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110.現実味なさすぎて編集からダメ出しくらうキャラ

 掲げられた箱の中から注文品を取り出す。黒皮で作られた細身のベルトには銀のバックルがついていて、トップには楕円形の白い石が下げられていた。つるっとした手触りで表面にはうちの国の紋章が刻印され金の塗料で墨入れをしてある。裏返すと同じ手法でステラとハーツイーズの名前も書いてあった。


「すごいすごい、素敵! ほらステラ、おいで」


 呼び寄せて試着すると……ピッタリ! 白い身体に黒のベルトが映えてカッコいい。当の本人もクンクン匂いは嗅いでるけど嫌がるそぶりは見せていない。側で見ていたルカも褒めてくれる。


「悪くないですね」

「これで迷子になっても安心だね」


 注文通りで大満足だ。これなら舞台の小物も任せられそう。それを伝えると夫婦はとても喜んでくれて今回の首輪はかなりオマケして貰えることになった。そうだ、その浮いた分で手首ちゃんにも何かお土産を買っていってあげようかな。日頃の感謝を込めて。


(何が良いだろう、指輪とかブレスレット? でもあの子、文字通り手仕事が多いからな……仕事の邪魔にならない方が良いか)


 手頃な物がないかと陳列台を眺めていく。あ、この辺り良いかも。ブローチとかピンなら手首のハンカチ留めに使えそう。


 散々悩んだ挙句、ぶどうのブローチを買っていってあげる事にした。一粒ひとつぶがこぼれおちる紫の石で作られたデザインでなんとなくイメージに合う気がする。


 さてお会計。と、向き直った時、少し離れたショーケースの前に居たルカと目が合った。日当たりのいい場所なのでいつも以上に金髪が光を吸い込んでキラキラと輝いている。彼はふっと笑みを浮かべると「主様」と小さく私を呼んだ。いいものでも有ったのかと近寄ると彼は軽く開いた手を差し出した。


「お手をよろしいですか?」

「?」


 何か見せたいのかと手のひらを上にして差し出す。すると掴まれてくるっと返された。そのままごく自然な動作で銀の輪を私の薬指に――


「待った! 何するの!」


 とっさにグーにして嵌められるのを阻止する。顔をあげるとルカは残念そうな顔で口を開いた。


「この位置につけておけば変な虫も寄ってこないかと思いまして」

「だからって、勝手にやるなっ」


 振りほどくと意外にもあっさり解放してくれた。少し頬に熱を感じるので多分赤くなってしまっている気がする。おおお、落ち着け私。またいつものからかいなんだから。


「お守りみたいなものです。特定の相手が居なくても男避けとしてこの位置に付けている女性も結構いますよ」


 そう冷静に言われてしまえば、一人で慌てているのが何だか恥ずかしくなってくる。私は視線を逸らしながら胸の前で手を握りしめた。


「で、でも、古風かもしれないけど、私はやっぱりそういう時がちゃんと来るまでここは大切に取っておきたいし……」


 どこかの森の中のこじんまりした素敵な教会、憧れの立谷先輩にマリッジリングを付けて貰う場面が浮かぶ。だけどもいつの間にかその顔が端正な顔立ちをした金髪の吸血鬼にすり替わってしまい、慌てて頭を振ってイメージを追い払う。違う違う違う! さっきのがインパクト強すぎただけ!


「だっ、だいたいねぇ! その指輪めちゃくちゃ高いけどルカに払えるのっ?」


 恥ずかしさをごまかすようにビシッと指差すのだけど、余裕の表情を浮かべたルカはショーケースの端から端まで指を滑らせた。


「ご心配なく、何でしたらここからあちらの端まで揃えましょうか?」

「へ?」


 どこにそんなお金が……と、言いかけたところで先日のやり取りがよみがえる。


 ――私が商売を始めるのはありですか?


「いったい何を始めたの? まさか本当にホストクラブ?」

「残念、もっと効率のいい仕事です」

「だっておかしいじゃない! この短期間でそんな稼げる仕事っていったい……!」


 違法なことに手を染めたんじゃないかとオロオロしていると、クスッと笑ったルカは得意げな顔をして手を広げた。


「ヒントを差し上げましょうか。主様の言ったホストクラブは一部の金持ちから大金を集める手法ですが、私が始めたのはその真逆、大勢から少しずつ徴収するやり方です」

「大勢からちょっとずつ?」


 まるで税金みたいだけど、じゃあその対価ってなに? 腕を組んで思案するも答えが分からない。募金じゃないんだから旨みがなければたとえ少額だとしてもお金なんか集まらないはずなのに……。


「ヒントその二。『もしも』の時にはその徴収したお金を一部の者に還元します」


 そこまで言われてようやくピンと来た。眉根を寄せながらおそるおそる問いかける。


「まさか、保険?」

「そのとおり! さすがは主様。物の流れが活発になれば自然とキャラバンの数も多くなる。そこに着目して行商人向けのサービスを始めたのですが読みは大当たりでしたね」

「あぁぁっ」


 つまり仕組みはこうだ。一回の運搬につき銀貨一枚の保険料を支払えば、万が一盗賊などに襲われても胴元であるルカの保険会社が奪われてしまった商品や荷馬車代を保証してくれる。何事もなければ銀貨はそのまま会社のふところへ。


 やられたぁぁ! 確かに動き始めたこの国にとって需要しかないサービスだ。形のない商品だから始めるのに元手もほとんど要らない。っていうか待って、物じゃないから課税対象外じゃない!?


