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34.Shall We Dance?

 その可能性に思い当たった私は、男の子と私の身体を覆うように薄く土のベールを魔導でかぶせる。そのまま匍匐前進でルカ達の元へとようやくたどり着いた。


「おっ、まえなぁぁ! 何一人で飛び出してるんだ!」

「ごめんなさい、気付いたら身体が勝手に……さぁ、君は早くあっちに!」


 男の子の背中を押して、離れた位置で涙を流して喜んでいる家族の方へと送り出す。それを見届けずに私は幹部二人へ向き直る。


「あのミミズ目が悪いみたい。土の下の生き物だし、たぶん音と匂いを頼りに敵を判別してるんじゃないかと思って」

「……で?」

「作戦があるの、二人にはそれを手伝って欲しいんだけど――」


 そこまで言った私は、ルカの冷えた眼差しとまともにかちあって固まる。空のような青い瞳が今だけは氷みたいに感じられた。


 ゴクリと息を呑むと、背中を冷たい汗が伝う。しばらくして低く抑えるような声が響いた。


「また言いつけを破り、魔導を勝手に使いましたね」

「それは、あの、緊急事態だったからであって……」


 じ、人命が掛かってたんだからしょうがないよね?ね? あの場でルカに「許可くださーい」「どうぞー」なんて悠長なこと言ってたらあのコは助けられなかったわけだし。


 どんなおしおきが来るかと身構えていると、ふっとルカはため息をついた。上着を脱いで首元を緩めるようにネクタイを引っ張る。


「ですが今回ばかりは目を離した私にも責任があります。わかりました、まったくもって乗り気ではありませんが、ご命令を」


 お決まりの薄く笑って首を傾けるという仕草に、私は思わず面食らって聞き返す。


「ホント? お咎めなし!?」

「作戦があるのでしょう? それにイメージ戦略的には大成功みたいですし」


 ルカが民たちの方へ顔を向ける。離れたところから「魔王様がんばれー!」だの「危なくなったらすぐ逃げてくださいね~!」だの声援が聞こえてきて少しだけ気恥ずかしくなる。


「あはは、そういうつもりじゃ無かったんだけど」

「さすがの天然人タラシ」

「タラシ?」


 誰が天然じゃいと反論しようとするけど、その前にラスプが割り込んでくる。


「早くしようぜ、アイツをブッ倒すんだろ? オレは何をすればいいんだ?」


 その言葉に、私はニマァと口の端をつり上げた。嫌な気配を察したのか、ラスプは一歩下がる。


「な、なんだ、気味悪ィ笑い方すんなよ」

「あのね、ルカがおとりで引きつけてる間に、本隊の私たちがこっそり回り込んで後ろから叩こうと思うんだけど」

「おう」

「音は気をつけていればどうにかなるけど、匂いを消さなくちゃいけないのね」


 そこでラスプはクンと辺りの匂いを……かぐわしくも偉大なるこやしの臭いを嗅ぐ。その顔から、面白いくらいにサァーっと血の気が引いていった。


「おまえ、まさか」

「だいじょうぶ! 私もちっちゃい頃に何度か落ちた事あるから!」

「何が大丈夫なんだ、ばか!やめろ! ぎゃあああ!!」


 ラスプの腕にガシッとしがみついた私は、そのまま引きずるように駆け出した。そして段差の下に止めてあった荷車へ――正確にはその上に乗せられていたドラゴンの肥溜め目掛けて二人でダイブした。


 ***


 村にある中で一番大きな剣を借りた私達は(すさまじい悪臭を放ちながら行ったせいで自然と人垣が割れた)作戦を開始した。


 まず最初に、少しだけ動きやすい格好になったルカが、まるで散歩でも行くかのように悠然とミミズの前まで歩いていく。


「さて参りましたね、私程度の実力であなたのダンスのお相手が務まりますかどうか」


 立ち止まって苦笑を浮かべる彼の頭に向かって、巨大ミミズは容赦なくヘッドバットをブチかます。だけど叩き付けたその先から吸血鬼の姿は消えていた。


「どうぞお手柔らかにお願い致します」


 いつの間にか、風をまといながらミミズの頭の上に乗っていたルカは、慇懃無礼なまでに大げさな一礼をしてみせた。



 すぐさま振り落とそうと暴れるミミズを遠目で見ながら、本隊である私達は大きく回りこむようにミミズの後ろ側へと向かった。だけどあまりにも鮮やかなルカの動きに、あまり音を立ててはいけないという事も忘れ、前を歩くラスプに小声で尋ねてしまう。


(すごい……吸血鬼って見えない羽でも生えてるの?)

(んなわけあるか、アイツが特別なんだよ)


 肥溜めに落ちた後、土の上で転がったせいで泥まみれになった背中が目に見えて肩を落とす。魔導コンプレックスのあるラスプは少しだけ忌々しそうに愚痴をこぼした。


(バンパイア族は元から魔力の高い魔物ではあるが、ルカほど自在に魔導を使いこなすヤツは見たことない。あぁ飛ぶのだって、普通はホウキやら何やらに風を付加させてそれで飛ぶのが当たり前なんだ、生身で飛ぶだなんて聞いたことねぇよ)


 まだこの世界に来て日の浅い私にはよく分かっていなかったけど、どうやら私の右腕はこの世界においてかなりの特異点らしい。


(それに引きかえ、こっちはウンコまみれで背後から奇襲だもんなぁ……)

(文句言わない! 私だって臭いの我慢してるんだから)


 とはいえ、狼とヒトの嗅覚では比べるのも可哀想な話だ。鼻が曲がる~!と、転げまわってたさっきの姿を思い出して口元がむずむずしてしまう。ふふ、隊列が後ろでよかった。


 そんな事をしている間にも、私たちは巨大ミミズの後ろ側へ回りこんでいた。思ったとおり、ミミズは今も挑発するように飛び回るルカに躍起になっていてこちらには気付いても居ない。よぉーっし!


(しくじるなよ)

(わかってるってぇ!)

手首です。前回の質問回答の続き行きますわね。

ラスプ様はあまり服に頓着がないようで、ほとんど黒一色ですわね。ライム様は空色が好きだとおっしゃっていました。グリ様にお尋ねしたら「んー、ドドメ色」と…ドドメ色ってどんな色でしたっけ?

あら? フルアーマーさんが呼んでいるようです。施設が稼働できる状態になったのかしら。ちょっと行って参りますね。

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