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36.作戦会議(焼き肉を添えて)

 私の合図と共に、わーむ君がラスプめがけて突進する。すばやくその身体をからめとるとスリスリと懐くように頬ずり(?)をし始めた。


「やめ、やめろ! うわ気持ち悪ィ!!」

「あはは、尻尾切られたのに、わーむ君は寛大だなぁ~」

「斬れっつったのはお前だろーッッ!」


 うねうねと絡まれるライカンスロープにすっかりみんなの警戒は解けたようで、笑いがあちこちから湧き上がる。ラスプには悪いけど作戦成功だね!


 ***


 その後、なんとわーむ君に『大量にミミズを召喚できる』という特殊能力があることが判明し、彼は確固たる地位を獲得することに成功した。


 一番星が輝き始め、残りの幹部二人がやってきた時、彼らはド肝を抜かれたようにあんぐりと口を開けて立ち尽くすはめになった。


 なんせ、畑近くの広場が巨大なバーベキュー会場になっているし、その側では見たこともないような巨大なミミズが、ゴブリンと人の子供たちをその背に乗せて遊んであげている。


 色々ツッコミたいところはあるだろうけど、未だ少しだけ悪臭を放つ私とラスプを見て、まずはライムがシンプルに問いかけた。


「うわっ、どーしたの二人とも」

「聞くな……」

「あー、色々あってね」


 苦笑しながらステーキにかじりついた私を指差して、グリがゆるく笑う。


「あはは、肥溜めヒロイン」

「うるさいっ」


 笑う口めがけてお肉を突っ込んでやる。むぐむぐと咀嚼した彼はゴクンと飲み下したあと首を傾けた。


「なに、このお肉」

「えぇと……臨時収穫というか、部位破壊したというか」


 火を起こした上でぐ~るぐ~ると回し焼きされているピンク色の巨大な塊から目を背けつつ答える。世の中には知らないほうが幸せなこともあると思う。


 でも、んぐ、結構いけると思うのよね。噛み締めると旨味のある肉汁がじゅわっと。わーむ君には悪いけど、これからも定期的に――いえ、冗談です。


 非常食って名前でも良かったかな、なんて思いつつルカも呼びよせて(こやしまみれになって居ない彼は村の奥さんたちに囲まれていた)グリたちの報告を聞く事にする。


「国境辺りの地形を調べたけど、いい感じだよ!」


 大きめテーブルの上に地図を広げたライムが、嬉しそうに話し始める。その藍色の瞳はランタンの灯かりを反射してキラキラと輝いていた。


 地図には私が首都カイベルクに出かけた際、ワイバーンに掴まれて飛んだ時に見た景色とほぼ同じ物が描かれていた。


 私たちが今いるこの魔族領はメルスランドの領地から突き出た半島のようになっている。関東地方の地図を上下左右に反転させて、左上の千葉になっている部分が魔属領と言えば分かりやすいだろうか。


「南はふかーい森が広がってて、常識のある人ならまず通らないでしょ」

「そうかぁ? オレはたまに通るぞ」

「もーっ、ぷー兄ぃは普通じゃないのっ、話のジャマしないで!」


 ぷんすこ、と怒るライムは気を取り直すようにコホンと咳払いをした。綺麗な指を突き立て、半島と大陸を隔てている川を横断するかのようになぞる。


「だからあっちとこっちを行き来するには、このレーテ川を越えるしかないんだけど」

「私がワイバーンタクシーで越えたように?」


 あの時の朦朧とした意識下で見おろした川を思い出す。川というか、大河というか、とにかくものすごい幅が広くて結構流れも早かった気がする。


「そうそう、だけど飛べるのは翼のある魔族か、ルカ兄ぃみたいに風魔導の得意な人じゃないとムリでしょ? 川の流れが早くて普通の手漕ぎ船だったら押し流されちゃうし……つまりこの川はボクたちにとって天然のお堀なんだ」


 どうやらこの世界の交通機関はそこまで発達していないらしい。飛行船や軍艦に乗って勇者軍が空や海から押し寄せてくるって可能性は今のところ低いようだ。


「それにもし海側から回り込まれても、こっちから弓で狙い放題だしね」


 机に顎を乗せるというダレきったスタイルでグリが意見する。地の利はあるから、こっちから仕掛けようだなんて馬鹿な事しなければ実に防衛向きだと言える。いいじゃんいいじゃん! 侵略する気は無いわけだし。


 そこで地図を再度見下ろした私は、大河に中途半端に掛かっている橋の絵らしきものを見つけた。人間領に一番ぐっと近づいたところの近くに中途半端な橋が掛けられている。


「これって橋?」

「レーテ大橋ですね、一年ほど前、大雨で増水した際に半分以上流されてしまい、今は機能していないのですが」


 ルカの言葉にライムが身を乗り出すように机に手を突いた。


「そう、ここが一番橋がかけられやすいポイントなんだ。だからね、壊れた大橋の辺りを中心にして砦を立てちゃおう!」

「砦?」

「うん、みてみて。ざっくりだけど図面引いてきたんだ」


 ななめがけにしたポシェットから大判の紙を取り出したライムがそれを広げて地図の上に置く。黄色くガサガサした紙に描かれていた設計図は想像以上にしっかりしたものだった。


 砦として規模は(たぶん)そんなに大きくは無いのだけど、ちゃんと守るべき要点は抑えられていて、国境全体を見通す為に見張りの高い塔も付いている。


「すごい……これライムが考えたの?」

手首です。

あの…あのですね…地図をですね…描こうとして頑張った形跡があるんですけどね…

グランドマスター…(ほろり)

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