「卑怯よルカ! 税制の抜け穴をねらったわね?」

「褒め言葉として受け取っておきましょう。抜け目がないのは商売人としての必須スキルですからね。笑顔よりもよっぽど」

「ぐぁぁぁ」


 嫌味ったらしく言われて頭を振りたくる。私とステラがチマチマ銅貨を稼いでる裏でそんなスケールの大きいことしてたなんて。くやしいぃぃ!!


「面白いように資金が貯まってきましたので、運搬の護衛もオプションサービスで始めようかと思っているんですよ。自警団の非番の日のバイト先になる、街道の治安も向上する、いいことずくめですね」

「それは国にとってプラスだけど……でも、すぐにでも課税対象にしてやるんだから! 国家金庫にちょっとは入れなさい!」

「ボーナスタイムはここまでですか、まぁ潮時でしょう、これ以上非課税ではヘイトを集めかねませんからね」


 前に約束した通り、ルカは代理の者を表向きの社長に立てて自分はアドバイザーという立ち位置でお給料を貰っているらしい。さっき指輪を端から端まで買えるとか言ってたけど、冗談じゃなくこの店をまるごと買い取れるレベルなのでは?


 おそらく個人資産で言えば一気にこの国指折りの金持ちになったのは間違いない。イケメンで金持ちで仕事もできる男とかハイスペックすぎる……どこの二次元の王子様よ。


 現実味がなさすぎて呆れながら見つめていると、ルカは手にしたままだった指輪をショーケースの元の位置に戻した。ガラスをパタンと閉じるとこちらを――正確には左手の辺りに視線を走らせた。


「グリのは身に着けるくせに、私のは受け取って頂けないのですね」

「え?」


 反射的に左手首を持ち上げる。ずっと着けるのが当たり前になっていた魔石付きのブレスレットがシャラと音を立てた。ルカの拗ねたような口調になんとなく罪悪感がわいて言い訳めいた返しをしてしまう。


「こっ、これは別に深い意味とかなくて……魔石を失くさないようにってくれたものだから着けてるだけで、その」


 あれ? なんで私こんな焦ってるんだろ? 別にどんなアクセサリーを着けようと自由なはずなのに。


 慌てふためく私の手が空中で捉えられる。ドキッと跳ねた鼓動を意識する時にはもう、再び恭しく手を取られていた。


「では、私にもまだ望みはあるわけですね」


 柔らかく微笑まれて見とれてしまう。何がなんだか分からないうちに、薬指に軽い感触が与えられた。


「いつかここに受け取って頂けると期待して」


 完全に停止した私の手を優しく下ろし、横をすりぬけて彼は店を出ていった。さん、にー、いち――


(ぎゃあああああ!!!)


 身体がまだ動かないので心の中で盛大な悲鳴を上げる。あ、あの気障バンパイアああ!! こんな人前で指にキっ、キキキ


 人前? そこではたと気が付いた私はおそるおそる振り返る。すっかり気配を消していたドワーフ夫人がほほえましくこちらを見ていた。


「あらあらまぁまぁ」

「ちがっ、違うの!」

「いいんですよぉ、ウチは待ちますからねぇー、とっておきのデザインたぁくさんご用意してお待ちしてますからぁー」

「だから違うんだってばーっ!!」

「そのブレスレット」


 何とか誤解を解こうとしたその時、この店内に入って初めて旦那さんの方から話しかけて来た。チラッとこちらを一目見た後、金やすりを動かしながら続ける。


「意匠もすごいが強力な護符になっている。どこの誰が作ったか知らんが、ずいぶんと大切にされているんだな」

「え、えええ」


 その言葉にもう一度グリから貰った物を見つめなおす。銀の小花をつなぎ合わせて作られた装具は、窓からの光を反射して輝いていた。

◆NGシーン

向き直った時、少し離れたショーケースの前に居たルカと目が合った。彼はふっと笑みを浮かべると「主様」と小さく私を呼んだ。いいものでも有ったのかと近寄ると彼は手を差し出した。

「お手」

「犬か!」


ラスプ「へっぷし!」

グリ「風邪?」

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