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151.エロ同人誌みたいに!エロ同人誌みたいに!

「なるほど、娘ともども切り捨てるつもりなんだ」


 相槌をうつグリと共に、新聞記者はベルデモールが置かれた状況を慇懃無礼に突き付ける。


「つまり捨て駒としてあなたは今回差し向けられたと、そういうわけですね」

「どうでもいいけど、それルカの真似?」

「いいなこの口調、煽りにピッタリだ」


 その情報がどこまで真実だったのかはわからない。だが、ベルデモールは真っ青な顔をして頭を小さく振り始めた。


「違う……そんなのうそよ……お父様がわたくしを」


 話題を切り替えるように、ダナエがパンパンと二度手を叩く。皆の視線を集めた彼女は、腰に手をあてて軽く言い放った。


「はいはい、むだ話はそこまで。いいかいベルデモール? うちの国は人質であろうがタダ飯をくわせる余裕はないんだ。アンタには奉仕刑をして貰うよ」


 ダナエが窓枠を二度叩いて合図すると、外で控えていたらしいゴブリンがわらわらと狭い牢屋に入ってきた。でっぷりと肥え太ったその姿に、ベルデモールはヒッと短く息を飲み震え出す。その脳裏には首都で密かに読んだ低俗な週刊誌の読み物が蘇っていた。


「ほ、奉仕って、わたくしに何をさせるつもりですの!? まさかっ」

「見られたくないだろうし、アタシたちは外に出てるから」

「待っ――」


 引き留めようとするのだが、無常にも彼らは出て行ってしまった。代わりに鼻息の荒いゴブリンたちが牢のカギを開け迫って来る。


「や、やだ、来ないでっ……わたくしに乱暴するつもりでしょう! 助けて、助けてサイードお兄様!!」


 貞操の危機にご令嬢は涙ぐむ。懇願むなしく、ついにその服に手がかけられた。


「いやぁーっ!!」



 ……



 数分後、ベルデモールは畑のど真ん中に立ち尽くしていた。


「……は?」


 そのいで立ちは白いチュニックにやや大きめのオーバーオール。麗しく光る金髪はざっくりと編み込まれ両肩から垂らされていた。大きな畑用ブーツをガッポガッポと踏み鳴らすと嗅いだことのないむわっとした匂いが鼻をくすぐる。


「まったく、着替えさせてやろっちゅうに、暴れるから手間取ってしまったでねぇか」


 先ほど服をひっぺがしたゴブリンたちが、やれやれと呟きながら農工具を運んでくる。令嬢の手にクワを押し付けると、前掛けを締め直した彼ら――いや、彼女たちはニィッと笑顔らしきものを浮かべた。


「なかなか似合ってるど、元から田舎っ子みてぇだ」

「んだんだ、さぁ始めっぺー」

「ちょっとお待ちなさい! 一体どういうことですのっ」


 理解が追い付かずベルデモールが叫ぶと、足を止めた彼女らは顔を見合わせゲラゲラと笑い出した。


「あんれまぁ、やだよこの子は、そんなカッコでダンスパーティーをするつもりらしい」

「畑仕事に決まってるべさ」

「ふざけるのも大概になさってっ、どうしてわたくしがそんな事!」


 激昂して拳を握りしめるも、ゴブリン婦人たちは冗談だと取り合ってくれない。その時、ベルデモールは視界の端のブルーグレーに意識を引かれた。二足歩行でやってきたケットシ―は、目の前にたつと一度ペコリと頭を下げた。見覚えのあるガラス玉のような透き通った目に、半年ほど前の事を思い出す。


「あなた……」

「お久しぶりですニャ、お嬢様」


 記憶の中よりも多少毛並みが良くなってはいたが間違いない。かつてカーミラ家で所有していた召し使いは立派な身なりをして彼女の目の前に立っていた。スッと前足を胸にあてた彼は口を開く。


「ニャアが監査役として付かせて貰うことになったニャ、さぁ始めるニャ」

「ちょ、ちょっと」


 着ていたシャツを腕まくりした猫は、かつてのご主人の手首を掴み歩き出した。



「そうそう、もっと本腰を入れてだなぁ」

「もっと柄を短く持って、小刻みに動かした方が疲れないよ、お姉ちゃん」


 気高い令嬢である自分が平民にまじって畑を耕している。ベルデモールはやみくもにクワを振り回すことでその受け入れがたい事実を何とか頭から追い出そうとしていた。隣で同じ作業をしていた女の子が口うるさく指示を挟んでくる。


「ほーらぁ、そんな全力でやってたら午後まで持たないよー」

「だぁーもうっ、わかってますわよ! 命令しないで頂けます!? まったくもう、わたくしを誰だと思って……」


 ブツクサと呟くと、頬を泥で汚した少女は腰に手をやりえっへんと胸を張った。


「少なくとも、ここではあなたよりも先輩よ。えらいんだから」

「はん! 何の身分もない平民がえらそーに」


 反論しようとしたその時、足元が波打つように揺れ地中から何かが突き出した。鼻先をかすめた攻撃にベルデモールは悲鳴を上げて尻もちをつく。


「キャアアアア!!!」

「あ、わーむ君。手伝ってくれるの? よかったねぇお姉ちゃん」


 飛び出したピンク色の太長い「何か」は、完全に固まっている令嬢の肩にちょん、と触れるとうねうねと地中に戻っていった。脳の処理が追い付かず、息をすることも忘れていたベルデモールはハッとする。


「も、漏……」

「え?」

「~~っ、なんでもありませんわ! ちょっとですわよ、ちょっと!!」


 顔を真っ赤にしていた令嬢だったが、ご自慢の金髪に泥がべったり付いている事に気が付き、顔を覆ってわっと泣き出した。


「もういやぁぁぁーっ、限界ですわ! なんでわたくしがこんな目に遭わなくてはならないの!?」


 本気ですすり泣く令嬢を見下ろしていた少女は、その肩にポンと手を置くと周囲にいた大人たちに呼びかけた。


「お姉ちゃんが限界だって、そろそろお昼にしようよ」

「は? いやちょっとお待ちなさい、限界ってそういう意味では」


 口ではどんなに虚勢を張っていても、腹の虫は正直だった。昨夜から何も入れて貰えない胃袋が切ない声を出して本体に抗議する。ベルデモールは半ばあきらめたように手を引かれ、道端の草むらへと腰を下ろした。


「芋の煮っころがし作ってきたから喰ってくんろ」

「森で摘んできた木いちごをジャムにしたのよ」

「はい、お姉ちゃんの分」


 すっかり世話焼き先輩と化した少女が、満面の笑みで木のプレートを差し出す。ジャムを挟んだサンドイッチにアキラ芋がゴロゴロと入った煮っころがし、すぐ隣の畑からもぎってきたのか、真っ赤に熟れたトヌトが各人の皿に放り込まれる。疲れ切っていたベルデモールはボーっとしながらそれを掴んで一口かじってみた。……。少しだけ顔をしかめ、二口、三口とむさぼるように口に収める。息つく間もなく他の料理も掻き込むように食べ始めた。


「おやおや、アキラ様みたいにいい食べっぷりだ」

「よく働いた後のメシはうまかろ?」

「……別に」


 そうは言いつつ、差し出されるおかわりも含めてペロリと平らげる。食後に貰ったレモン水のはじける泡を物珍しそうに眺めていると、そのグラスを通して遠くに移動する一団が目に入った。


「あら、ずいぶんと大荷物ね。引っ越しでもするのかしら」

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