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魔法特訓という名のイジメ

 アレクの個人特訓が始まって早1週間。

 全くと言っていいほど成長がない…。これは本格的に呪い説が浮上してくる今日この頃。


 ミスティーナ姫のお誘いでお食事会を開くことになった。本堂はお食事会よりも自分のトレーニングに時間を費やしたいのだが、教官であるアレクに参加するように言われ渋々参加することなった。



 *



 食堂に着いた俺たち1-3。

 そこにはすでに何人かおり、俺たちが入ってくるのと同時に立ち上がり近寄ってくるミスティーナ姫と1人のおじいさん。

 こういう場合は恐らくこのおじいさんは…


「よくぞお越しくださいました。私はアルファード・ソフィア。この国の国王を務めてあるものだ」


 駿を含めた数人はやはりな!っといった表情を出し、何も考えていなかった数名は驚きの声をあげる。


 その後、クラス代表者である金沢が挨拶をしそれぞれまばらに着席する。本堂は端側に座り、極力話に関わらないように食事会を済ませた。


 だが、どんなに話をしているのか気になるもので、国王達の話に聞き耳を立てていると、特訓はどんな調子なのか、勇者としてこれからどうしていきたいのかなどの抱負などの話が耳に入る。

 この食事会の意図を掴めると、本堂は並べられた料理を黙々と食べある程度腹が膨れるとすぐさま食堂から出ていった。



 *



 突然だが、風呂の時間は決められている。

 男子は6時から7時、女子はその後の1時間だ。現時刻は約6時半。


 本堂は久々の湯船に少しばかり羽を伸ばす。長い時間湯船に浸かっていることは好きではないが、他の連中は現在お食事会中。そのため、大きな浴場の浴槽を広々と使い、英気を養った。



 *



 風呂から上がり、欠伸を仰ぎながら自分の部屋に向けて歩いていると前に3人の男が現れる。その男達に見覚えがあった。


「おやおや?ここにおられるのは本堂ではありませんか?」


 俺と同じく元の世界からやってきたクラスメイト。


「こんなところでどうしたのかな?」


 名前は…なんだったかな…?こいつらにはよく嫌がらせにあっていたんだがな…。


「ひょっとして…迷子ですか〜?」


 3人は「ギャハハハ!!」と高笑いを始めるが、やはり思い出せない。あとちょっとで思い出せそうなのだが…やはり()()()()()人間も、しっかり覚えておかないといかんな…。


「・・・おい。なんとか言えよ!」


 俺の反応にしびれを切らしたのか、1人が怒鳴り声で騒ぎ立てる。

 ・・・ああ、そうそう。


「いや〜、すみません。坂本(さかもと)さん。最近、寝不足で眠る時間が取れず少し反応が鈍かったんですよ〜」

「その割には髪が濡れてるな」

「これは先程軽く汗をかいてしまいまして、それを流していました」


 一応本当のことを織り交ぜて話すと、「ふ〜ん」となんだか納得はしていないが、わかってもらえたみたいだ。


「それではすみません。そろそろ部屋で休ませていただきます」


 そう言って本堂は坂本達から離れようとするが、坂本達はそれを許さず、後ろ襟を掴み横の壁に叩きつけた。本堂は背中に感じる強烈な痛みに耐えながら壁にのしかかる。


「あれ〜、おかしいなぁ?俺、そんなに力入れてないはずなんだけどなあ〜」


 圧倒的な演技力の低さに呆れてしまう。今のは俺のステータスを理解した上で俺にダメージが入らない程度の力で壁に叩きつけたのだ。


 そんな力加減の才能があるのならもっといい方法があると思うのだがな…。


「そういえば、本堂は俺たち中でも最弱中の最弱だったな」

「・・・ええ。・・・それが何か?」


 痛みを堪えながらも、問いかけに返答する。こういう場合の嫌な予感は当たるんだよな…。


「それじゃあ…俺が特別に()()してやるよ」


 ほらきた…こうなる予感がしてたんだよな…。


「安心しろ。死にはしないさ。ただ、俺の特訓はかなり荒ぽいからな…」

「・・・一応聞くけど、拒否権は?」

「あるとか思ってんの?」


 だと思ったよ…。

 少し諦め気味にため息を吐くと、彼方の方まで吹き飛ばされた。



 *



 突き当たりの壁にッドン!とぶつかり、先程よりも強烈な痛みが体を襲う。体を動かそうとするが、ビリビリと体が痺れうまく自由が効かなくなるほど強烈な痛みだった。


 俺を吹き飛ばした当の3人はニヤニヤと笑いながらこちらへやってきていた。「もっとしっかりしろよ〜」言う愚痴も含めながら。


 この3人は本堂が付けた安直ネーム『いじわる三人衆』だ。本堂に対して嫌がらせやストレス発散などといった行為を受けている。

 主犯はもちろん坂本。下の名前は本堂は知らない。興味のない奴の苗字だけでも褒めて欲しいものだ。残り2人の取り巻きは安川(やすかわ)山口(やまぐち)だ。もちろん名前は知らない。


