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63.今日もいい道化っぷりですね

 マンドラゴルァって、私が買い付けたあの? 反旗って、野菜が何の反乱起こすっていうのよ。


 ワケの分からぬまま、とりあえずみんなで村の畑まで下りていくことにする。あいたたた、足いたい! でも多少無理してでも少しずつ慣らしていかないと。


 そんな苦痛を堪えようやくたどり着く。それまで走りながらもざわついていたのに、先にたどり着いていた人たちはみんなポカンと目の前の光景を見つめている。私もその人垣をかき分け前に出て、声を失った。


「ゴルァァァ」

「ゴルァ?」

「ゴルァァ」


 植わっていたはずのマンドラゴルァ達が、抜け出して自立走行している。しかも隣の畑を荒らしまわって収穫直前だったトヌトやキュワリをムシャムシャと貪り食っているではないか。


 さらにその向こうではわーむ君が集団にたかられていて「ぴぎゃぁぁああ」と可哀そうな鳴き声を上げている。見たことあるぞこの光景、そうだ、イナゴだ。


「こ、こらぁぁぁ!!」


 思わず叫んだ瞬間、それまで一心不乱に野菜を食い散らかしていた彼ら(?)は一斉に動きを止めこちらを振り返り――


( ゜Д゜ )( ゜Д゜ )( ゜Д゜ )


「こっちみんな」と言いたくなる顔を向けたまま、蜘蛛の子を散らす勢いで逃げ出した。


 その動きは野菜とは思えないほど敏速性が高く、近場の森めざして一目散に駆けていく。いやもう野菜じゃないわアレ! 害虫の類だわ!!


「捕まえてっ、逃がしたら大変!」


 私の呼びかけで全員がその後を追い出す。ああああぁぁ~やっぱりあの行商人に騙されたんだっ!!



 それから数十分後、あれだけ大捕り物を演じたというのに捕獲したのはわずか十体程度に終わった。残りの十体程は森の中に逃げ込む事に成功したようで捕まえられなかったのだ。


「どうしよう、森の中で繁殖とかしてたら……」


 夜な夜な作物を荒らしにくるイノシシみたいな存在になったら厄介だと気を揉んでいると、グリが驚いたように捕獲した一匹を持ち上げた。


「これ死神界の植物だよ、どこで手に入れたの?」

「えぇっ!?」


 予想だにしない新事実に驚きながらも、橋を渡ってやってきた怪しい行商人ペロの事を伝える。あ、そっか。ペロが死神ならいきなり姿を消しても全然ふしぎじゃない。すぐに気づくべきだった。


 騙されたこと、察せなかった事に悔しい思いをしていると、我が国所属の死神様は憐れんだように首を傾げてこちらを覗き込んできた。


「たぶん、俺そのペロって死神に心当たりあるけど、会いたい?」

「知り合いなの?」


 そう聞くと、彼は微妙に苦い顔をしながら、ん~っと言葉を濁した。表情の乏しい彼にしては珍しい態度だ。


「知り合いというか、腐れ縁というか……しばらく会ってないし、できれば会いたくない人物ではある」


 そこまで人当りの悪くないグリが、というか、他人にそこまで興味を持たないグリが敬遠する人物っていうのは気になったけど、問い詰めたいこともあるのでお願いする。


「じゃ、捕まえよう」


 そうして急遽その夜、死神ペロ捕獲作戦が決行されることになったのだった。



 ***



 ホゥ、ホゥ、とフクロウが鳴く夜半。お城の前の広場にどかん!と置かれた物を見上げた私は、なんとも雑な作戦に不安を隠せなかった。


「ホントにこんなので捕まえられるのかなぁ……」


 ライムに頼んで急ごしらえで作って貰ったそれは、人がすっぽり入るほど大きな檻だった。鉄柵を針金で組み合わせて出来ており、片側二ヵ所に棒が挟んであって、紐でつながれたそれを引っ張ればバタンと落ちて捕獲できる仕組みになっている。簡単に言うとザルを逆さにしてスズメを捕まえるアレのおっきい版だ。


 その時、お城の正面玄関から様子を見に来たルカが出てきた。彼も私と同じ不安を抱いたのか、粗雑な罠を見上げて素直な感想を口にする。


「こんな原始的な罠に知能ある死神が引っかかるとは思えないのですが」

「知能を無くしちゃうくらい魅力的な餌を設置しとけばいいんだよ」


 魅力的な餌?と思っていると、グリはこちらをじっと見つめてきた。え、え、まさか……私!?


「ちょっとだけ危険かもしれないけど、やってくれる?」

「えぇぇ、いきなりそんな言われても……っていうか魅力的って、そんな風に言われると照れるっていうか、アハハ、自分にそんなのがあるとは思えないんだけど、え~、どーしよっかなぁ~」


 照れながら頭を掻いて笑う。でもでも、ペロを捕獲したいって言いだしたのは私だし、やっぱここは一肌脱ぐしか! そういう流れだよね?


「大丈夫、いざとなったら俺が守ってあげる」


 ゆるやかな微笑みを浮かべたグリが近寄ってきて私の肩に手を伸ばし――







 その上に乗っていた手首ちゃんをすくい上げた。



「怖いけどやってみる? ありがとう」


 そのまま檻の方へと『魅力的な手首ちゃん』を設置しに行く白い後ろ姿を見送り、私は完全に固まる。


 肩をポンと叩かれて、ぎこちない動きでそちらを振り返ると、超絶爽やかなスマイルを浮かべたルカがこちらを見下ろしていた。


「主様、今日もいい道化っぷりですね」

「うぁあああうあぅっ……どぅわあああぁぁああぁぁ!!」

手首です。つまりはわたくしが囮となる…ということですよね? ちょっと怖いですが、ご主人様のためですもの、やってみます!


……ところで先ほどからグランドマスターがこちらに向かって合掌しているのが気になるんですが、なんなんでしょう

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