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ルート分岐1/ルカ

※幕間的な位置付けです

※時間軸は本編より少しだけ先ですが、ネタバレ等はないので無問題

※割とルカがゲスい

※ちょっとだけ背後注意

 ハーツイーズ国を樹立してちょっとだけ経ち、体制を整えるためバタバタしていたのも少しだけ落ち着いてきた今日この頃。私はめずらしく予定のない午後を迎えていた。エントランスホールで「んん~っ」と伸びをしながら、ここ数日ですっかり酷使してしまった身体をほぐすようにあっちこっちグルグルと回す。


(どうしよう、予定してた事が急にキャンセルになっちゃったから暇なんだよね。誰かのところに顔でも出してみようかな?)


 そう考えた私は三階まで上がり、誰か居ないかと幹部たちの部屋を片っ端から覗いていく。


「あ」


 最後にあけた執務室。うず高く積もれた書類の束の向こうで、もうすっかり見慣れてしまった金髪が見え隠れしていた。


「主様ですか?」


 声で気付いたんだろう。書類で出来たタワーの隙間から顔を覗かせたルカはスクエア型の眼鏡をかけていた。それを外すと疲れたように目を押さえてまた掛けなおす。この世界に眼鏡ってあったんだ。


「何か御用でも?」

「ううん、そうじゃないんだけど時間が空いたから、みんな何してるかなーって」


 そう言いながら近寄ると、机の上で広大に広げられた書類が見えてくる。細かい数字の羅列にうっと少しだけ後ずさりしてしまう。


「建国時のデータをまとめている最中です」

「ふーん、それって大事なことなの?」


 ルカの事だしムダな作業はしないとは思うんだけど、それほど重要なのかと首を傾げる。彼は乱雑に走り書きされた一枚を手にデータの重要さを説いてくれた。


「主様にもわかるように説明しますと、スタートの状態を記録しておくというのは非常に有用な事なんですよ。例えば半年後、下の村の住人が千五百人になったとします」

「ピンとこない……千五百人ってどのくらい?」

「そうなるでしょう? 千五百人は意外と少なくて村落から小さな町程度の人口なのですが――まぁ今はそれはどうでもいいです。重要なのは、ここで初期値が三百人いたというデータさえあれば『わずか半年で国民数が五倍に!』という宣伝文句が使えるわけですよ」

「おぉ~! すごく発展してるっぽい!」


 そっか、単に「千五百人突破」と広告を打つより、その横に「人口増加五倍!」って足しておけばイメージ的にプラスだよね。


「なので、集めたデータをまとめているところなんですが……こうゼロからの状態だと面積やら収穫量やら膨大すぎて……ヒマなら手伝って下さいよ」


 渋い顔したルカにジト目を向けられてギクリとする。あ、あー、えーと、元いた世界でも経理とか数学はちょーっと苦手だったり、したなぁ。借方? 貸方? なにそれおいしいの?


「あ、あはは。あっ、これなに?」


 話を逸らそうと部屋の中に視線を走らせた私は、暖炉の側に飾ってあった剣に駆け寄った。両手を広げたぐらいある大きな物で、持ち手の部分には暗黒城おなじみの禍々しい装飾がほどこされている。飾りにしてはよく出来てるなぁ、と中指を滑らせた瞬間、鋭い痛みが走った。


「っ!」

「主様!」


 見れば指先が少しだけ切れていて、僅かに血が滲みだしていた。いっ、いたぁぁぁぁあ!!


「あぁもう、何をやってるんですか、この部屋にあるのは全て本物ですから気を付けて下さいよ」

「し、知らない、先に言ってよぉ~」


 びええと泣きながらも止血するため清潔な布を探す。あ、そうだ手首ちゃんがくれたハンカチがある。ポケットから取り出した布を指先に当てていると、ふと妙な視線を感じた。見ればルカが眼鏡の奥から物欲しそうなまなざしを向けている。


「……」

「……な、なに?」


 傷口を隠すようにサッと身体をひねると、机を回り込んできた彼がすぐ目の前に立つ。血がにじんで赤く染まり始めている白いハンカチから視線を外さず静かに口を開いた。


「頂いても?」

「!?」


 引きつり笑顔のまま顔がこわばるのを感じる。頂くって、何を? いや予想は着くけど、いや、でも……


 固まっていると、ごく自然な動作でケガをした右手を持ち上げられる。ハンカチを外されて、傷口からあふれた真っ赤な血が紅い珠をつくる。


「だ、だめっ! 汚いよ! このまま押さえてれば止まるからっ」

「お忘れのようですが、私はバンパイアですよ? 主様は美味しいゴハンを目の前で廃棄されても平気なのですか?」


 急な例えに二、三度目を瞬く。目の前で?


