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31.基礎から始める土づくり講座

 麗らかな太陽!


 心地よい風!


 そして枯れ果てた大地!


 ドン!と効果音が付きそうなほど広い畑を前にして、私は途方に暮れながらポッソポソの土を触って確かめていた。



 ここは下の村にある畑の一角。ネクロマンシーをした墓場とは反対方向にあるこの場所は、昨日ゴブリンたちが手伝ってくれた甲斐があり、耕されて今すぐにでも作物を植えられる状態になっていた。


 だけど現場につくなり私は違和感に包まれることになる。しばらくしてその理由に思い当たる、土の匂いが全然しないのだ。普通これだけ掘り起こせばむせかえるような豊かな土の匂いがすぐにでも鼻いっぱいに広がるのが普通なのに、わずかに湿ったような匂いしかしない。


「なにこれ……信じられないくらい悪い」


 先ほどから手にとって確かめているのだけど、カッチカチに固いし、塊が割れても砂状になってサラサラと手から零れ落ちていく。良い土ならもっと黒色に近くて適度な湿り気があって、触るとふかふかしてる物なんだけど……


「主様はこういった事に詳しいので?」


 今日も執事のようなピシッとした格好のルカが隣から声をかけてくる。畑に来るから汚れても良い服装でっていったのに。働かない気満々だな貴様。


 でもクワ振るってるルカは想像つかないなー、と思いつつも、私は立ち上がって下穿きの汚れを払う。


「まぁね、実家はニンジンとか出荷してる農家だったし、ちっちゃい頃から手伝わされてたから少しは分かるんだけど」


 予想してたよりも遥かにひどかった。えーと、死んだ土地を再生するにはどうしたら良いっておじいちゃん言ってたっけ?


 職人気質で頑固なおじいちゃん。厳しくも優しくて、口ベタだけどいつも私のことを考えてくれて、悪い事をした時はきちんと叱って「何がいけないのか」を根気よく教えてくれた。


 あ、ダメだ。何か思い出したらホームシックに掛かってきた。元気かなぁ、今日も乾布摩擦してるのかなぁ。


「……」

「おいどうした、気分でも悪いのか?」


 ひょいと覗き込む存在に現実へと引き戻され、そしてその姿にブハッと吹きだしてしまう。


「お前なぁぁ、自分でかぶせといて何度笑うつもりだ」

「だって、だって、似合いすぎてるんだもん」


 ケラケラと笑う私の視線の先には、麦わら帽をかぶってクワを担いだラスプが居た。どうみても田舎の道端で農作業してそうな兄ちゃんに、警備隊長の面影はない。


「あはっ、あはは、村とか開拓してそう! 無人島とか!」

「はぁ?」


 なんのこっちゃと顔を歪める彼は放っておいて、私は後ろで控えていた村人たちに明るく問いかけた。


「フンってある? 家畜のでいいから」

「え……フンとは、排泄物のことですか?」

「そう」


 こうなったら土壌作りから始めるしかない。となればまずは栄養を鋤きこまないと。


 家だと鶏糞なんかを撒いてたけど、それに近いものがあればいいんだけどな。


「家畜は数えるほどしか居ないのですが――あ、そうだ。あれがあります」




 しばらくして運ばれてきた大きな桶には、プンプン臭うブツがたっぷりと入っていた。うっ、かぐわしい……


「時おり村に落ちてくるドラゴンのフンです」

「ドラゴン!?」


 予想外の生き物の落し物に面食らう。確かにフンには違いないけど、でも、農作物に影響は出るだろうか……え、えぇい! 物は試しだ、やってしまえ!


「後は落ち葉とか枯れ草とか藁なんかも一緒に漉き込んじゃっていいかな。発酵させるため終わったら上からシート、布とかでもいいから被せておいて」


 みんなが指示通りに動いてくれたおかげで、さほど時間をおかずに作業は完了した。これで来年辺りから少しはマシな土壌になってればいいんだけど


「こんな感じで、残りの開墾した畑もどんどん肥料をまいちゃって。少しは改善されると思うから」


 はーい、と村人とゴブリンたちが仲良く返事をする。だけどなぁ、先を見越してやるのはいいけど、これじゃすぐの解決にはならないんだ。


 やっぱりあのポソポソ野菜でガマンするしかないのかとため息をついた時、目の前の土に何かが光ったような気がした。


「ん?」


 じぃっと目をこらすと、次第にあちこちに点在するよう光が現れだす。それは緑だったり黄色だったり、丸だったり四角だったり三角だったり……とにかく色んな形状の光がぼやぁと現れだした。


「ねぇ、ルカ。何これ?」


 側に居た側近の肘を掴んで謎の光の正体を聞いてみる。ところが彼にはその光が見えないらしい。推測なのですが――と前置きをしてから口を開いた。


「おそらく、土の『マナ』ではないかと」

「マナ? もしかして土属性だから私にだけ見えてるの?」


 えぇ、と頷いたルカは指をピッと立てるとかき回すように指を回しだした。


「たとえば、今この時にも、私には空気中に緑がかった光のマナが見えています。これらを魔石を通して取り込むことで魔導を発動させています。主様も魔石を所持したので見えるようになったのでは」


 指に沿うようにして小さく空気が渦巻きだす。そっか、魔石の影響だったんだ。


 でもなー土属性だからなー、大した事できないんだろうなー。なんてぼんやりしながら、堆肥を混ぜ終えたばかりの土を見下ろす。


 ドラゴンの糞にも微かに光があって、三角形のそれが地面の方へググッと移動して四角と混ざり合って丸になる。それはじれったくなるぐらいにゆっくりで、自然の摂理ではあるのだけどもどかしくなってしまう。


(もうちょっと早くならないかな)


 早く混ざれーと念じたその時、ほんの少しだけスピードが上がった気がした。


「え」


 まさかと思い、両手をかざしてぎゅっと握り、グググ~っと動かすようなイメージをしてみる。お、おおお!?


「なに踊ってんだ、アホみたいだぞ」

「主様、みっともない動きはおやめください。民が見ていますよ」


 横から茶々が入るけど無視する。続けていくとマナの光は全て暖かみのあるオレンジ色の丸に変化した。


 しゃがんでその土を触った私は目を見開いた。こっ、これは……!!


 ブルブルと震えていた背中を不審に思ったのだろう、臣下二人が両脇から覗き込んでくる。だけど私は持っていた土を跳ね上げるように万歳した。





「ぃやったあああ!! 土属性チート来たああああ!!」

手首です。グランドマスター紗雪のお部屋に紅茶をお持ちしましたら、床にメモが落ちていましたの。鉄腕DAS…とか、窒素リン酸カリとか…何かの暗号かしら?

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