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21.グロ栽培

 マンシー マンシー…… シー……


 私の号令は夜の墓場に響き渡り、宵闇の中に吸い込まれていった。シンと、静寂が墓場に下りる。


「……ブッ」


 右後方から噴き出すような音が聞こえてきて、私は両手を挙げたポーズのまま振り返る。見ればルカが口元に手をあてて俯いていた。しかも顔を全力で背けて――


「ルカ」

「ブフッ、は、はい」

「騙した?」

「い、いえっ、滅相もない……っ」


 ならどうしてそんなプルプルと小刻みに震えているのか。笑い堪えてるでしょ、こら。一気にカーッと顔が熱くなる。勢いよく詰め寄った私は恥ずかしさを堪えて掴みかかった。


「ばかぁー! 大声じゃなくても良かったんでしょ!」

「い、いえいえ、とても元気で滑稽――いや、単純……ゲホゲホッ」

「薄々わかってたけど性格悪いわよルカ!!」


 ギャーギャーと喚いていたその時、地面にしゃがんでつついていたグリが「あ」とのんびりした声を出す。


「芽が出そう」

「グロ栽培!」


 ついに、ついにゾンビが!!ゾンビに!ゾンビで!!!


 固唾を呑んで見守る中、まるでモグラでも居るかのように土が波打ち出す。あ、あぁぁ



 そしてついに、それがボコッと飛び出したのである。



「……」

「……」

「……」


 右手だ。しなやかな指先が綺麗な女性?の手が土からまっすぐに生えている。なるほど、第一号は女性ゾンビか。よしよし、出だしは順調――


 そう考えていた私は、ぺそっと『右手単体』で出てきた手首に目を剥く。カサカサカサ……とまるでタランチュラのような動きで寄ってきた手首に悲鳴を上げながら飛びのいた。


「ぅぎゃああああ!! アダムスファミリー!!!」

「おや、パーツ単体で蘇生されてしまいましたか」

「へー、めずらしー」


 しがみつくようにしてルカの後ろに逃げ込んだと言うのに、彼らは物珍しそうに手首ちゃん(仮)を覗き込んでいる。なんでそんな冷静なの!? 手だよ!? 単品だよ!?


***


 結論から言うと、その後どれだけゾンビチャレンジしても手首ちゃん以外にアンデッドが生まれる事はなかった。精魂つきた私はぐったりと横たわる。


「も、ムリ……気力が持たない……」

「この辺りにしとく?」

「そうですね、残念ですがこれ以上は難しそうですし、引き上げますか」


 あれだけ覚悟を決めてやったのに、成果が『女性の手×1』って!


(……失敗しちゃった)


 情けないやら悔しいやらで俯いていると、手首ちゃんがやってきて私の手にそっと自分を重ねてくれた。なぐさめてくれてるんだろうか?


「主様そう落ち込まず。最初はこんなものですよ、焦らずに少しずつ慣れていきましょう」


 ルカは優しく言ってくれたけど自分では何となく悟ってしまっていた。たぶん私にネクロマンサーは向いてない。



 ガッカリしながら村まで戻ると、ちょうど呼びつけておいたゴブリン集団がドヤドヤと村になだれ込んでくるところだった。例のバイキング帽をかぶったリーダーが私の姿を見つけて興奮したように駆け寄ってくる。


「魔王様! ライム殿の伝言で馳せ参じただよ! さぁどの敵を潰すだか!? それとも略奪の手伝いだがや!?」

「グェーッヘッヘ、ひ弱そうなニンゲンどもだなぁぁぁ?」

「メシ! 酒! 女!!」


 興奮したようにキィキィと武器を振り回す彼らを見てドッと疲れが押し寄せる。あぁもう


「バカ言ってないで農作業の手伝いをしなさい、村人に手を出したら潰すわよ……」


 低い声でそう脅すと、それまで騒ぎ立てていたゴブリンたちがピタッと止まって震え出した。分かればよろしい。


 すさまじい疲労感に押しつぶされそうになりながら、私は少し離れたところに居たライムとその眷属たちに指示を出した。


「ライム、悪いけど監視役お願いできる?」

「村の人たちに手を出さないようにだよね、わかった!」


 素直な学習能力のあるライムに頼んでおけば村人たちは安全だろう。彼の中で人間は手出しをしてはいけない存在に昇格しているはずだ。


(なんだか利用してるみたいで嫌だな……)


 誰かの上に立つってこう言う事なんだろうか。なんだかイライラする。上手くいかなかったせい? とりあえず作業は夜が明けてからで良いと伝えて魔王城へ戻ることにする。こちらの世界に来て二日目、濃すぎる一日だった。


「あ、おいメシは――」

「食欲ない……」


 エプロンをかけたラスプが厨房から顔を出すのだけど、そっけなく返事をして自分の部屋へ向かう。ばふりとベッドに倒れこむと枕に顔を埋めたまま少し泣いた。


 どうして私がこんな役目を背負わなくちゃいけないんだろう、不安だらけです、前向きに振る舞ってはいたけどやっぱりムリだよ……


 ずぶずぶと気分がめり込んでいく中、ふいに髪をツンツンと引っ張られる感覚がする。緩慢な動きで右を向くと、手だけの存在が一生懸命に体を振ったり、こちらの頭を撫でてアピールしているところだった。


「……」


 ようやく上半身を起こした私は、その手を掴んでグニグニと揉んだりひっくり返してみる。エグい切断面が見えて一瞬ウッとしたけど、桜貝のようなかわいい爪の間に泥が入り込んでいるのをしばらく見つめる。


 急にフッと笑いがこみ上げてきた。そういえば私も信じられないくらい泥だらけだ。


「お風呂はいろっか」

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