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70.ドク先生

 しゃがれた声が彼から発せられた物だと気づくのに時間は掛からなかった。私が何か言う前に、一歩進み出たルカがたしなめるように忠告する。


「王の御前ですよ、顔を見せずに無礼だとは思わないのですか」


 しばらく黙り込んでいたフロギィ族だったけど、しばらくしてまたボソボソとくぐもった声でしゃべり出した。


「これは失礼した。だがワシの顔は大層醜く吐き気を催すような顔だと評判でな、特にそちらのお嬢さん方のような乙女は見ん方がいい。どうかこのままで謁見をさせて頂きたい」


 これはたぶん私とピアジェのことを言ってるのだろう。実際、愛らしい人魚さんはすっかり怯えてプルプルと震えてしまっている。指を組んで何かの神に必死に祈りをささげているようだ。


「魔王様ぁ、早く追い返してくださいよぅぅ、フロギィ族の顔を見ると自分も同じような顔になっちゃうんですよぅぅ」


 ……なにその迷信。みんなの間にも直接口には出さないけど「気持ち悪い」って雰囲気が蔓延し出す。


 段々このパターンにも慣れて来た私はちょっとだけ考えた後パッと玉座から飛び降りた。ひな壇を降りてフロギィ族のすぐ目の前に立つ。


「全然平気だよ、見せて。例えあなたがどんな顔であろうとも、それはマイスター制度になんら影響は及ぼさないし、あなたの人格を否定する理由にはならない」

「……」


 しばらく無言でいた彼は、重たいため息をついてフードを引き下げた。吸盤のついた手のひらを覗かせてマスクを外すため頭の後ろに手をやる。


「後悔しても知りませぬぞ、魔王殿」


 仮面の下から現れた顔にどよめきと小さな悲鳴が巻き起こる。イボイボのついた茶色い頭部にぎょろりと剥いたガラス玉のような黒い目。白い筋が皮膚の表面を模様のように走り、大きく裂けた口が顔の左から右へ横切っている。うわ、これは予想してたより遥かに――


「これで充分であろう、見苦しいものを見せてしまっ」

「そっくり……」

「ケロ?」


 可愛い鳴き方をしたその顔面を指さして、私は爆発するような笑い声を広間に響かせた。


「あーっはっはっはっ、いた! 家の近くの田んぼにいたヒキガエルそっくり!! うわぁ、細かいところまでよく似てる。この耳のところについてる丸い模様とか! ねぇ、触っても平気? ひぃっ、そうそう、この感じ! ひんやりしてるけど意外とサラッとしてる感!」


 笑い転げながらあちこちペタペタ触りまくっていると、戸惑ったような声がすぐ間近から聞こえて来た。


「気持ち悪くないのか?」

「んん? 予想してたよりは全然、道路でよく轢かれてたのはもっとグロかったしね」


 でもそんなこと言ったら、どんな生き物だって轢かれたらグロテスクだろう。それによく見ると案外カエルって可愛い顔をしてるのだ。


「私はやらなかったけど、男の子がお尻から爆竹いれて爆発させてたりしてたなぁ」

「ケロッ!?」

「足掴んで振り回して壁に叩きつけたりとか――」

「主様、その辺りにしておきましょう」


 ルカに肩を掴まれて引き戻される。あれ、なんでみんな青い顔してるの? そしてなんでちょっと私から引き気味なの。


 そんな中、肩を震わせていたフロギィ族さんがいきなり大きな声で笑い出した。今までボソボソ喋ってたから分からなかったけど、渋くて結構いい声してる。


「ケロケロケロ……とんだ女の子も居たものだ。そういえばまだ名乗っても居なかったか、フロギィ族のドクマゴラと言う」

「じゃあドク先生。さっき毒薬の研究したいって言ってたよね。それって応用すれば薬にもなったりする? 病気の事とか詳しい?」


 最初申し出てきた時からピンと来ていたのだ。そしてその読みは大当たりだった。


「もちろん、毒を制するには毒。毒の効果を高めるためには体の仕組みを熟知していなければならぬのでな。一通りの知識は備えておるよ」

「採用!」


 パチンと指を鳴らした私は迷わずハンコを押した。やったー、思わぬところでお医者さんゲット! みんなはまだ不信そうな顔をしていたけど病気になった後でもその態度がとれるかどうか見物だわ、ふっふっふ。


 一人小躍りしていた私は呼びかけられて振り返る。目を細めてこちらを見ていたドク先生は少しだけ困ったような笑みを浮かべていた。


「本当に、こんな醜いカエルを仲間にしてもいいのかね?」

「もちろん、何か問題ある?」


 ***


 そんなこんなで一通りの審査が終わった結果、例の詐欺師マイラを除く九名全員がマイスター第一期生としてめでたく認定された。まぁ初回だし、かなり審査は甘くしたところがあるけど意欲はみんな高いみたいだし期待しよう。


 どこに住むかだとか、城の空き部屋を使うかだとか、次回の査定で発表する大まかな目標だとか、細かいやり取りを終えた後ひとまずは解散になった。道具だけ持って身一つで来た人、家族を連れてこれから引っ越してくる人、様々だ。


「他の都市で、年功序列や家柄に邪魔されて頭角を出せずにくすぶっていた者が多いようですね。出る杭は打たれるというやつですか」


 データをまとめた紙をパラパラめくっていたルカが報告する。心機一転チャンスを求めてやってきた彼らを精一杯サポートできるよう頑張らなくちゃ。


「となると、先立つものが必要になってきますが……主様、申し上げにくいのですがそろそろ底が見えてきましたよ」

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