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27.一緒に燃やす? 楽しいよ

 そう尋ねると、彼女はふよふよと魔法でどこからか荷物を飛ばしてくる。白い便箋と、羽根ペン、インク壷と――肝心の印鑑だ。


「よしよし、それじゃあ今から私が言う事を代筆してくれる?」


 手近な空き部屋に移動した私は、目を閉じて『ある人物』に宛てた文章を口頭で述べていく。それを手首ちゃんは美しい字で書き綴っていった。


「――と、まぁ。こんな感じかな。悪いけどこれを二十枚くらい複写して、魔王印を押して欲しいんだけど」

「魔法の方が早いよ、貸して」


 出来上がった手紙をひょいと取り上げたグリが、文章に目を走らせながら指先を微妙に動かし始める。


 すると、机にずらっと並べられた残りの紙達が一斉にジジジ……と、燻り出した。しばらくすると真っ白な平面に黒い字が浮き上がり始める。


「おぉぉー、すごい!」

「燃やさずに絶妙な加減で紙の表面だけを焦がすとは、さすがですね」

「学生時代、呪文の書き取りでラクしたくて編み出した技だったり」


 死神の学校……あるんだ。


 そんな妙技の誕生秘話を聞きながら、続いて魔王のハンコを押していく。本物かどうかは知らないけど、それっぽいからOKだ。


「ぺったん!」


 ライムが勢いよくハンコを叩きつけると、ドゴォ!と音をたてて下の机ごと割れた。オオオオイ!!




 十分後、てんやわんや有りながらも何とか二十通の手紙が完成。白い封筒に入れて封蝋で蓋をしたそれを、ルカの使い魔コウモリたちに一通ずつ持たせて、窓から飛び立っていくのを見送る。


「上手く行くでしょうか?」

「一人でも引っかかってくれれば大成功なんだけど――まぁ反応がなかったときは、また別の手を考えるから大丈夫だよ」


 んーっと伸びをしていた私は、ふと思いついて振り返る。ラスプの尻尾の毛をバレないように一本ずつ焦がして遊んでいた死神は、視線に気付いたのかこちらに向き直った。


「一緒に燃やす? 楽しいよ」

「えっ、あ!? てめぇ何してんだっ」

「違う違う、そうじゃなくて……魔法ってホント便利なのね。ルカも使ってたけど、もしかして私にも使えたりする?」


 もし私にも魔法が使えるなら色んな選択肢が広がる。自分の身を自分で守れるようになれば護衛も要らないわけだし。


 ふっふっふ、分かってる分かってる。こういう異世界トリップとか転生者って言うのは、たいていチートな魔力を持ってたりするのが『お約束』なわけだし。さぁ、私もいざ覚醒!


 期待に満ち満ちた表情を見ていたグリは、立ち上がるとコートの裾を払いながら答えてくれた。


「魔導かー、まぁ、適合すれば」

「適合?」


 説明を待っていると、レターセットを片付けていたルカがその会話を聞きつけ何やら良い笑顔を浮かべる。あ、またその笑顔。何か嫌な予感。


「そうですね、ちょうど良い機会ですし主様の装備を取りにいきましょうか」


 ***


 警戒しながらも案内された先は、エントランスホール一階に掛けられていた大きな一枚の絵画の前だった。


 一番背が高いグリと同じくらい高いキャンバスには、暗い色調で描かれた青いドラゴンがこちらに向かって威嚇するように口を開けている。


 ルカがその前に立ち、複雑な指の動きで表面をなぞる。すると絵画が指の動きをトレースするかのように光りだした。ある程度描いたところでいきなりカッと絵画全体が光を放つ。


「わっ!」


 その余りの眩しさに顔を覆っていると『ガチャリ』という音が響いた。おそるおそる目を開けると光はゆっくりと収束していくところで、ルカが額の縁に手をかけ引き込むと少しだけきしむような音を立てて隠し通路が出現した。


「こんな仕掛けだらけの城を警備しろっていう方が無理だろ……」


 ラスプがどこか遠い目をしながら先陣を切る。私はライムと手を繋ぎながらゆっくりとその後を追った。あとの二人も後ろからついてくる。


 通路は薄暗く、向こうから人が来たらようやくすれ違えるほどの狭さだ。魔法のセンサーでもあるのか、歩くたびに少し先のランプがほわっと灯る。


 コツコツと人数分の足音が響く中、私は先ほど聞いた話を確認するように繰り返した。


「アキュイラ様の魔石を取りに行けば、私も魔法が使えるようになるのね?」


 この世界における魔法とは、媒介になる『魔石』を通して空気中にただようマナを取り込み、己の中にある魔力と練り合わせて発動させる事を言うのだそうだ。


 魔石は肌身離さず身につけていられるようアクセサリーに加工されているのが一般的で、グリの鎌みたいに武器に取り付けている人も居るらしい。今から取りに行こうとしてるのはアキュイラ様が使ってたっていう魔石なんだとか。


「えぇ、主様が六属性――『火・水・風・土・闇・聖』の内、適性がある物を使いこなせるようになるはずです」

「やっぱり闇属性に特化かなー?」


 無邪気に笑顔を向けてくるライムの言葉に気が重くなる。まぁ魔王って言ってたし、アキュイラ様もバンバン闇属性使いこなしてたっていうし、十中八九そうなんだろうな……。


 でもなぁぁ、どうせなら聖属性がいいよね。こう、聖女様!みたいな?


「そういえば皆は何属性が得意なの?」


 ふと思い立ち尋ねると、前を歩くラスプの尻尾がビクッと跳ねた。あっ……


「俺、死神だし炎~」

「私は風を中心に満遍なく使えます」

「ボクも風! でも応用の雷の方が得意かなっ、バチバチーって」

「……」


 足りない。一人足りない。これは触れちゃいけない地雷だったか。


 さりげなく話題を変えようとしたその時、吹っ切れたように彼が振り返った。


「あーそうだよ! 魔導のマの字も使えねぇ犬っころで悪かったな!」

こんにちは、手首です。何枚も複写する手間が省けて助かりましたわ…腱鞘炎になってしまってはご主人様のお世話ができませんもの。

それにしても、あの手紙の内容…うぅん、一介のメイドの身で意見するのもおこがましいのですが、『彼ら』を呼び寄せてしまって大丈夫なのでしょうか…悪意のある人が来てしまったら…。

ハッ、いけないいけない。わたくしの仕事はおもてなしをすること!今からでも紅茶とお菓子の組み合わせを考えておかなくては

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