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114.勝ち抜き面会システム

「えっ、襲い掛かったの? アキュイラ様に?」


 ギョッとして問いかけると、苦笑を浮かべた彼女は軽く肩をすくめてみせた。


「もちろんすぐに返り討ちにあって取り押さえられたよ。そういえばあの時も赤犬にやられたっけな」

「そういえば、そんなこともあったね」


 当時を思い出すかのようにグリがのんびりと応える。軽くそちらをにらみつけたダナエは呆れたように訂正を入れた。


「死神はあの時も寝てただろ」

「……そうだっけ?」

「あははっ」


 今と変わらない当時のやりとりが少しだけ見えたような気がして私は笑う。仕方のないやつ、と苦笑を浮かべていたダナエは口の端を吊り上げてこう続けた。


「打ち首になってもおかしくなかったのに、あの人はアタシの手を取って立たせてくれた。魔王に襲いかかるぐらいの気概があればいい戦士になれる。共に戦いましょうって言ってくれたんだ」


 その横顔を見つめていると、突然彼女はハッとしたように振り返った。瞳孔をぐわっとおっぴろげて歯を剥き出しにする。


「なんでアンタにこんな話しなきゃいけないんだよっ、おいニヤニヤすんな!」

「え、してないしてない。ニヤニヤなんかしてないよ」


 慌てて表情を引き締めるのだけど、少しだけ彼女の素の部分に触れられたような気がして自然と口元が緩んでしまう。突然ほっぺたをガッと掴まれて両側にひっぱられてしまう。あっ、すごい、肉球ぷにぷに。


「わ~ら~う~なぁぁ~」

「ぶへぇぇ、やめへっへば~」


 なんだかおかしくて笑いがこみ上げてくる。ひっぱられながら笑ったからもの凄い顔になってたらしい、目の前のダナエもプッと噴き出した。いきなりバチンと離すと立ち上がって笑いながら言い捨てていく。


「勘違いするなよ変顔! アタシはまだ気を許したわけじゃないからなっ」


 そのままステージの方に駆けだして勢いよく跳躍する。くるりと空中で一回転し音も立てずに着地を決めた。周りからおぉ~と驚きの声が上がる中、得意そうな顔をした彼女は舞台袖に消えて行った。側で見守っていたグリがぼそりとつぶやく。


「誰かに似てない?」

「耳としっぽ?」

「だけじゃなくて」


 顔を見合わせた私たちは同時に笑い出した。そういえば赤毛の彼もそろそろ出張から帰ってくる頃だ。きっと無事に帰ってくるよね。



 ***



 無事じゃなかった。


「……」


 久しぶりに会ったラスプは全身ボコボコに腫れあがり、あっちこっち青あざだらけで見るからに痛々しい姿を私たちに披露してくれた。仏頂面でソファに座り込んだ彼を追いかけて医務室から手首ちゃんが飛び込んでくる。みんなが固唾を呑んで見つめる中、私が代表しておそるおそる問いかけた。


「どうしたのそれ、何があったの?」


 包帯を巻こうとする手首ちゃんをうっとおしげに振り払い、腕を組んだ彼は結論から話し出した。


「交渉は上手く行った。こっちの技術を提供する代わりに、ドワーフ島から武器の供給といざという時は応援に駆けつけてくれるそうだ」

「本当?」


 実は先日から不在にしていたラスプには秘密裏にドワーフ島へと赴いて貰っていた。魔族諸島の中では友好的で情に篤いと評判な彼らと同盟を結ぶ為だ。


 どうしてもハーツイーズは戦力的な面では不安が残る。今のところ上手く行ってるとは言え、今後何があるかわからない。いざと言うときの為に戦力は整えておくべきだからね。見せない第二・第三の刃は常に磨いておくべきである――とはルカのアドバイスだ。なので他の幹部が劇の準備で派手に動き回る裏で、劇関連では特にやることのない彼にコッソリ動いて貰っていたのだけど……。


