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128.特産品コンペ

 夏前から急ピッチで建設が進められてきた屋外演劇場は、ほぼ完成したと言ってもいいくらいの出来になっていた。街の城壁から少し出たところにステージがあり、それを扇状に段々と取り囲むようにして観客席が作られている。


 雨ざらしにも耐えられるようステージと観覧部分は石材で作られているのだけど、舞台袖と観客席の二階部分(VIP席)は木組みで出来ており、なんと滑車が付いていてその部分だけ丸ごとゴロゴロと取り外せるようになっている。これは今後もこの場を使うことを想定したライムが設計してくれたもので、どんな内容の劇にも臨機応変に対応できるようにと考えられたものだ。その気になれば丸ごと囲ってコロシアムのようにもできるし、超大がかりな装置を舞台袖に継ぎ足して仕込むことも可能だ。つまりは状況に応じて形を変えることのできる変形型劇場なのである!(巨大ロボットになったりはしない、念のため)基礎を作るときに地下も作ったらしく、ステージを割って奈落から登場させることも可能だ。これで演出の幅が広がったと脚本担当のグリも楽しそうに話していたっけ。


「あーあー、テステス。それではお待たせしましたーっ! 第一回・ハーツイーズ特産品コンペをこれより開催いたしまーす!!」


 そんなステージを設計した棟梁本人の元気な声が、音声拡声魔導器(マイク)で響き渡る。七割方埋まった観客席がワァァァと沸き立つ中、最後列に居た合図係のゴブリンが両腕を上げて〇のサインを出す。中央と右端のスライムもオッケー。二階VIP席は受信器スピーカーから声が出ているのでもちろん大丈夫。うん、風魔術による出力調整も良い感じじゃない?


 こういったタレント的な役割もばっちしこなすライムが、イベント司会者として大きく手を振った。


「みんないいリアクションありがとーっ、それじゃあ説明するよ。うちの国の出荷商品の「顔」と言えばなんといってもアキラ芋! 今回アキラ芋を使った特産品の募集をしたところ、たっくさんのアイデアが集まりました。審査員の判断でいいアイデアには金一封! 優勝者にはなんとなんと広告費などの援助金が国からドドーンと出ちゃうよ。さぁこのビックチャンスをつかみ取るのは一体誰だ! 観客席投票もあるからみんなも参加してね。ハ国の次のブームを作るのはキミだ!」


 観客席の端から端まで人差し指を走らせたライムは最後にグッとガッツポーズを決めてみせる。上手いなぁ、楽しそうな雰囲気につられてどんどん街から人が出てきてる。久しぶりの明るいイベントだもんね。ここ最近のセニアスハーブ騒動で暗かったみんなの顔に笑顔が戻りつつあってこっちまで嬉しくなる。


「それじゃあ審査員の紹介だよ。まずは我らがトップにしてアキラ芋の功労者。イメージガールも務める魔王アキラ様だー!」


 歓声が起きてライムからマイクを向けられる。うぇえええい! みんなー乗ってるかー!! と、ついつい叫びたくなるのを堪えて無難に話し出す。


「みんな、おはよう。今回アキラ芋の新たな可能性を見つけたくてこんな企画をやってみました。今からどんな品が飛び出すか楽しみです」

「アキラ様、真っ先に提案したもんね~。欲張って他の人の分まで横取りしないようにね?」

「失礼ねっ、そんなことするわけないでしょ!」


 思わず言い返すと観客席からドッと笑いが起きる。ぐぬぬ、今となっては私の路線が完全に食いしん坊キャラに固定されてしまった。隠してたつもりだったのになんで?


