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隊長と見学者

 翌日。

 駿はアキラ達の特訓の終了1時間前にやってきて剣やナイフ、盾そして槍などの手入れを行なっていた。


 あの後、アキラの態度を悪く思ったのかハルカとチヒロが謝罪にやってきた。その2人と共に何故かリキヤもいたが…。


 駿は「気にしていない」と「こっち方も態度が悪かった」と返し、その場は解散となった。最後にハルカは「ごめんね!」と言いながら部屋を出ていったが、元から気にしてなかった分、少し申し訳なかった。


 それにしても…リキヤは何がしたかっんだ?最後まで一言も話さなかったぞ?


 悪かったと言っても生まれついた癖は簡単に抜けることが出来ず、いつもの様に終了1時間前にやってきた駿にアキラは怒りをぶつけるが、それを駿は壮大に無視を決め込み、ただアキラにもどかしい怒りが溜まっていくだけだった。


 その後もアキラの説教が続くのだが、結局終了時間まで駿がその場を動くことはなかった。



 *



 食事も終わり、汗や土で汚れた体を洗い流し、月明かりが照らす廊下をハルカは自分に与えられた部屋に向けて歩いていた。


 いつもなら既に部屋に戻っている時間なのだが、その原因はある人のことについて話していたからだ。駿についてだ。


 駿の態度や行動は異世界から共にやってきた仲間にとって目に余るものだと発言がことの発端だ。


 駿は仲間達の中でも群を抜いて低いステータスを持ち他の誰よりも努力しなければならない人である。そんな彼自身が他の誰よりも訓練を真面目に行わず、呑気に過ごしているとアキラ言うが、その言葉にアキラの親友であるリキヤが珍しく反論した。その後、2人の言い合いが続きそれを止める為に時間をとっていたのだ。


(それにしても、アキラ君とリキヤ君が反発し合うなんて珍しいなぁ…)


 2人は中学校の頃から同じ部活動のサッカー部。そんな2人の息はぴったりで、いつも高得点決めているパートナー同士なのだ。


 その為、2人が言い合うことなんて本当に珍しいことなのだ。


 ハルカは廊下を歩きながら、どうしたものかと考えていると、ガッキン!と剣同士がぶつかり合う様な音が聞こえてくる。


 その音が気になったハルカは音が聞こえる方に向かう。


 音が聞こえる場所に着くと、そこはテラスでそこから見下ろせばいつも訓練を行なっている中庭を見ることができた。


 中庭には2つの動く影が確認できた。1つはいつもハルカやアキラなどに戦い方を教えているアレクさんと、もう1人は驚いたことにいつも特訓の時に別行動をとっている…


「本堂君?」


 駿の姿だった。


 ハルカはどうして2人がこんな時間に武器を持ち、戦っているのかわからなかった。よくよく周りを見てみると剣と槍が地面に突き刺さっており、手にはナイフでアレクの持っている剣とぶつかり合っており、逆の手には盾を持っていた。そして、それらは先程アキラの説教を受けている時ずっと手入れしていた道具であることを思い出す。


(もしかして…いつもこんな時間に特訓をしていたの?)


 駿にとっては正にその通りなのだが、実の所この時間に特訓をしていることは駿とアレクだけの秘密だった。その理由は駿にではなくアレクの方にあった。


 アレクは国王の命により、勇者を育てることとなっていた。騎士隊の隊長とはいえ国王の命令には逆らうことはできずアレクは命令をこなす。そう()()()()()()という仕事を…。


 その為、日が昇っている間は勇者であるアキラに付きっ切りで教えており、アレクに質問がある場合は自分からアレクに質問しに行くという方式をとっていた。

 その為、アキラもハルカもクラスメイトも気づいていないのだ。勇者なんだから()()()()()()()と刷り込まれていることに。


 そんな中、駿というイレギュラーがさらに考えを鈍らせる。こんな奴よりかはちゃんと特訓をしているだ。こいつなんかに負けるわけない。そんな意識が刷り込まれる。その為、特訓終了後に誰も特訓をすることはなく、アレクに直接教えを請えるという()()()()()()()()ができる時間が出来上がっていたのだ。


