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75.妖怪足おいてけ

「よーぉぉぉ! かわいいおさかなちゃんたち、元気ィカー?」

「ギャハハハハ! おめェそりゃシャレのつもりかよぉ?」


 わぁ、小悪党ここに極まれり。見るからに小物臭あふれる感じで登場したのは、武装したでっかいイカとタコだった。イカの方が銛を持っていて、タコの方が長ドスを構えている。げげっ、よく見ると黒い大群は小さなイカとタコたちの集団だ。


「オラオラぁ! 今日も『十八本ブラザーズ』様が来てやったぜー、上納品もってこいやぁ!」


 たぶんボス的な立ち位置の二匹は合わせて十八本の腕をブンブン振り回して威嚇している。今日もってことは連日来てるのか。呆れる私の横にいたピアジェが青い顔で震え出した。


「あわわわ、また十八ブラザーズさんが来ちゃいました。もう差し上げられる食料はないんですよぉ~」

「俺たちゃ親切だからよぉ、宝石とかでもいいんだぜー? あるんだろ、真珠とか」


 やれやれ仕方ない、こういうのは一発ビシッと絞めておかなきゃね。居合わせた者として見過ごせないわ。あとついでに言うとそのネーミングセンスはどうかと思う。


「ルカ」


 手を振って合図しただけで有能なる右腕は察してくれたらしい。進み出た彼は目にも留まらぬ速さで敵をバッサバッサと――


「まぁまぁ、少し話し合おうではありませんか」


 ん?


「なんだぁ? アンタ人魚じゃねぇな」

「初めまして、私はリュカリウス。新生ハーツイーズ国にて不肖ながら魔王の補佐官を務めさせて頂いております」


 にこやかなルカの自己紹介に不良イカタコは顔を見合わせた。あっちこっちで人魚に張り付いてイタズラし始めていた雑魚たちも何だなんだとこちらを見始める。


「ハーツイーズって、あの?」

「暴食の……」

「あなた方も話くらいは聞いたことあるでしょう。魔王の数々のエピソードを」


 待って、待って、なんか話がおかしな方向に進み始めてる。何でザワザワし始めるのよ、ちょっと、椅子も机も喰わんわ! 胃袋が七つあるってどこの化け物よ!?


「こちらにおわす方をどなたと心得ますか? 我らが魔王様ですよ!」


 ルカが素晴らしくよく通る声で、高らかにこちらを紹介する。タイミングよく私のお腹がググゥと鳴って、広場には押し殺したような悲鳴が巻き起こった。


「さぁ魔王様、アイツらをどう料理してやりましょうか」


 あとで覚えてなさいよルカ。ここまで来た私は、半ばヤケクソ気味に一歩踏み出した。ザリッと足元の砂が舞い上がる中、できるだけ低い声が出るように喉を開く。


「……てっぽう焼き」

「ひっ!?」

「たこやき、烏賊刺しっ、たこわさッッ! あぁー、おいしそう!」


 一歩詰め寄るごとに食材たちは縮みあがった。小さな一匹が悲鳴を上げたのを皮切りに、続々と自分たちでブチ開けた天井めがけて逃げていく。私はその背中向けてもう来るなとばかりに叫んだ。


「マリネ! カルパッチョッッ!!! 魚介の幸たっぷりシーフードドリアああああ! いつかその美味しそうな足をブツ切りにしてちょろっと醤油をつけてワサビを乗せていやマジで一本置いて行ってくれないかなぁ、ねぇ!」


 情けない悲鳴をあげて逃げていく不良軍団に人魚たちの間から自然と拍手喝采が巻き起こった。けれども私がそちらに視線を向けると息を呑んで一歩後ろに下がってしまう。


「誰がそこまでやれと言いました、主様」

「え、演技よ。演技だってば」


 ちょっと引き気味のルカに言い訳してると、ちょっとだけ被害のあったお店とかを見て回っていたピアジェが戻ってきた。今までにない真面目な表情で穴の開いてしまった天井を見つめている。


「このようにして近頃はどんどん略奪されてるんです……わたしたちは自衛の手段をほとんどないのでいいカモ。今はあんなチンピラぐらいで済んでいますが、いずれ他の捕食者たちにこの隠れ家を知られたら……」


 ここでハッとした一番尾は、これまで通りのぽやっとした笑みを浮かべて両手を胸の前で握りしめた。


「なぁんて、もう安心ですよね、なんたってハーツイーズさんの末席に加えて頂けるのですから~、今みたいに魔王様に恐れをなして逃げていきますよ、きっと」

「だから、それ誤解だからね」

「……」


 一応ツッコんで訂正したところで目的の場所へと再び歩き出す。シェル・ルサールナの本部は広場からさほど離れていない場所にあった。他の店や家と同じように黒い岩石が折り重なってできた空間に居を構えているようだ。入り口と思われるところに、渦巻きのようなふしぎな民族模様を描く布がかけられている。水流ではためかないようにする重りなのか、裾の両端には石が結わえ付けられていた。


「イオ様、ハーツイーズの国王様をお連れしました。入ります」


 のれんのようにそれを押し上げてピアジェが中に呼びかける。どうぞと促された私たちは屈みながら岩場の隙間へと入っていった。さぞ目もくらむような美しい堂々とした人魚様が待ち受けているだろうという予想は外れ、中に居たのは至って普通の女性人魚一人だった。ピアジェとよく似たカラーリングなのだけど、はちきれそうな生命力にあふれた彼女とは違ってとても弱々しく見える。小さな体を丸めて積み重ねたクッションの上でケホケホと咳をしているこの人が人魚族の代表イオ様?

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