 半目でにらみつける私をスルーして、司会者ライムは次の審査員の紹介に移ってしまう。


「続いてはこの人! 公平公正冷戦沈着。ハーツイーズ国の金庫事情を一括管理する魔王様のお財布係、バンパイアのルカ兄ぃー! 今回の審査ポイントはどこですか?」

「そうですね、商品としての価値はもちろんですが、我が国のイメージをさらに向上させられる物を期待したいですね」


 軽く微笑んで答えるルカは今日も完璧だ。観客席から「ルカ様ー!」「こっちむいてー」なんて黄色い悲鳴があがってる。ねぇねぇ、ちょっとここらで歌って踊ってみません? アイドル路線で売り出してみません? しない? そうですか。


「三人目! 期待の新星役者、審美眼の方はどうか? 豊穣祭ではこのステージで魔王役を演じるリュンクスのダナエ姉ぇー!」

「……」


 紹介されてもムスッとしたままのダナエに、ライムが下から覗き込むように問いかける。


「あれれ? まだ寝ぼけてるのかな? ダナエ姉ぇ~起きて~お芋だよーほらほら」

「だぁーもうっ、起きてるっつの! まったく、なんでアタシがこんな場に――」

「とか言って、下調べはバッチシだよね。昨日図書室でアキラ芋の成り立ちを追った本読んでたもん」

「バッ……なんで知ってる! いや違う! あれは」


 ツンデレが発動したダナエの前に、ビターン!と、巨大なピンク色の物が叩きつけられる。固まった猫さんを絡めとるように尻尾ですくったわーむ君がスリスリと愛情表現をし始めた。


「わぁ、わーむ君もダナエ姉ぇのまじめさに喜んでるみたいだ。畑の守護神にしてアキラ芋の育て親! ワームベームのわーむ君でーす。以上四人を審査員に進めていくよ~」

「普通に進行すん……っ、ちょ、助け、ぎょあー!」



 懐っこいわーむ君からダナエをようやく救出して審査が始まった。私たちはステージの脇に置かれた机といすに座って、エントリーした者がセンターで大々的にアピールするという流れだ。


「それではさっそく行ってみよー! どうぞ」

「エントリーにゃンバーいちばん! ケットシ―キャラバン所属のナゴにゃー」


 例のキッチンカーをガラゴロ引いて登場したナゴ君に、観客席から「はぅぅ」って感じの和み声があふれる。相変わらずかわいいな~


 ナゴ君は短い手足で一所懸命動き回り、脚立を運んでキッチンカーに取り付けられたドラム缶から何かを取り出す。シュタッと飛び降りた彼は自信ありげに試作品を掲げてみせた。そのほっぺたには煤がついている。


「魔王様のお話を聞いて作ってみた石焼き芋にゃらぬ『ネコ焼き芋』にゃ!」


 ネ……!? まさか石の代わりにネコを燃やして!?


 そんな私の予想はありがたいことに外れ(当たり前だ)ホクホクの湯気が立ち昇るお芋が審査員に手渡される。ネコ焼き芋のネコとは焼きごてで皮に押印された肉球マークのことだった。


「かわいい!」

「シンプルですがプレミア感が出ますね」


 ぽくっと二つに折ると、黄色くねっとりした中身が現れる。一口かじれば、あああああま~~い!!


「石も河原で拾ってきた丸石を厳選してつかったにゃ、キャラバン行商のついでに売ったらもっともっと有名になるに違いないにゃ!」


 ホクホク系も牛乳と合わせて好きだけど、ねっとり系になると、これはもはやスイーツ!? って感じでとろけるんだよねぇぇ。お芋とネコの合わせ技で女子ウケがとんでもないことになりそうだ。



「エントリーナンバー二番。バッカス酒蔵です」


 二番目に出て来たのは、ちょっと気の弱そうな青年だった。覚えているだろうか、一番初めのマイスター制度でうちの国にやってきてくれた職人さんだ。あの時から果実酒などでお酒造りを試行錯誤していたらしいんだけど、今回のイベントに合わせてアキラ芋で芋焼酎を作ってみたとのこと。


「ん、ちょっとクセがあるかな」

「そうですか? 私はこのくらいの方が舌に合いますね」


 試飲して思ったのはモフワァ~ッと鼻に抜ける芋臭さだ。私はちょっとニガテだけど、お酒がそんなに得意じゃないってのもあるのかも。ルカは好みらしくておかわりを貰っていた。芋焼酎のむ美形バンパイア……。


「ダナエはどう?」

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