「例えばこのテーブルいっぱいに、よだれが垂れそうなほど美味しそうなご馳走が並べられているとします」

「ご馳走」


 ぽやぁと幻覚が現れる。七面鳥の丸焼きに色とりどりのオードブル、目にも楽しいババロアやムースなどのドルチェ、種類豊富なフレッシュジュース――


「全て私が生ゴミとして廃棄します」

「あぁぁっ!?」


 それらのご馳走を笑顔のルカがずさぁぁーとビニール袋に入れて窓からポイと投げ捨てる。幻覚とは言え、あんまりな仕打ちに精神的ダメージを負った私は目の前の男につかみかかって抗議した。


「ひどい、なんでそんなことするのっ」

「主様は今、そういう事をしようとしているのですよ?」


 しれっとした切り返しに何も言えなくなってしまう。そ、そうなのか、そんな非道な事を私はしてるのか……


「それに吸血鬼の唾液には簡単な傷をふさぐ効果もあります、よろしいですね?」

「う、うぅ……」


 ここまで押し切られてしまうと拒否しづらい。私はおそるおそる指を彼の前に差し出した。


「じゃあ、血が止まるまでなら、いいよ」


 ニコッと笑ったルカが優しく手を引き寄せる。スッと目を開くと見せつけるかのようにゆっくりと傷口に舌を這わせ始めた。


「っ――」


 中指の真ん中辺りから先端に向かって、ツゥとなぞり上げられる。ルカの唾液と私の真っ赤な血が混ざり、零れ落ちそうになる寸前ですくい取られる。な、なんだろう、今さらだけど、物凄いイケない事をしているような。


「……んっ」


 左手で口を押さえるのだけど、指先を丹念に舐められ意思とは関係なく声が漏れ出てしまう。そういえば指って、他より神経が集中しているから余計に敏感になるって聞いたことがあるような無いような。必死になって意識を逸らそうとしていたのに、先端を舐めていた舌が付け根の又にまで降りてきて小さな悲鳴をあげてしまう。


「ちょっ、そこは関係ないでしょっ」


 注意してもルカはどこかうっとりとしたまなざしで舐め続けてくる。わざとらしく音を立てては往復するようになぞり上げる。何度も、何度も


「~~~っ!!」


 だ、だめ、これ以上はダメな気がするっ! 色んな意味で!!


「いい加減に――あっ!?」


 押し返そうとしたその時、中指と薬指をぱくりと咥え込まれて息を呑む。生ぬるくて軟らかい舌が傷口をえぐるようにグリグリと突き込んでくる。


「やっ、痛……痛いってっ! ひぅっ」


 どんなに逃れようとしても手首をがっちりと掴まれて引くことができない。少しだけ甘い痛みはジリジリと頭の後ろを焦がすようで、痛みと気持ちよさの境が曖昧になっていく。


 はぁっ、と熱い吐息が指先に掛かりルカが一度口を離す。その頃にはすっかり錯乱してしまって、なんだかよく分からない熱で浮かされた視界が滲み出していた。


「……なんて顔をしているんですか」


 少しだけ苦しげに眉根を寄せたルカの口の端から、血液まじりの唾液が零れ落ちる。それを見てゾクゾクと背筋を何かが走り抜けた。わたし、いまどんな顔してる? そんなのわかんないけど、でも


「お願い……も、ゆるして、それ以上入れたら、痛い……からぁっ」


 震える声で懇願すると同時に、目の端から生理的な涙が零れ落ちる。ふいに真顔になったルカがピタリと静止する。え? と、思った次の瞬間、視界がぐるりと反転した。


「?? ???」


 ばふっと背中を柔らかいクッションに受け止められる。すぐ真上では真剣な顔をしたルカが覆いかぶさるようにこちらを見下ろしていて――


「すみません、欲情しました」


 神妙な顔つきで言い放った一言が右から左へ一度通過する。よく、じょう?


