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71.侵略作戦、始動!

 他の人には聞こえないよう財務大臣はそっと耳打ちをする。わかってる、そろそろ城の美術品を売り払って作った最初の軍資金が無くなってくる頃だ。これからマイスター制度でさらに出ていくお金が増える。ここらが踏ん張りどころかもしれない。


「……作物の取れ高はどう?」

「悪くないですね、国民全てに行き渡るほど生産量が上がってきています」


 そりゃそうだ、私の土属性チートで極限まで良質にした畑がものすごいサイクルでフル稼働しているのだから。一週間も経たない内に収穫できるとか、あの畑の周囲だけ季節の早回しが起こっていると言っても過言ではない。


「明日の収穫で初の余剰分が出ますね。ひとまずは城の貯蔵庫に保存する予定です」


 しかしそれもこやしとなるドラゴンの糞が枯渇するまでだ。急ピッチで開墾して、糞の在庫もまだまだ在庫はあるけどいつまでもというわけにはいかない。私は目を閉じて思考を巡らす。


(土台は揃った、赤字から黒字に転換させなきゃ)


 スッと目を開けた私は、次なる手を打つことにした。


「メルスランド側に身内が出て行ってしまった人間をリストアップして、その人たちを中心にキャラバンを組んで」

「キャラバン?」

「その余った野菜を持ってあっちの国側に巡行に行かせるの。つまりうちで採れた野菜のPRね、簡単な調理ができるキッチンカーを作って試食して貰おう」


 まだ日本に居た時、スーパーで試食させて貰った小さいころの思い出がよみがえる。ウィンナーを迷わず全部平らげてしまった私の頭を抑えつけて全力で謝りながら、お母さんが十袋ぐらいまとめ買いしてたっけ。


「食べた以上は『買わなきゃ』って心理が少なからず働く。レシピはラスプに頼もう。ビラとキャッチコピーはリカルドに作らせて、あの人そういうの得意だから」


 それにしても適材適所というか、うちには良い人材がそろってる。巡行リーダーはライムに務めてもらえばいいだろう。あの子ほど人寄せに向いてるキャラも居ない。


「わかりました、手配します。価格はどうなさいます?」

「向こうの人間領と併せていいよ、味で勝負したら絶対に勝てるから。あぁ、バラ売りとは別に十個まとめ売りとかあってもいいかも、少し割安で。ご近所さんとシェア買いしてもらうとかね」


 なるほどなるほど、日本の商売のやり口は異世界の主婦にも通用するかもしれない。まずは魔族領、改めハーツイーズ産ブランド野菜の知名度を上げるところから行こう。


「護衛としてゴブリンとかスライムの魔族を少しだけ混ぜてもいいかな、愛想のいい人を選んでフリル付きのエプロンでも着せておけばいいわ」

「確かに、それだけで警戒心は和らぎそうですね」


 こんなところだろうか。そうだ、一応リヒター王に商売を始めますのお手紙を出しておこう。良い顔はしないだろうけど、建国を支援すると言ってる手前いきなり出禁をくらうことはないだろう。後々、なんらかの制限がかかるかもしれないけどその前に人気を獲得してしまえばこっちのものだ!


「胃袋侵略作戦、発動!」

「武力ではなく経済で世界征服を行うつもりですね、さすがは魔王様」


 ニヤリと笑いあった私たちは拳を裏同士でコツンと突き合わせる。めんどくさい事をすべて取り仕切ってくれるルカが居るからこんな作戦ができるのだ。頼んだわよ相棒。


 よしっ、これでひと段落ついた。くるっと振り向いた私は、ライムと何やら楽しそうに話していた彼女に向かって呼びかけた。


「お待たせピアジェ、視察行けるよ!」



 ***



 ハーツイーズ城を出てから三時間弱、私たちはレーテ川から海へと注ぎ込む境目の地点までたどり着いていた。


「ああ~、やっと帰ってこれましたぁ、ここから出発したときはまさか干上がってしまうとは思っていませんでしたよ~」


 隣で空中にふよふよと浮いているピアジェが感激したように両手を胸の前で握りしめる。どうやら彼女、来るときはレーテ川を産卵期のシャケのように遡り、お城の最寄りの地点から陸に上がって浮遊魔術フロートで飛んで来たらしい。じゃあなんで森の中で干上がってたのかというと、人魚族は海の中では素晴らしい方向感覚を誇るのだけど、陸に上がると途端に磁場が狂ってしまいすさまじい方向音痴になってしまったんだそうだ。


 実はここに来るまでも、ふらふら~っと、とんでもない方向へ行ってしまう彼女を先導しながら歩いてきた。わざとか? ってぐらい反対方向に進み始めたりするんだもんなぁ……


「ですが、その装置さえあれば干上がってしまう心配もありませんね」


 生暖かい海風に吹かれていたルカがピアジェの背中に視線を向けて言う。可愛い人魚さんの背中にはやけにメカメカしいというか、歯車やら金具がついたタルが背負われていた。彼女はにっこり笑うと、タルから金属の棒を外した。蛇腹式のホースでタルとつながっているそれを上向きにすると今度はシュコシュコとポンプで空気を送り込む。


「本当にライム君はすごいですねぇ~、一晩でこんなものを作ってくれるなんて、魔法使いか何かみたいです」

手首ですっ、手首ですっ、あぁ忙しい! 試食キャラバン隊の皆さんの衣装やらの手配を任されましたの。急な事ですから白いお洋服をそれっぽく仕上げることで間に合わせますけど…こういうとき裁縫が得意な方がいてくれると助かるのですが…

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