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25.五本でも十本でも持って来い

 そうなんだよね、日本社会の仕組みってよく出来てる。まぁ何百年と頭の良い人たちが考えてきた事だからすごいのは当たり前なんだけど。あと真似できそうな公共施設ってなんだろう? すぐには無理だろうけど学校とか警察とか。うん、構想だけはまとめておこう。


 そんな事を考えながらも手を動かしていると、ルカがヒョイと顔を出した。埃とクモの巣だらけの私たちを見て一瞬「うげっ」って顔をしたのだけど、すぐに取り繕って微笑む。


「主様、偵察に出していた使い魔が戻って来ました。今日も勇者軍に動きは無いようです」


 その肩に小さなコウモリが一匹とまって羽ばたく。なんでもコウモリはバンパイアの眷属であるらしく、命令一つで彼の目となり耳となり働いてくれるのだそうだ。可愛らしく指に顔をこすりつける使い魔を撫でてやっていたルカは、さらに安心できる情報を追加してくれる。


「念のため、魔導研究所や王城にも忍び込ませましたが、『魔族を一網打尽に根絶やしにする』方法はまだまだ現実的ではないようですね。しばらくはこちらに睨みを効かせつつ静観と言った様子です」

「ありがとう、それなら次の手が打てるかな」


 次の手? と、疑問符を浮かべるラスプに説明しようとした時だった、ライムが元気よく飛び込んで抱きついてくる。


「アキラ様ーっ! すごそうな場所みつけたよっ、きてきて!」

「うわっ!?」


 急かされるままに部屋を出てエントランスホールを抜ける。ガレキの散らばる長い回廊を押されながら駆け抜けたその突き当たり、大扉が見えてきた。初めて来るところだ。


「こんな部屋あったか?」

「さぁ?」


 あのねぇキミたち……仮にも私より先住民のはずなんだからお城の経路くらい把握しておいてよ。


 首を傾げるルカとラスプを背中に、私はその古めかしいドアノブを見つめる。なんだか腐食していて緑色の錆びが浮いてる、開けようとしたら呪われるとか……ありうる。適当に言いくるめて誰かに開けてもらおうと一歩引いた瞬間、閉まった扉からニュッと白い死神が出てきた。


「ぎゃあ!」

「あれ、来たんだ」

「グリ兄ぃー、中どうだった?」


 のけぞる私のすぐ脇からワクワクと顔を輝かせたライムが出てくる。グリは扉から全部出るとトッと廊下に足を付けた。


「あー、うん、見てもらったほうが早いかな。中からカギ開けたから普通に入れるよ」


 そう言ってドアノブに手をかけ、扉をこちら側に引き込む。ギィィィ!と凄まじい音が響き、もわっと篭もった空気が流れ出てきた。少しだけねばつくような気配に鳥肌が立つ。なに、この、嫌な気配。


 みんなに挟まれながらおっかなびっくり進んでいくと、中はどうやら薄暗い広いホールのようになっているみたいだった。足音がやけに反響してるところからするとタイル貼りの部屋なんだろうか。グリが魔法の炎をポッと灯してくれる。薄ぼんやりと見えてきた光景に私は目を見開いた。


「穴……?」


 その空間は学校の体育館ほどの広さで、あちこちに落とし穴のように深い四角い穴がいくつも空いていた。そーっと覗き込んでみると、底にはさび付いてしまった槍がいくつも上向きにズラリと並んでいる。あの底に見える白いの……もしかして骨!?


「トラップ部屋として使ってたみたい。一番奥にいかにもそれっぽい宝玉が見えるでしょ? あれを目指した勇者パーティはこの穴で串刺しになり、あっちの水責めで溺れ死ぬって算段」

「なっ、あなた達そんな残酷な事してたの?」


 思わず一歩引いて幹部たちを見回すと、ラスプは心外だとでも言いたげな顔で否定した。


「馬鹿言え、こりゃ相当古い前時代――アキュイラよりもっと先代の魔王がし掛けた罠だろ」

「そもそも、アキュイラ様が存命していた際に勇者と直接ぶつかった事はありませんしね」

「ん?」


 ルカのセリフも手伝って、この短い受け答えの間に新たな疑問が二つも三つも湧き上がる。勇者と魔王の戦いって何代も続いてる物なの? それにアキュイラ様が亡くなったのって、てっきりあの先輩似の勇者様に倒されたからだと思ってたけど、そうじゃないなら死因は何?


「病死です」


 率直に疑問をぶつけると、ルカは少しだけ目を伏せながら答えてくれた。病……気……


「一年前、彼女は原因不明の病魔に犯され、内側から少しずつ命を食い荒らされていきました。そして半年後、記憶の小瓶を我々に託し、魔族の行く末を案じながら息を引き取ったのです」


 その時のことを思い出したのか、みんなの顔が暗く沈んでいく。重たい空気を打ち破るように、私はわざと場違いなほどに明るい声を出した。


「だ、大丈夫だって! ほら、こうやって生まれ変わりの私が戻ってきたんだから!」

「アキラ様……」

「もう覚悟を決めたんだから思い出すために記憶の五本でも十本でも持って来いってなもんよ!」


 少しだけ潤んだ瞳を向けるライムに向かって、安心させるように大きく頷く。すると嬉々としたルカが例の小瓶を両手に構えながら良い笑顔で言った。


「本当ですか!? 一度に摂取すると記憶の洪水で廃人になるかもしれませんが、魔王様がそこまでおっしゃるならまとめて投与しましょう!!!」

「やっぱり少しずつ! 少しずつでお願いします!」


 そんな風にぎゃあぎゃあ騒いでいたその時、私は「それ」が見えてしまってギクリと身体を強ばらせる。背後に大きく開いた穴から後ずさるように一歩引く。


「どうした?」

「何か今、穴の底で動いたような……」

手首です。茄子様よりお便りが届いてますね

「ぷーくんとライムはヒト型じゃない形態が分かってるんですけど、吸血鬼版ルカさんとか、死神仕様グリとかどんな見た目なんでしょうか?もともとヒトに近いから変身してなかったりするのかな?最近、異種恋貪り妖怪「ジンガイスキー」と化してるので教えてもらえたら妄想が捗るなぁ」

ルカ様、グリ様ですか…元々お二人は人型に近い種族なのですが、それでも今のお姿は多少の「目くらまし」がかかっているようですわね。ご主人様を怖がらせないようにしているのだと思いますわ。

でもわたくし思うんです、たとえ相手がどんな姿であろうと、私たちの魔王様なら受け入れてくれると思うんです。だって手首を専属メイドに置くような方ですから。

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