 訓練後に2人で訓練を行うことは2人にとっては決まっていたことなので特に何も思わないが、ハルカなど知らなかった人には驚きのことであった。


 他の者であったのならば、羨ましがられたり、怒鳴られたりするものだが、ハルカそれとは違い怒りよりも寧ろ喜びに違い感情を感じていた。それは駿もキチンと特訓を行なっていたという喜びだ。


 他の人と違い、サボりぐせがあると思われがちの駿が真面目に特訓を行なっている。そのことに嬉しくなるハルカ。やっとクラスが1つにまとまってきた!と旨の前で小さくガッポーズをするハルカ。


 そして、駿とアレクの特訓を見ているとどんどん喜びとは少し違う感情が湧き始める。


 剣とナイフでぶつかり合っていた2人は駿が押し負けるという結果で駿が後ろの吹き飛ばされるが、それを理解したいのか空中で体制を整えると、うまく着地し再びアレクに突撃していく。


 途中で地面に突き刺さっていた剣と槍を拾い、遠心力を加えて剣を投げ捨てる。アレクはそれをジャンプで躱し、元いた場所に降りようとする。駿はジャンプしているアレクに向けてやり投げの如く投げつけ、さらに距離を詰める。アレクはそれの行動に動揺した表情をするが、すぐさま冷静になり、槍を持っていた剣で払い飛ばす。


 槍が地面に突き刺さり、アレクが地面に着地するも、駿はもう既にアレクの剣の間合いの中に侵入していた。アレクは手に持っていた剣を急ぎ剣を振り下ろすが、それを読んでいたのか手に付けていた盾で剣を弾き飛ばす。


 そこで漸く焦りの表情を浮かべる。そして魔法詠唱を始める。


「炎をよ! 火の粒となり 撒き散らせ!」

「“光明(フラッシュ)”!」

「“種火(フレイム・ショット)”!・・・?!」


 魔法を放つ一瞬目の前を明るく照らされ、視界を奪われる。アレクは火の粒となった炎を辺り一面に撒き散らし、牽制する。


 数秒後、奪われていた視界が戻り辺りを確認するが撒き散らした火煙が視界を奪い、うまく確認することができない。


「もらった〜!!!」


 するとアレクの背後に向けて突撃していく駿の姿を上から見ていたハルカは確認できた。


 手に持っていたナイフを片手に真っ直ぐに突撃していく駿。上から見ていたハルカも決まった!と見守っていると、アレクはアキラとの特訓でも見せたことのない速度でどうにかナイフを剣で弾き飛ばし、左足で駿を蹴る。それを盾で防ぐ駿。とても痛そうだが、アレクも鎧を身に纏っている分、盾しかつけてない駿の方がダメージは大きいだろう。


 蹴り飛ばされた駿は体制を崩し、地面ヘタリ込む。そしてアレクは、持っていた剣を駿の首に向けて突き立てる。


 2人はしばらくの間無言で、互いに息乱れる呼吸音だけが響く。そして駿はそのまま後ろに倒れる様に仰向けになる。その表情はとても悔しそうな表情だった。アレクも少し頬を緩めてその場に座り込んだ。


