・・どうするんだ?」
「私は・・・・・・」
美夕ちゃんは顔を俯かせて考える。その間にも遠くの方では爆発が続いているらしく、小さく揺れていた。こりゃあ、マジでやばいな・・・
「決めた・・・!私も・・・覚悟を決める。あの子たちの分まで、私は生きる。生きて見せる!そして、一人前のガイスト乗りになってやる・・・!」
「そうか・・・なら俺はそれを咎めはしない。覚悟を決めた奴の邪魔をするのは、失礼だからな。・・・さあ、さっさとここから避難しよう。いつまでもここでとどまっていたら危険だからな」
「うん!」
美夕ちゃんは元気いっぱいの返事をして、ソファから降りて立ち上がる。その瞳にはすでに後悔や悲しみなどの表情はなく、美夕ちゃん自身が決めた決意の炎が宿っていた。
保健室から出て、慎重に避難場所に歩き出す。所々で先ほどのような死体が見つかるが、俺はそれを見て少しずつ慣らしていく。美夕ちゃんは死体を見ると、俺の左手を握る手に力を籠める。それに俺は優しく握り返した。
そしてそのまま数分歩いた。すると爆発の揺れや地震の揺れとは違う、また別の揺れが起こった。
なんだろうと思って窓の外を慎重にみる。すると、遠くの空から五機ほどの帝国の量産ガイスト『疾風』がこちらに向かってきていた。恐らく、この学園にいるティモルを討伐しに来たんだろう。
俺はそれを見届けると、美夕ちゃんを横抱きにして走り出す。そして避難場所までの渡り廊下に出ると、五機の疾風と一匹のティモルが戦っていた。・・・・・・一匹のティモルの方が優勢な状況で。
「なんだ・・・?なんで一匹なのにてこずっているんだ?」
「っ!叶くん危ない!」
「うわっと!!あのティモル・・・明らかに強い」
ティモルは一機の疾風が放ったブームライフルを、軽々と避けて見せる。それによって俺たちが先ほどまでいた校舎の一部にビームが当たって崩れ落ちる。
そしてティモルが疾風に反撃をする。ティモルが口のようなところを開くと、そこにエネルギーが集まっていく。そしてそれは一筋のレーザーになって解放された。
一機の疾風がそれに直撃して、大爆発を起こす。他の疾風は回避したが、回避した際にティモルの足?による攻撃に当たった疾風がこちらに向かって飛んでくる。
「うっそだろお前!?」
「叶くんネタはいいから、さっさと逃げてー!」
ギリギリのところで飛んできた疾風から回避して、校舎にめり込んだ疾風を見る。そのまま動かないので、少しずつ慎重に近づいていく。
するといきなりコックピットのハッチが開いて、中からパイロットであろう人が出てきた。ヘルメットをしていて性別はわからない、だがその人はフラッとしたと思うと、突然地面に落ちてしまった。
俺は美夕ちゃんを横抱きからおんぶの形に直すと、ゆっくりとその人に近づいた。そしてやっと気が付いた。その人の頭がある地面には多量の血が流れている。
まだ胸が上下していたので、生きていると思い。美夕ちゃんをゆっくり降ろし、俺はその人のヘルメットをゆっくりとる。
そうして出てきた顔は、美しい女性だった。女性は光の宿っていない瞳をゆっくりとこちらに向ける。
「これは・・・驚いたわね・・・まさか・・・まだ・・・逃げ遅れがいる・・・なんてね・・・」
「喋らないでください!喋ったら傷が・・・!」
「もう・・・いいのよ・・・自分の体のことは・・・自分がよく知って・・・いるもの・・・」
女性が話すたびに、ヒューヒューという音がする。女性は少しだけ微笑みを浮かべると、最後の力を振り絞るかのように胸元からドッグタグを取り出して、外すと俺にそれを押し付けてきた。
そして俺の両手を力強く握って、俺に言ってくる。
「あなたなら・・・いいかもね・・・その眼をした・・・あなたなら・・・・・・ねえ、あの女の子を・・・あの子を守る覚悟が・・・あなたにあるというなら・・・・・・あの子をあげるわ」
女性は震える右手で校舎にめり込んだ疾風を指さす。攻撃を受けたのに、その装甲はどこか綺麗で、今にも動くことを望んでいるようだった。
「あの子は・・・あなたが覚悟を持っているというなら・・・・・・必ず、あなたのその覚悟に・・・」
応えてくれるわ。その言葉を残して、女性の手から力が抜ける。俺はそれを見届けると、ドッグタグを自分の胸ポケッとに入れた。そして俺の後ろで同じように女性を見守っていた美夕ちゃんをもう一度横抱きにして、女性がさしていた疾風のもとへ走り出す。
「わわ・・・!い、いったいどうするの叶くん?」
「こんなところで・・・君を死なせるわけにはいかないんでね!」
美夕ちゃんを抱えたまま、地面から倒れた疾風の足に飛び移り、その勢いのまま疾風のコックピットに乗り込む。
そしてそのままシートに着くと、コックピットハッチが閉じて360度投影式モニターが表示された。
「美夕ちゃんはサブシートに座っていてくれ。さあ、頼むぞ・・・・・・覚悟ならある、だから・・・!」
ふぅーん、じゃあ見させてもらおうかな。あなたの覚悟ってやつを・・・。そんな言葉が聞こえたかと思うと、疾風が起動していく。そして投影式モニターではなく、サブモニターには各システムの状況が表示されていく。
「各システムチェック・・・オールグリーン。オールウェポンズフリー。システムは戦闘ステータスに移行。行ける!!」
すべての準備が終わった疾風を確認すると、俺は操縦かんを握る。そして背部スラスターを使って疾風を立ち上がらせた。
「望月 叶。疾風、戦闘に参加する!」
そうして俺は、今も戦っているティモルに向けて走り出した。
面白かったと思ったら評価を、そうでなかったり、直してほしいと思ったら気軽に感想ください。