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55.エーリカ

「あはは、子供たちの自由な発想力ってすごいよね。ボクもどこまで出来るか楽しくなっちゃって……あ、でも食べ物と火種になりそうな物は絶対に持ち込まないって約束は守ってるから安心してね」


 しかしこのままのペースで行ったら、どんどん増殖して城が侵食されるんじゃないだろうか。そんな不安を感じていると、下り階段になっているところから(え、地下まであるの?)小さな二人組が手に本を持ちながら駆け寄ってくる。


「まおー様、まおー様、あのね、『赤ずきんちゃん』読んだけどね、この間の劇と全然違ったよ?」

「フツーすぎてつまらん!」


 不満そうに口をとがらせるその子に苦笑いを返す。あー、あれはだいぶアレンジ利かせちゃったからなぁ……。そもそも主人公が少女じゃない時点でコメディだったし。


 ここでふと思いついた私は、彼らに視線を合わせるように屈んで一つ提案してみた。


「じゃあ自分でアレンジして書いてみよっか」

「え?」

「キミ達がおもしろいように、お話を書き換えちゃうの。そうしたらきっと読みたい話ができあがるよ」


 しばらく顔を見合わせていた二人は、見る間に顔を輝かせ始める。両手を振り上げたり拳を握りしめたりして飛び跳ねた。


「なにそれ楽しそう!」

「よぉーっし、じゃあオレは主人公を自分に変えた話かく!」

「あっ、ずるい! じゃあ僕もそうしちゃお」

「どっちがおもしろい話かけるか勝負だ!」

「うんっ」


 他の子たちも興味を示したようで紙とペンを探しにバタバタと行ってしまう。それを見送りながらエリック様は関心したようにつぶやいた。


「なるほど、『子供たちの感性を育てる』か」

「もしかしたら、いつかあの子達の中から大作家が出てくるかもしれませんね」

「参考になるな……ところで劇とは?」


 流れで、先日『赤ずきんちゃん』を公演した劇場にも足を伸ばす運びになり、廊下へと出る。


 その時、一瞬誰かに見られているような視線を感じた。辺りを見回すのだけど、図書館の方から子供たちの楽しそうな声が聞こえるぐらいで誰も居ない。


「?」


 みんな普通に歩き出してるし、気のせいだったのかな?


 妙な違和感を覚えながらも、私は彼らの後を追ったのだった。



 ***



 腰まで伸びた黒髪をさらりと揺らしながら魔王が小走りで駆けていく。


 その後ろ姿を、あたしは二階の手すり部分に腰掛けながらぼんやりと見送った。いいなぁ、うらやましいよ。


「別に名乗り出てもいいんじゃないの、『彼』とは久しぶりの再会なんでしょ。向こうだって喜ぶと思うけど」


 隣を見れば、空中からふよっと降りてきた死神様が器用に手すりの上でバランスを取っているところだった。向けられた眠たげな灰色の目から逃げるように、あたしはぷいっと顔を背ける。


「まぁ、好きにすればいいと思うけどさ」


 わかってる、ここで名乗り出ればきっとすべてが丸く収まる。


 でも、それでも、ダメなのだ。今はまだ気持ちの整理がつかない。こうなってしまったことを、知られたくない。


 黙り込むこちらの気持ちなんて全部お見通しなのか、死神は目を伏せてそっと諭すように告げた。


「君の時間は君が思うほど長くは残されていない、後悔しないようにね……エーリカ」



 ***



 今は空っぽの舞台の上に乗り、クルクルと回りながらルシアン君が興奮したように言う。


「はいはーいっ、オレ演技ちょー得意っ!! 『さぁ敵はどこにいる? 私は逃げも隠れもしないぞ!』」


 便乗したライムが足取り軽くステージに飛び乗り、どるんっとゲル化して元のスライム姿に戻った。


「『ぐへへへへ、ここで会ったのが運のツキだったなぁ旅人よ、身ぐるみすべて置いて行ってもらおうかぁぁ』」

「おわっ、ライム君マジでスライムなんだ」


 一瞬ビックリしたように目を見開いたルシアン君だったけど、足元に落ちていた紙の剣をスチャッと構え、峠を渡る旅人へと一瞬で変貌した。


「『こんなところで倒れるわけにはっ、私には故郷で帰りを待つメアリとダイアナとレベッカとデイジーと酒場のルディちゃんとそれからそれから……』」

「あはははっ、お兄さん設定が浮気すぎだよぉ」


 仲良く戯れていた二人だけど、その後ろの暗がりから何の前触れもなく何かがニュッと現れる。


「ぎゃあ何!? どちらさま!?」


 見るからに恐ろしそうな風貌をしたその鎧は、ひっくり返った峠の旅人を見下ろした。


『……』

「せ、センパーイ! 助けてー! 殺されるぅぅ」


 這いながらこちらに来ようとする部下を見下ろし勇者様は軽い溜め息をついた。落ち着いた声のまま指摘する。


「それでも我が国が誇る精鋭騎士か。落ち着いて探ってみろ、その鎧から殺気はまるで感じられないだろう」

「へ?」


 振り返ったその先で、フルアーマーさんはおどけたように『ぴろぴろぴろ』と、両手を広げていた。その後、頭の後ろに手をやりながら助け起こすための手を差し伸べる。


『驚かせてすまぬ。何やら楽しそうな声が聞こえたものでな』

「あ、あぁ、あざす」

『どうも、すみません』

「ぎゃー!」


 トドメとばかりに頭部をポロリと落とし、中が空洞になっていることを見せつけると、ルシアン君は完全に固まりガクリと膝を着いた。今のやり取りを見ればわかるように、意外とフルアーマーさんはお茶目だ。


「なるほど、リビングアーマーだったのか。装飾品に見せかけた彼に城の警備を任せているわけだな」

「いえ、彼は風呂場の番台です」


 目を剥いた勇者様の表情に笑いそうになる。口元に手を当てながら私は次なる施設へと案内した。

手首です。フルアーマーさん、舞台袖にウキウキしながら乗り込んで行ったかと思ったらあんなことをしてたんですね。やれやれ、成敗されても知りませんよ?

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