「あ〜!悔しい!もうちょっといけると思ったのにな〜!」

「いや、こっちも本当に危なかった。わざと攻撃タイミングを教えてくれなかったら危なかった」

「だったいつも通りに黙って攻撃してればよかった…」

「やめてくれよ。そんなことしたら俺が負けていただろ?」


 駿の「なんだよそれ…」の言葉で駿とアレクは互いに笑い出す。そして、互いに礼を済ませ今日の訓練は終了になったのか互いの宿舎に戻っていった。



 *



「アレクさん!」


 ハルカは特訓を終え、宿舎に戻っていったアレクの元までやってきていた。


「ハルカ君?どうしたんだこんな所で?」

「・・・見てました。さっきの特訓」


 ハルカの神妙な面持ちでアレクと駿の訓練についての話をする。


「見ていたのか…。それで?どう思った?」

「・・・正直…凄いと思いました…」


 ハルカは、先程の2人の特訓を思い出しながら純粋な感想を言った。それだけ2人の特訓は凄まじいものだった。


 アレクさんの特訓は厳しくもあり、そして優しく、的確な指導でハルカ達を鍛えている。ハルカは今日までアキラとの特訓がアレクの最大の特訓だと思っていた。その特訓は、強力な力がぶつかり合い、見るも凄まじい力での特訓だった。


 ハルカ、そして共に特訓する仲間達はそれを目標にして、アキラに追いつく為に、努力を続けてきた。


 ・・・そのはずだった…。


「・・・私は、私の力には、人を癒す力があります。だから、本堂君の様な力の弱い人を守らないといけない。そう思っていました…。ですが、本堂君とアレクさんの特訓を見ていて、私は、私達は、彼があんなに努力をしていたことを知りませんでした」


 それは誰よりも純粋に見ることができたハルカだからこその言葉だった。


 まず1つ目は武器の使い方だ。

 アレクは常に自分が合った武器を極めろといい、クラスの皆は互いに自分に合った武器を1つづつ持っている。アキラは自分の丈に合った大きな両手剣を、チヒロは剣道の様に刀を、そしてハルカは短めのワンドを使い特訓をしている。

 そんな中、駿は破れてたものの、一つの戦闘に4つの武器を使い、アレクと訓練…いやあれは戦闘に近い戦いだった。4つもの武器を使いこなすことは相当な時間があるはずなのに、本堂はまるでアレクの行動を読んでいた様な戦い方をしていた。ジャンプして避けること然り、突撃しながら振り下ろされた剣を盾で弾き飛ばしたこと然り、完全にアレクの行動を読みきっていた。


 アレクは訓練の時、「常に戦う相手の行動を読み取れ!」と言っていたが、ハルカは本堂達の特訓でその事を始めて理解した。

 読み切ることで相手の行動を制限させる。本堂の戦闘はそう言う戦い方だった。


 それだけでも驚きなのに、本堂は戦闘中に魔法を発動させたことにあった。それも無詠唱でだ。


 魔法とは自身にある魔力を具現化した力であり、詠唱とはその魔法に多種多様な能力を持たせ、魔力を形にして放つ為に用いられるものである。

 簡単な魔法でも第一説での発動が可能なのだが、無詠唱となれば少し話が変わってくる。無詠唱とは魔法を発動する際に既に魔力が体全体に行き渡り、その上発動する魔法が完全に形になっている状態。それを戦闘中に、ましてや自分自身が戦闘している場合、不可能であると予測されていた。