「なぁーっ!?」


 一瞬で頭が沸騰する。なのにこの男は良い笑顔を浮かべながら私のブラウスのボタンをプチプチと外して行く。ま、待ったぁぁー!


「いいじゃありませんか、午後はヒマなんでしょう?」

「ふざけないで! いいわけないでしょっ」


 一気に我に返り、慌ててその手を掴んで止めると、今度は不思議そうな顔を浮かべながら彼はこう言った。


「何か不都合でも?」

「不都合しかないわよっ!! どうしてこういう流れになるわけ!?」

「主様がいけないんですよ、煽るから」

「私がいつ煽ったって――」


 まったく身に覚えのない謂れに憤慨するのだけど、涼しい顔をしたバンパイアは人差し指を立ててニッコリ笑う。


「知りませんか? ストレス解消にはもってこいなんですよ、セッ――」

「知らないし! だったら別の人でもいいでしょ!!」


 皆まで言わせるかと被せるように叫ぶ。ルカぐらい顔立ちが整ってるならいくらでも相手は見つかるはずだ。むしろ希望者が殺到するに違いない。そう抗議すると、まとう雰囲気を急に変えた彼は、目を細めたかと思うとスッとこちらの頬に手を添えた。


「わかりませんか? 私は他の誰でもない『貴女』を望んでいるのですよ」

「だって、なんで……」


 心臓が暴れ出し、しどろもどろになりながらも目が離せなくなる。あぁまただ、その綺麗な顔に見とれてしまっている。だめ、だめだって、だって私、まだ――それに、そういうのは本当に好きな人としかしちゃいけないんだってば!! 頭では必死に叫んでいるのに、ドクドクと耳鳴りが凄くて思考が声になって出てこない。


(あ、まさか――)


 そうだよ、こんなにドキドキしてるなんて普通じゃない。きっとあのヘンな技を使ってるに決まってる。押さえつけられている手をグッと握り込みながら、私はにらみつけるように言った。


「み、魅了の術つかったら、絶交って言った……」

「使っていませんよ?」


 しれっと言われて目が点になる。う、うそ、それじゃあ。クスッと笑ったルカは襟元を緩めながら微笑んだ。


「つまり、少しはこの状況に感じて下さっていると言う事ですか? 光栄です」


 墓穴を掘った私はボーゼンとしながらその笑顔を見つめる。追い討ちとばかりに耳の下辺りにキスを落とされ、すぐ側で低く囁かれた。



「主人の夜伽は配下の務め、一緒にきもちよくなりませんか? 主様……」



 流れるような声が耳から入り、脳髄を直接撫で上げられたかのような感覚が走る。ブラウスの裾からひやりと冷たい手が入って来た瞬間、ハッと我に返った。


「や、やっぱり無理ぃー!! わたっ、わたしには立谷せんぱいがあああ!!」

「!」


 ルカの襟元をグッと掴み、不安定な体勢を崩すようにソファから雪崩れ落ちる。これまでとは逆に馬乗りになった私は、彼を説得するかのごとく服を掴んでブンブンと揺さぶる。


「主人とか配下とかそういうのじゃなくて! こういうのって気持ちの繋がりが大切でしょ! だから――」

「おや?」


 組み伏せられたルカが喉元をさらすように首を上に向ける。その視線の先、入り口の扉で立ち止まるブーツが見えた私は言葉を止めた。おそるおそる視線をあげると、そこには銀のお盆にサンドイッチを乗せた赤毛の青年が固まっていて――


「……」

「……」


 そこで冷静になって今の状況を考える。ルカの上に馬乗りになっている私。しかも両方とも服がだいぶ乱れている。これを見てナニをしてるかだなんて連想してしまうのは容易いはずで


「じゃ、邪魔して、悪かった、な」


 ぎこちない動きで反転したラスプは、ギクシャクと出ていく。あ、あああああああ!?


「待って誤解! 違うの!!」

「主様……」

「いい加減離してよ、このエロバンパイアーッ!!」

※このあと滅茶苦茶弁解した。

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