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53.えんやさーのこーらどっこいしょー キシャアアアア!!

 ぞわっと鳥肌が立つぐらい色気に満ちた声が、甘い毒のように脳を痺れさせる。慌てた私はその顔面を掴んで押し戻すように遠ざけた。


(なに言ってんのよ! 浮気も何も、あなたとそういう関係になった覚えはまったく無いんだけど!?)

(魔王が民を裏切り勇者の元へ行こうなど、浮気以外の何物でもありません)

(え、あぁ、そっち――)


 冗談だって、ちょっとぐらい夢を見させてくれたっていいじゃないと言いかけるのだけど、大げさな溜息をついたルカは私の手の下でもごもごと口を動かす。


(身も心も捧げてくれたと思っていたのに、まったく悪いヒトだ)

(バッ……紛らわしい言い方やめてよ、先輩に聞こえたらどうすんの! っていうか、そもそも人の考え勝手に読まないでくれる!?)

(あれだけ緩み切った顔で花を飛ばしていたらサルでもわかりますよ)

(サル!?)


 ググググと押し合いを繰り広げている内に他の人たちは行ってしまう。少し先からふしぎそうにこちらを振り返った勇者様が声を掛けてきた。


「どうかされたか?」


 グッと詰まった私は、実に面白そうな表情を浮かべる側近を視界に入れないようにして、小さく「なんでもありません」と答えたのだった。



 ***



「えんやさーのこーら」

「どっこいしょー」


 キシャアアアア!!


 歌に合わせてシャウトしたワームベームの合図で、土の中から一斉にミミズがモコモコと湧きあがり畑を耕し始める。


 村人とゴブリンたちが仲良くクワを振るう元へ、村の女の人たちが休憩用の冷えた水を運んでくる。そのすぐ横を、わーむ君が隣の畑へ移動する為「うねうね」とすり抜けていった。


 私たちはもう見慣れてしまったその光景を、勇者様はあっけにとられたように見つめ信じられないように口を開く。


「驚いた、本当に魔物と人とが共同作業をしているのか」

「わは、わはは、わーむ君でけーっ!!」


 涙を流しながら指さして笑うルシアン君をパコンと叩き、エリック様は険しい顔をしながら質問をしてくる。


「分配はどうなっている? 人間側が不当な労働を強いられているのではないか?」

「もちろん、みんな平等ですよ。あそこに居るわーむ君も、病気で全然働けない人も含め、国民全員が最低限お腹を満たせるだけの食料がいきわたるようにしてます」


 まだまだ赤字で、国のお金で食料買い足して補ってるんですけどね。と、苦笑しながら続ける。


 でも私の土チート魔法と、ドラゴンの糞のおかげもありメキメキ収穫量は上がってきている。通常の何倍ものスピードで畑のサイクルが回るので、このまま順調に行けばなんとか自分たちが食べる分くらいは確保できそうなのだ。謎の行商人ペロから手に入れた「マンドラゴルァ」も良い感じに成長してくれているし。


「あとは頑張れば頑張ってくれた分だけ分配をお給料って形で上乗せしてます。畑仕事ももちろん、関所の遊園地を作ってくれたスライム達もそうですし、あそこに居る自警団なんかは配給率が高いので参加してくれてる人は成長期の子供が居る大家族のお父さんなんかが多いですね」


 少し離れた平地でピシッと整列している自警団は、全員白と若草色のバンダナをどこかしらに着けていた。ウワサを聞きつけて流れてきたケットシ―やコボルトなどいろんな種族の魔物も混じっているけど、そのバンダナのおかげでふしぎと統一感は保たれている。


 だけどさすがは首都カイベルクで騎士団を束ねる勇者様、その急ごしらえさを即座に見破ったようだった。


「……言っては悪いが、全員あまり戦い慣れしているようには見えないな」

「えぇ、付け焼き刃の素人集団ですから。そちらが攻め込んできたらあっけなく負けると思います」


 不穏な仮定話に、軍事のトップである勇者様は少しだけ目を見開いてこちらを振り返る。私は少しだけ挑戦的な意味を含めてニッと笑ってみせた。


「でもそれでいいんです。だって彼らは国内の秩序を守る為の組織であって、『友好国であるメルスランド』さんと戦うための軍ではありませんから」


 戦う意思も力もないことをあえて示す。お恥ずかしながら、これが我が国の戦闘力すべてです。と続けると、しばらくして勇者様はフッと肩の力を抜いた。


「ハーツイーズ国の軍事力はこちらとしても最大の関心の一つだった。素直に打ち明けてくれてありがとう」


 この情報開示は諸刃の剣ではある。でも今のところ心象はいい感じだし、きっと大丈夫だ。


 それでも不安な気持ちが少しだけ表情に出てしまっていたらしい、エリック様はこちらを和ませるように晴れやかな声を出して見せた。


「彼らはいい目をしているな」

「え」

「まっすぐで、本当に国を想って集まってきて居るのが感じられる。さぞかし良い指導者が彼らを率いているんだろう」


 私の足元に居た赤い狼は黙ってその言葉を聞いている。でもわずかに尻尾がパタパタと揺れているのを私は見逃さなかった。ふふ、良かったね。



***



 ガイドツアーはそのままお城へと移動した。


 丘の上にそびえ立つ『暗闇の中でもがき苦しんで死ね勇者城』――もとい、ハーツイーズ城の外見を見た勇者一行は、その異様な配色に怪訝な顔をすることになる。


「いや、あのですね、黒のままだとイメージ悪いかと思って、上から白ペンキを塗ろうと思ったんですけど、思ったより量が足りなくて……」

手首です。なぜラスプ様が狼形態なのか疑問に思われた方もいるかもしれませんね、実はご主人様たっての希望なのです。威圧しても悪いから護衛は一人まで!と。まぁ、早い話が美形二人を侍らせてると思われたくなかったのかと…


ひと悶着あった末、結局今回の護衛を勝ち取ったのはルカ様でした。

大変でしたよ…部屋一つダメになりましたから…

それでも納得のいかないラスプ様でしたが、あのお姿ならと許可が降りたのです

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