「それにしてもさ〜、マジ弱すぎだよな〜。やる気あんの?」


 そう言って、壁に叩きつけられ蹲る本堂の腹に蹴りを入れる坂本。その後も暫く、稽古という名のリンチが続く。本堂は痛みに耐えながら何故自分だけ弱いのかと悔しさに奥歯を噛み締める。本来なら敵わないまでも反撃くらいすべきかもしれない。


 そろそろ痛みが耐え難くなってきた頃、


「何やってるの!?」


 突然、怒りに満ちた声が響いた。


 声の主は天王洲 春香(てんのうす はるか)

 天王洲高校の理事長の孫娘で誰にでも気兼ねなく優しく、アキラと同じく学園の人気者である。腰まで届く長く艶やかな栗色の髪、彼女の大きな瞳はひどく優しげで、スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。


 彼女のその優しい性格の為か、よく1人でいる駿に話しかけるという光景を高校でもよく見かけられた。


 そんな彼女の登場に「やべっ」という顔をする坂本達。それと同時に嫌なそうな顔になる。それはそうだろう。なんだって坂本達はハルカのことが好きなのだから。


 坂本達が、本堂に対しイジメなどをするのは彼女の存在がある為である。彼女自身、自分のせいで本堂がやられてあるとは微塵も思っていないことも事実なのだが、それでも本堂と彼女が話してあることが気に入らないのだろう。


「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、本堂の特訓に付き合ってただけで…」

「本堂くん!」


 坂本の弁明を無視して、ハルカは、腹を抑えて蹲る駿に駆け寄る。本堂の様子を見た瞬間、坂本達のことは頭から消えたようである。


 そして、ハルカの声に次々と人が集まっていき、その中からハルカの親友である浅葱 千尋(あさぎ ちひろ)が現れる。


「ハルカ!・・・これは一体どう言うことなの?」


 チヒロは瞬時に状況尋ねる。

 目に見えてわかる親友の動揺に瞬時に頭が冷静になる。


 浅葱 千尋

 彼女は百七十センチメートルはあろう女子にてしては高身長の待ち主で、肩まで伸びた黒髪と鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられる瞳を待ち、更に剣の腕がよく剣道の全国大会に出場するレベルとのこと。


 そんな彼女の剣幕に坂本達は後退る。


「いや、あの、俺達は、特訓していただけで…」

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは…」

「言い訳はいい。いくら本堂が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」


 その後、アキラとリキヤも現れどんどんと坂本達に詰め寄る。三者三様に言い募られ、坂本達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。ハルカの治癒魔法により本堂が徐々に癒されていく。


「ありがとう。天王洲さん。もういい。助かったよ」

「ううん。()()が大変な目にあってるんだもん。当たり前だよ」


 ハルカは笑顔でそう言ってくる。そんなハルカに対して一瞬だけ、ほんの一瞬だけ顔の表情が歪む。だが、すぐさま少し呆れた様な表情に変わる。


「そう言って、助けてもらうのはありがたいのだけれど…」

「?」


 本堂がハルカの後ろの方を指差し、?を浮かべながら振り返ると嫌そうな顔しているチヒロとアキラ。対してリキヤは何故かニヤニヤとした表情を浮かべている。


 リキヤはともかくとして、2人は本堂とハルカが仲良くしているところが気に入らないらしい。しかし、ハルカその事に全く気付いた様子はなく。本格的に呆れて溜息が出る。


「・・・ゴホン。ところで本堂君。あなたいつもあんな事されてたの? それなら」

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」


 現在の雰囲気を誤魔化す様に咳き込み坂本達について聞いてくるチヒロ。それを駿は止める。


「・・・そう。あなたがそう言うならやめとくわ。でも、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。ハルカもその方が納得するわ」

「ああ。そうしてくれると助かる」


 チヒロは納得はしてはいないが、本堂の言葉を信じて問い詰めることはしなかった。ハルカも渋々ながらも頷く。


「だが、本堂自身、もっと努力すべきだ」


 そんな中ただ1人、アキラだけは坂本達だけではなく、本堂にも問題があると言い出した。


「弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないとき、それに俺達が剣の訓練をしている時間でさえ、殆どの時間は図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬に充てるよ。本堂も、もう少し真面目になった方がいい。坂本達も、本堂の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」


 ・・・何をどうトチ狂ったらそう言う解釈になるのか理解できなかったが、側から見たらそういう解釈なんだな…と、本堂は呆然としながら、ああそういえばこの勇者様は基本的には性善説で周りのことにはある意味天才的だと言っていいほど疎い為、自分がやっていることは正しいと解釈することがある。


 アキラの思考パターンは、基本的に人間はそう悪ことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! という過程を経るのである。


 しかも、アキラの言葉には本気で悪意がない。真剣に本堂を思って忠告しているのだ。


(・・・なんでこんな奴が勇者なんだろう…)


 こいつよりはまだ砂糖…じゃなかった佐藤の方がまだましだな。


 本堂はアキラに対し、立ち上がりながら適当に返し部屋に向けて歩き始める。アキラがそんな態度の本堂に怒り、何か言ってくるが本堂はそれを聞かず黙々と部屋に向かうのだった。

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