 理由は激しい戦いの中、体全体に魔力を行き渡るように集中することや、瞬時に魔力を形付ける事が不可能だと考えられていた為だ。


 だが、本堂はそれをやってのけた。


 ハルカは詠唱無しでは魔法を発動する事が出来ない。詠唱を短くすれば魔法が発動せず、かえって危険な状態となってしまっている。


「・・・マジマジと力の差を見せつけられた感じでした」

「・・・確かに、あの戦い方は俺でもできる戦い方じゃねぇ。だが、あいつも言っていたんだが、正直、()()()()()()()()()()()()。ってな」


 俯いているハルカに、アレクは本堂と話してた事を話し出した。


「あの戦い方は別に武器を極めた訳じゃない。あれはその場にあった武器を効率良く使って、極めているように見せているだけなんだ」


「あいつには色々な武器での特訓をした。その中でも剣、槍、盾、ダガーがかなり他より使えて、それに続いて弓なんかもそこそこ使えたんだ」


 アレクは本堂と行った特訓を思い出しながら話す。ハルカはそれに口を挟まず、黙って話を聞いていた。


「・・・でもダメだった」

「え?」

「勇者一行なだけあると思うほどめまぐるしい成長をするんだが、ある一定の領域まで行くと()()()()()()()()()。まるで呪いの様にな」

「・・・」

「俺にも理解できない事に直面し、何度も挫折しそうになった。急に成長しなくなるんだ。何度も心が折れそうになったよ…」


 アレクは本堂と共に特訓したこの1週間を思い出しながら、少し悲しそうな顔をした。


「それでも、本堂は諦めてなかった。最初に一定領域まで成長したダガー捌きの次は剣。次は槍、また次は盾、次はそこそこできると判断した弓も鍛え上げ、そして体術も鍛え上げた。それが一昨日のことだ」


 ハルカはアレクの話を聞いて、少し驚いていた。それは成長しなくなるということとそれでも本堂は諦めていなかったということだ。


 側から見ると、アキラの言うように本堂は良くサボっている様に見える。それはハルカも少なからず思っていたことだ。

 しかし、アレクの話を聞いてみたらどうだ。成長しなくなる呪い。それでもなお飽きられ事がなかった本堂。ハルカ達の中でも誰よりも努力していた事をこの時初めて知って、弱人だと、守らなければならないと思っていた自分自身に苛立ちや後悔を覚えた。


「そして、今日の特訓を始めてみたらどうだ!褒められた戦い方じゃないにしろ、思いもよらない戦い方を実践してみせた!」


 アレクはまるで自分のことの様に興奮しながら、嬉しそうに話す。


「嬉しかった。俺は『あいつはもう強くなれない』。『自分が不甲斐ない』。そんな考えをあいつはそれを自分で新たな方法を見つけ出した!だからこそあいつの本気に答えよう。故に、俺はスキルを使って戦ったんだ」


 それはアレクの特訓を受けている人達にとってある種の目標の様なものであった。

 アレクの指導を受けている者はアレクに対し、スキルを使用するが、逆にアレク本人はスキルを使わず相手を倒していた。


 そのため、アレスの指導を受けている者は必ずと言っていいほど、アレクにスキルを発動させる事を目標に置くのだ。


「最後の攻撃の時、彼がらしくない事をしていたからこそ負けなかったが、いつも通りに攻撃していたら、俺は負けていただろう。故に、君達の特訓を続けながら、あいつとの特訓をこれからも続けていくつもりだ。今のあいつの相手ができるのは、俺ぐらいだからな」


 アレクはハルカに向けて真っ直ぐに自分の思いを口にする。だが、ハルカは今日起こった驚きの連続に、どの様な言葉を口にすればいいのか悩ましていた。


 弱いと思っていた彼。成長がしなくなる呪い。アレクの苦悩に、諦めなかった努力と結果。


 それを適当な言葉で片付けてしまっていいのか?そう考えると、ハルカは言葉を出す事が出来なくなった。


 それに気づいたのか、アレクは、


「・・・悩んでいるのなら、一つのことだけをすれば良い」

「ある一つのこと?」

「ホンドウ君はこう言っていた」


『色々と考えて、悩んで、それでも答えが出なかったら、一回考えるのやめて最初に浮かんだ事をやってらだけですよ』


「そう言っていた。そして今回のことで最初に浮かんだ事は『とりあえず生きる。その為には強くなる事が先決だな』。そう言って、俺に教えを請う事を頼んだらしい。とりあえず…というところが変なとこではあるがな」

「最初に…浮かんだ事…」


 ハルカは目を瞑り、色々といっぱいになっている考えをやめて、頭の中の考えをスッキリさせる。そしてふと何か浮かぶと、ゆっくりと目を開けた。


「・・・アレクさん。ありがとうございました」

「・・・何か思いついたか?」

「はい…」


 大変かもしれないけど、頑張ってみよう。


「やってみせます!」


 今の私ならきっとできると思うから。





 みんなと無事に、元の世界に帰るんだ!

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