 ここで突然、頭を掻きむしったラスプはやるせなさを爆発させるかのごとく天井に向かって吼えた。


「あの筋肉ダルマどもめぇぇ!! 何が『面通りするにはオレたちを倒していけ』だ!」


 言葉の端々を拾い上げるに、どうやら前もって連絡はしておいたのでドワーフ島に上陸するなり出迎えはあったらしい。ただその歓迎の仕方が荒っぽいと言うか、ドワーフの族長に面会するまでに数々の屈強な男たちを倒していけという物だったとか。しかも武装解除されたので文字通りの肉弾戦。それはもうすさまじい激闘だったそうだ。


「でも、族長には会えたんでしょ?」

「……まぁな」


 ラスプはふて腐れたようにそっぽを向いてしまう。惜しくも後一歩のところで力尽きてしまったのだけど、あとちょっとだからオマケして族長には会って貰えたらしい。


「でもすごいよ! よくがんばった!」

「そ、そうか?」


 こんなにボロボロになるまで戦ってくれたんだと軽く感動してたのだけど、他の幹部たちは揃って冷めたような反応を返した。


「なぁーにぃー、その勝ち抜きシステム」

「ルカが槍の購入に行ったときはそんなのなかったんでしょ?」

「一杯食わされましたね、ラスプ」


 容赦ない発言にラスプは赤い目を真ん丸にして固まってしまった。私は慌てて彼が持って帰ってきた書状を開いて確認する。中には男らしい筆跡でこんなことが書かれていた。



 拝啓、アキラ魔王殿


 同盟の件は了解した。近いうちに職人を数人送る。共同開発で新たな武具を造り出せるよう進めて参ろう。

 いやしかし使者のライカンスロープ殿には存分に楽しませて貰った。古いしきたりで半分冗談のつもりだったのだが思いのほか真面目に挑みかかってきてくれたので皆血が騒いでしまったようだ。

 骨のある彼には是非とも次回ワシまで勝ち上がってきてくれることを期待している。では。


 追伸:そちらに行ったドワーフたちによろしく



 つまりラスプはしなくても良い余興に付き合わされたらしい。


「な……なかなかにファンキーな族長さんね」

「もう一回人魚運送を呼べぇぇ! 行ってあいつら今度こそ叩きのめしてやる!!」


 本当にそのまま殴り込みに行きそうなラスプをなだめて落ち着かせる。気に入られたみたいだし結果的には良かったんじゃ、ナイカナー? 殴られ損とか思ってないよ。うん。



 ***



 贖罪するという形で釈放されたダナエだけど私の命を狙った賊なのは違いないので二人きりになる事はない。必ず幹部の誰かしらは側に居てくれることになっている。


「今日のおやつはパンケーキ」

「毎度よく食う……」

「ダナエ姉ぇ、食べる?」

「要る」


 そんなわけで今日の護衛はライム。執務室でのおやつタイムにタイミングよくダナエが来たので一緒に食べることにした。斜向かいにかけた彼女の為に山盛りになったお皿から取り分ける。


「ソースは? 木いちごと、はちみつレモンと、ブルーベリーがあるよ」

「レモン」

「猫なのに柑橘類へいきなんだ」

「猫じゃないって。ありがと」


 プレーンなパンケーキを三枚重ねたお皿と、金色のソースが入ったガラス製のピッチャーを目の前に置いてあげる。すると私の隣でその様子を見ていたライムが急にニヤニヤしながら持っていたフォークを振り始めた。


「ダナエ姉ぇもだいぶこの国に馴染んできたよね~」

「はぁ?」


 怪訝そうな顔を上げたダナエ。その手に持ったピッチャーからドボドボドボボボとはちみつレモンソースがなだれ落ちる。あの、その辺にしておいた方が……私の分……。


「だぁーって、今までだったら『ニンゲンからの施しなんか受けるか!』とか言ってたくせに普通に食べてるし~」

「べっ、別にいいだろっ、稽古で腹へっただけだ!」

「ふふ、それに気づいてる? さっき自然にお礼言ってたよ。ありがとうって」

「!?」


 ダナエぇぇぇ~!! 溢れてる溢れてる! さすがの私でもテーブルは食べない! 前回で懲りた!

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