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召しませ我らが魔王様 作者:紗雪ロカ
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1.勇者が攻めて来ますので、我が軍を率いて何とかして下さい

「魔王様」

 今、私――山野井あきらは大きな椅子に座らされていた。
 赤い革張りが年代を感じさせる日常生活ではついぞお目に掛かれないようなアンティーク調のひじかけ椅子が一つ、薄暗いホールのひな壇にどでんと置かれている。

 そんな、映画にでも出てきそうな椅子が景色から浮いていない理由はただ一つ、この空間全体が洋館のような内装だからだ。
 大きな窓の外は落ちてきそうなほど暗い雲が垂れ込め、ゴロゴロという音の合間に時おり稲妻が光る。
 椅子は浮いていない。むしろこの部屋で浮いているのはセーラー服を着ている私の方だろう。

「暗黒城への帰還、誠にお喜び申し上げます」

 視線をグググとぎこちなく正面やや下に向けると、跪いて柔らかい微笑みを浮かべる一人の男性が目に入る。

 耳にかかる程度の落ち着いた金髪。仕立ての良いバトラーのような服装。よく晴れた冬の空のような瞳を細めた彼は微笑みながら華麗にムチャ振りをしてきた。

「つきましては勇者が攻めて来ますので、我が軍を率いて何とかして下さい」
「……え?」


召しませ我らが魔王様
~異世界に来ましたがご飯がおいしくないので土魔法で農業チートします~


 言ってる事の半分も理解できなくて思わず間の抜けた声が漏れ出る。
 ま、待った。状況をよく思い出してみよう。そう、ついさっきまで私は学校の教室に居たはずだ。

 斜陽の差し込む夕暮れ時、憧れだった同じ部の先輩にやっとの思いで告白をした事までは覚えている。そうしたらまさかのokを貰えてバンザーイと舞い上がったんだっけ、本当に好きだったから嬉しすぎて。

 あ……そうだ、その瞬間だ! 誰かに足を掴まれてそのまま床にずぶずぶと引きずり込まれたんだ! わけの分からない内に意識がだんだん遠くなっていって、気付いたらこの椅子に座らされていたんだけど

あるじ様、個人的に言わせて頂くと『おぼまァ!?』という叫び声は女性としてどうかと思いますが」
「犯人ー!!」

 慌てて立ち上がった私は少しでもガードするかのように椅子の後ろに逃げ込む。
 どうしよう、この人誘拐犯だ。海外の俳優にも負けないくらいのイケメンさんが何をトチ狂って私なんぞ誘拐したのか。

 そこまで考えた私は一つの可能性に思い当たった。椅子の陰から少しだけ顔を出し、ぎこちない笑顔で切り出す。

「すみません、こんなおどろおどろしいセットまで用意して貰って申し訳ないんですけど、早めに帰していただけませんかね? 誰と勘違いしてるかは知りませんが家はごくごく普通の一般家庭でして、とてもしろ金なんて払えるような身分では」
「金銭など要求しませんよ? 私は貴女と言う存在が欲しかったのですから」

 わ、わぁ、これマジなやつだぁ……
 よーしオーケーオーケー、一旦落ち着こうあきら、こういう人は下手に刺激しちゃいけない。きっと一般人とはかけ離れた思考をお持ちなんだろう。

「あ、あの」
「はい?」
「あなたはいったい、誰?」

 まずは身元をハッキリさせようと尋ねると、男の人は整った顔立ちを一瞬だけ歪めてひどく寂しそうな表情を浮かべた。不覚にもドキッと胸が高鳴る。

「お忘れですか?」
「え。初対面、ですよね?」
「……そうか、記憶が」

 しばらく目を伏せていた彼は気を取り直したかのように立ち上がって優し気な笑みを浮かべた。耳障りのよい流れるような声が響く。

「申し遅れました、私はリュカリウス。『ルカ』とお呼び下さい、主様」
「ルカさん?」
「さん付けは不要です」
「ルカ」
「はい?」

 ニコやかにリュカリウスさ……ルカは笑う。
 おわぁ、映画のスクリーンでしか見れないようなイケメンスマイルがこんな間近で。見たところ年上っぽいけど呼び捨てで良いのかな。

 ――って

 なじんでる場合かぁぁぁ!! ほだされるな私! どんなに美形でもこの人は誘拐犯!

 そっ、そうだ。それに私には立谷たちや先輩という心に決めた人がっ! 目の前からいきなり消えてさぞ驚いてるに違いない。変な女だと思われて告白やっぱりお断りされたらどうしよう!

「お願い、私を早く元いた場所へ帰して!」
「そうはいきません。貴女はこれから『魔王』として勇者と戦うという責務があります」
「それ! 魔王ってなに? 私ただの女子高生なんですけど」

 魔王っていうとアレか、ゲームの最後に出て来て「世界の半分をくれてやろう~」とか言いだすあの。私が分け与えられる物なんて個包装されたお菓子ぐらいなものだぞ。あ、いや、半分もあげないけど。

「それもお忘れですか」
「何を? っていうかそれ以上寄らないで! 大声出すからねっ」
「大声出したところで誰も来ませんけどね」
「おかーさぁぁああん!!」

 顔を覆ってワッと泣き出すと、どこからかチッという舌打ちが聞こえた。聞き間違いかと思って顔を上げるも、ルカは先ほどと変わらない爽やかスマイルを浮かべている。

 ……え、誰? この部屋、他に誰か居る? こわい

「話を戻しますよ。主様、あなたは先代魔王の生まれ変わりです」
「私が?」
「あなたにはこれから前世の記憶とスキルを少しずつ取り戻し、元の魔王様に戻って頂きます。よろしいですね?」
「じ、」

 突拍子もない宣言に思わず声が詰まる。何とか肺からの後押しで声を押し出した。

「冗談じゃない! 私は私よっ、他の誰にもならないんだから!」
「承諾して頂けないのですか?」
「当然でしょ、早く元居た場所に帰してっ!!」
「……残念です」

 うぅ、そんな悲しげな顔されても。いや、できないものはできないし!

「……」
「あの?」

 呼びかけに応えるように、目を伏せていたルカがスッと目を開ける。私はその目に見つめられ思わず息を呑んだ。

 澄んだ冬の晴れ空のようだった瞳は暖かみをすべて消し去り、血のような赤へと変化していた。視線に温度など無いはずなのに、ぞわっと全身を冷たい手で撫でられたような感覚が走る。

「できればこの手は使いたくなかったのですが」
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