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26.版権的な意味で

 その一言でサッと緊張が走る。ルカが私をかばうように前に出て、ラスプが穴の側に踏み出した。


 彼はグリに頼んで魔法の炎を穴の真上まで移動させる。すると穴の中を覗き込んだ途端、拍子抜けしたように肩の力を抜いた。


「なんだよ、ネズミじゃねーか」


 えっ、と思って私も近寄ると――穴の底には中身の無い鎧のパーツがいくつか散乱していて、兜に乗った小さなハツカネズミがガラス玉みたいな目をこちらに向けて鼻をヒクヒクさせていた。チュウと可愛らしく鳴く姿に一気に脱力してしまう。


「な~んだ、ネズミかぁ」


 そうか、きっとあの小さな動力君が鎧の中に入り込んでカタッと動いたんだろう。だよね~、常識的に考えて鎧が動くだなんてそんなバカな話――



『そこのお嬢さん、すまぬが我が輩を引き上げてくれないだろうか』



 突然、朗々と響いた良い声に、ぐほぁ!と、女子力の欠片もない声が口から出てしまう。な、な、な、なんですって?


 細かく震えながらもう一度穴の底を見ると、鎧の手甲部分がブンブンとこちらに向かって手を振って居うわあああああ!!!


「リビングアーマー? そんなモンがこの城に居たのか」

「変形する!? がしょーんがしょーんって!!」


 腰を抜かしてヘタリと座り込む私をよそに、ラスプとライムは物珍しそうに彼(?)を見下ろす――って、手首ちゃんの時と同じパターンだこれ。



 とりあえず助けを求められたからには。と、いうことで引き上げ作業をすること十分。私たちの前にはバラバラに分かれた鎧のパーツがまとめられていた。


『かたじけない、あの穴の底から一生出れぬと覚悟していたところだ。いや、我が輩すでに死んでいたか、ハハハ』


 どうなってるのこれ、どう見ても中身カラッポなんだけど……?

 鎌の柄でツンツンとつついていたグリが、あー、と合点がいったように頷く。


「わかった。これ『憐れなる踏み台』だよ」

「踏み台?」


 彼はそのまま鎌を置いて膝立ちになり、鎧さんのパーツを次々に組み立てていく。胴体、脚、両腕、兜……仕上げにハツカネズミを頭のてっぺんにちょんと乗せる。


「普通人が死ぬと、死神が魂を肉体から切り離しにやってくるんだけど、たまーに新米死神の中にドへたくそな奴が居てさ、上手く切り離せないで何度もスラッシュしてる内に魂がちれぢれになっちゃうの」

「で、回収しないの?」

「証拠隠滅で放置が多いみたい」

「ずさんだなぁ」


 日本だったら信用問題だと思いながら、完成した鎧さんの前に立ってみる。自分の身体のあちこちを眺め回して驚いているみたいだ。表情は見えないけど、雰囲気で。


『おぉ! 引き上げてくれただけでなく繋げてくれるとは! なんとお礼を申したら良いのか』

「とりあえず魂を仮止めしておいたから、強い衝撃を与えなければくっついてるはずだよ」

「どーん!」


 イタズラ顔で突っ込んできたライムが鎧さんめがけてタックルする。ガラガラガラとすさまじい音を立ててアーマーは再びバラバラになってしまった。


「アハハハハおもしろーい! ほら、またピタッとくっつくよ、パズルみたい!」

『こらこら、我が輩で遊ぶのはやめてくれないか少年』


 頭の部分に右腕をつけられてしまった鎧さんだけど、まんざらでもなさそう。ずーっと長い間、穴の底で一人だったから寂しかったのかもしれない。


(今からでも成仏させてあげることって出来ないの?)


 こそっとグリに尋ねると、彼は少しだけ考えた後、首を横に振った。


(だいぶ癒着してる。よっぽど生前あの鎧に強い思い入れがあったんじゃない? ほとんど地縛霊……いや、鎧縛霊になってるかな)

(主様、勧誘しましょう。貴重なコストの掛からない人材ですよ)


 すかさずルカが良い笑顔で耳打ちしてくる。まったく、この人は抜け目が無いというか……。


(でもさ、ここで死んでたってことは勇者のお仲間だったわけでしょ? そう簡単に魔王サイドに協力してくれるかな)


 それを聞いたルカは鎧さんに(というか、身体はライムのオモチャになってるので、少し離れた位置に単体で落ちている兜に)問いかけた。


「つかぬ事をお伺いしますが、生前の記憶は?」

『それがどうにも曖昧でな、どうやって死んだかも覚えておらぬ』

「主様!問題ありません」


 いいのか、それで。


 呆れながらも二、三言葉を交わすと、意外と鎧さんも前向きなことが判明した。彼はようやくライムから解放され、自分の頭を拾い上げカチャリと身体にはめ込む。


『暗い闇の底から助け出して頂いた恩義に報いるため、我が輩騎士の名にかけて尽力しようではないか』


 こうして見るとかなり大きいなぁ、城門の前とかに居てくれたら迫力出そう――あ、でも、待って。


 そこまで考えた私は、トラップ部屋を見回しながら閃いてしまった。

 そうだ!この部屋をあぁしてこうして……よし!


「鎧さん、お名前は?」

『それも喪失してしまった。便宜上困ることもあろう、名を授けてくれぬか』


 え、国の名前に引き続き、また名づけイベント? センスが問われるから嫌なんだけど


「えっと、じゃあ………………アルフォンス……」

「アル?」

「じゃなくて! 固有名はやめよう! 下手につけるのは思い出す妨げになっちゃうからね! 手首ちゃん方式で行こう、フルアーマーさんで!」


 あ、あぶないあぶない、何がとは言わないが危なかった。……版権的な意味で。



 その後、鎧さん改めフルアーマーさんに、このトラップ部屋の改装を頼むと快く引き受けてくれた。彼は胸をガシンと叩いて大きく頷く。


『承知した。しかし面白いことを思いつくものだな、魔王殿は』


 ***


 早速作業に取り掛かるという彼を残し、私たちは部屋から出る。

 っと、そうだ。やらなきゃいけない『次の手』を忘れてた。


「手首ちゃーん!」


 大きな声で呼ぶと、どこからともなく手首がシュタッと落ちてくる。忍者かキミは。


「頼んでたもの、見つかった?」

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